少年期[274]向こうに着いてから

『・・・・・・ゲイル、お前の判断は間違っていない。だからお前が気に病む事は一つも無い。ところで一つ確認しておきたい事があるんだけど良いか?』


『勿論大丈夫です。どういった内容でしょうか?』


『そのゲイルとラームが助けた貴族に自分達が従魔である事と、自分達の主が俺だって事を伝えたのか?』


ゲイルとラームの主がゼルート・ゲインルートだと知れば少しは躊躇するのではないか。

ゼルートは自分が過去にやらかした一件を思い出し、初対面の相手が自分の事を知っているという事もあって今回、ゲイルとラームが助けた貴族も自分の事を知っているのではと予想する。


『その二つも勧誘を諦めて貰うために伝えました。すると当主の男性は青ざめた表情になりご息女に私達を護衛にするのを諦めようと説得を試みましたが、私達を自身の護衛にする事を諦めるのに対して頑なに拒否しています』


自身が撒いた種だが、その訊く者によれば悪名にも聞こえるような状況にゼルートは思わず苦笑いになってしまった。


『そ、そうか・・・・・・まぁその当主さんの判断は間違ってはいないな。でもお前の話を聞く限り悪くなく、馬鹿ではない貴族なんだよな・・・・・・駄目だ解決案が浮かばない』


『問題の発端である私も中々良い案が浮かびません』


ゼルートとしてはゲイルとラームを手放すつもりは一切ない。

しかし相手が愚かでは無く、横暴な貴族ではない為無理やり帰らせる事は良くないと判断する。


相手が自陣の父より爵位が上の子爵家という事もあり、どうすれば修羅場にならず解決できるか方法案に悩む。


(過去に侯爵家の子息相手に煽って全財産奪った奴が何言ってんだって気がしなくもないけど・・・・・・というか、こっちは何一つ悪い事していないんだから堂々と帰れば良い・・・・・・っていう俺の考えはその子爵家の令嬢に通用しないだろうな)


まだ学校に通っていないという事を考えると、年齢的に自分が欲しいと思った物を我慢できない年代。

令嬢の父親の対応から考えて、おそらく今まで欲しいと思った物が手に入らなかった事は無いのだろうとゼルートは勝手にイメージを膨らませて考えた。


『・・・・・・・・・・・・取りあえず、こっちの護衛依頼はもう終わったから明日になったら直ぐに向かう。解決案はその時に考えよう』


『分かりました。迷惑をお掛けして本当に申し訳ない』


『いいから気にすんな。お前は悪い事をした訳じゃ無いんだ。寧ろ良い事をしたんだ。それが偶々面倒な事に発展した。だからもう気にする必要は無い。俺達がそっちに着くまでのんびり休暇を楽しんでいろ』


『・・・・・・了解しました。ラームにもそのように伝えておきます。それでは』


ゲイルとの通信が切れたゼルートは目頭を手で揉み解し、一つ溜息をつく。

そしてゼルートが椅子から転び落ちそうになったところからずっと気になっていた二人がゼルートに話しかける。



「いきなり椅子から転び落ちそうになったかと思えば、今度は急に黙り込んでどんどん表情が落ち込んでいったが何があったんだ」


「実はな・・・・・・・・・・・・って事があったんだけど、・・・・・・・・・・・・ゲイルとラームが気に入られて・・・・・・って事になっていて、明日の朝セフィーレ達と別れを済ませたら直ぐに向かおうと思ってるんだ」


ゼルートから何が起こったのか、内容を聞いたルウナはまた面白そうな事になりそうだと笑っており、アレナはゲイルの不運に同情していた。


「・・・・・・うん。少し色々ツッコミたいところがあるけど今は置いておくわ。それにしても、あなたといると色々と大きな事に巻き込まれるわね」


「それに関しては・・・・・・否定出来ないな。という訳だから向こうに着くまでいくつか解決案を考えておいて欲しい」


「分かったわ。とは言ってもあまり期待はしないでおいて欲しいわね」


「私もアレナと同意見だ。私は力任せの解決案しか浮かばなさそうだからな」


こうしてゼルート達は新たな問題を抱えながら就寝する。

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