少年期[252]調子に乗りたい時期

目を覚ましたゼルート達は朝食を食べた後、少し休憩してから軽く摸擬戦を行っていた。


セフィーレは遂に試練に挑むという状況に若干だが緊張しており、従者である四人も表情が硬い。

それを見たゼルートは体と緊張感を解す為と、戦いが始まって直ぐにギアをトップの状態で戦えるように摸擬戦をしようとセフィーレに提案をする。


ゼルートの提案にセフィーレは自身の心境やソブル達の表情を確認し、このまま戦っても戦いの最中に全力を出せないだろうと判断してアレナ達も交えて摸擬戦を始めた。


勿論全力で戦う事は無いが、それでもソブル達は六割程度の力を出して摸擬戦を行う。

ゼルート達もセフィーレ達にけがをさせない程度の力で練習相手になる。


そしてゼルート達の一つ前のパーティーがボス部屋に入り、セフィーレ達は温めた体を冷やさない様に適当に動いている。


前のパーティーがボス部屋に入ってから三分後、後ろから一つのパーティーがやって来た。

男女丁度三人ずつのパーティー。斥候、盾職、前衛、後衛と理想的なパーティーであり、年齢は二十前後。


そんなパーティーがゼルート達に自信溢れる表情で声を掛けて来る。


「なぁ、あんたら。良かったら俺達とボスに挑む順番を変わってくれないか」


パーティーのリーダーとおぼしき青年がボスに挑む順番を譲ってくれと頼んで来た事に対し、ゼルートとアレナは六人組のパーティを瞬間的に睨み付ける。


(いきなりやってきてボスに挑む順番を変わってくれだぁ? こいつら冒険者としてのマナーってもんが無いのか? 俺が言えることじゃないかもしれないけど)


(表情からして私達をよその街から来た冒険者だから下に見ているってところかしら。年齢は私と同じぐらいね。私は言うと嫌味にしかならないけど、実力は年齢の割にあるみたいね。少し調子に乗りたくなる時期・・・・・・分からなくもないけど、相手が二重の意味で悪いわ)


相手が理不尽な要求や利に合わない交渉をしてきた場合、基本的に断る。それでも相手が話を聞かない場合は直ぐに実力行使に出るゼルート。


そしてアゼレード公爵家の次女であるセフィーレ。


実力ならばゼルートが、権力ならばセフィーレが六人組のパーティーより圧倒的に高い。

なので六人の冒険者を物理的に、社会的に潰す事も可能。


アレナとしてはダンジョン内でゼルートが六人組を文字通り始末しても、死体はダンジョンが吸収してしまうので正直言えばどうでも良い。


だが、ゼルートになるべく物事を穏便に解決する事が出来るようになって欲しいと思っているので、直接言葉にはしないがゼルートに表情で自分の考えを伝える。


アレナからの考えが伝わったゼルートは直ぐに実行しようとしてた行動を除外し、別の方法を考える。


(適当に実力を見せつける・・・・・・というか喉元に刃を突きつけて、ドスの効いた声で変わる気が無いと伝えれば良いと思っていたけど、それは止めた方が良さそうだな、俺の為にも)


「悪いけど俺達は一晩前から順番を待っていたんだ。譲る事は出来ない」


如何にも駆け出しの冒険者に見えるゼルートに自分達の要求を突っぱねられた事で、六人組の冒険者達の表情が険しくなる。

しかしリーダーあろう青年は直ぐに表情を切り替えて懐から金貨を数枚取り出す。


「勿論唯とは言わない。これだけ払うから俺達に順番を譲ってくれないか?」


金貨数枚・・・・・・安いか高いかで言えば高い方ではあるが、小金持ちなゼルートや貴族であるセフィーレ達から見れば大した金額では無い。


(こいつらセフィーレさん達を見て何となくでも貴族だって気づけないのか? 傍から見ても普通の冒険者とは違うって察してくれよマジで)


相手がバカで引く気が無いのを確認したゼルートは実力行使・・・・・・ではなく、しっかりと平和的な解決方法を実行する。

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