最終話~エンディング2~

 時は移り、現代。主戦場となったデッドエンドデッド研究所は、既に見る影もなく崩壊している。

 UGN、FH、そして佐倉家の力を合わせても、奏 時貞クローンたちの圧倒的な物量を前に成す術もない。

 千夏も、ディアボロスも。駆け付けた杏子や霧谷も。誘導されたかのように一ヶ所でクローンたちに取り囲まれ──


千夏:「さすがに、数が違い過ぎましたね……」


 ──誰もが、死を覚悟していた。



 全てのクローンたちは一斉に刃を振りかざし──


杏子:「っ……」


 しかしそれは、襲い来る事はなかった。

 奏 時貞によって造られたクローンもまた、光の粒子となって霧散したからだ。

 それは、この場に──この時間にいない彼らが勝利したことを如実にょじつに物語る。


 闇夜に光が舞う中、誰からともなく、彼らを想う言葉が零れた。


杏子:「……勝てたんだね、春見──」

千夏:「ありがとうございます。影裏さん、佐倉さん」

ディアボロス:「”あのお方”も一緒だったのだ、当然の結果だろう。だが──」


 身体中から血を流しながら、悪魔は嫌悪するUGNに声をかける。


ディアボロス:「今回の勝利はFHだけでは成せなかったのも事実だ」

霧谷:「普段なら厄介極まりない相手ですが……今回は助かりました、ディアボロス」


 霧谷雄吾は遠く、海上プラントに想いを馳せる。

 UGNとFHの合同出資で建設を始め、しかし頓挫した計画だった。


霧谷:「レネゲイドは──いや、ジャームは世界全ての脅威です。それこそ人類を滅ぼせてしまうほどに。UGNはもちろん、FHもそれは本懐ではない筈です」

ディアボロス:「貴様らUGNの隠蔽気質は気に食わん。だが──我々とて世界を滅ぼしたいのではない。一部にはそういった輩がいるのも確かだがな」

霧谷:「だからこそ、私たちは手に入れる必要があります。ジャームという症状を治す手段を」


 鼻を鳴らして悪魔は呟く。


ディアボロス:「フン、調子の崩れる奴だ」

千夏:「何にせよ、今は生きている事を喜びましょうよ。

 私たちも、彼らも、勝ったんですから」


 張り詰めた空気が、少し緩んだ。


杏子:「彼女の言う通りですね。今は勝利と生存を噛み締めるべきです」

霧谷:「すみません。つい熱くなってしまいました」

杏子:「努めて冷静でいる事です。部下が熱くなってしまった時にたしなめるのも、これからは仕事の内に入る事でしょう。UGN日本支部の幹部なのですから」

霧谷:「肝に銘じます」


 苦笑しながら胃をさする霧谷を見て、杏子は小さな溜息を漏らした。


千夏:「難しい話はさておき、まずは帰ってくる影裏さんたちを出迎えない、と──」


 声は徐々に弱弱しくなり、最後には言葉を失った。

 彼女だけではない。その場にいる誰もが、同じ疑問に突き当たったのだ。


杏子:「……春見たちは、どこに、どうやって帰ってくるんですか──?」


 その疑問に答えられる者はいない。

 それどころか戦闘の末にジャーム化していないという保障すら、どこにもない。


 大規模な戦闘の後に残されたのは、生還者たちと、底知れない不安感だけだった──。


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