最終話~ミドル15(1)~

影裏:なるほど……これで第一話の冒頭に繋がるわけだね。

GM:うむ。しかしどういうわけか、大人ではなく、少女の見た目のままだ。

春見:意味深だね。

影裏:非常に意味深だ。


 PLたちの疑問はもっともだ。おそらく読者の方々も同じような疑問を抱いているかもしれない。その理由は──もちろん、このあとの展開で明かされる。最後まで暖かく見守ってくれると嬉しい。


GM:それでは次のミドルに移っていこう。シーンプレイヤーは影裏。春見の登場も推奨するよ。

影裏:シーンイン!(侵蝕率288%)

春見:シーンイン!(侵蝕率104%)



 夕陽の明かりで目立たないよう二人は屋根から降り、見慣れた佐倉家の近くに身を潜めている。

 おおよそこの時間、過去の影裏たちはヤンキーらと舌戦を繰り広げている頃だ。

 ──過去の自分たちに気取られずに押し入るには、今が絶好の好機と言えるだろう。


影裏:「まさか、こんな形で帰って来る事になるとはな……準備はいいか?」

春見:「うん、大丈夫。……でも、目が視えないからいつもより動きが悪いかも。

 足引っ張っちゃったら……ごめんね?」

影裏:「なら、俺が春見の右側に立つだけだ。心配すんな、一緒に行こう」

春見:「うん。ありがとう」


 安心したように胸を撫で下ろし、結理君の左側に寄り添う。


影裏:「よし、行くぞ」



 二人は佐倉家内部、鍛錬の間まで障害なく侵入する事ができた。


影裏:「これは──」

春見:「道理で、あの頃からただならない気配を感じてたわけだね……」


 鍛錬の間には"約束の瞳"から放たれるレネゲイドが満ちており、この部屋に出入りすればレネゲイドに感染する可能性が高い。

 そして少なくとも春見はそうして感染したのだろう事が今の二人なら理解できた。

 同時に佐倉家全体にワーディングが展開され天井から杏子が──いや、”アンナ”が飛び出してくる。


アンナ:「そこまでです、侵入、者……ッ!?」

影裏:「……まあ、そういう反応になるよな」

アンナ:「春見……? それにお前、影裏、なのか」


 明らかに動揺した様子で、二人を交互に見やる。


春見:「……お姉ちゃん」

アンナ:「──!」

春見:「反応に困るだろうけど、私達ね? 未来からやってきたの」

影裏:「”杏子”さん。信じられないかもしれないけど……俺たちはあなたがよく知る、そしてこれから出会う影裏と春見です」


 自分の本来の名前を影裏に打ち明けた事はない。それを眼前の男は知っている。

 そして春見は未来からやってきた、と真偽を確かめようがない事を言っている。


アンナ:「──方法を訊いても意味はないでしょう。なので、こうたずねます。

 未来から、一体”何を目的に”ここへ来たのですか」

影裏:「……話が早くて助かります。"約束の瞳"を──”眼”を、貰い受けに来ました」

アンナ:「これが我が家の家宝である事は知っている筈ですよね、影裏」


 威圧感を持たせた険しい視線で、影裏を射貫いぬく。

 しかし彼は堂々と言い放った。


影裏:「ええ。あれがどういう物なのか、佐倉家にとってどんな意味を持つ物なのか。知った上での言葉です」


「杏子さん。"約束の瞳"を俺たちに渡してください。手荒な真似は、できればしたくない」


 言外に、戦えば勝てると。そして手荒な真似をしたくないという言葉もまた、本心である事を察したアンナは。


アンナ:「…………事情は分かりませんし、恐らく知るわけにもいかないのでしょう」

春見:「ごめんなさい。でも、退けない。退けない理由があるんです。お姉ちゃん」

アンナ:「──、春見、様。私は……私なんか……」

春見:「(様、か……分かってはいるけど……この頃はまだ、お姉ちゃん杏子じゃなくて──アンナさんなんだ)」


 昏い表情を見せるアンナに、春見は想いを馳せる。


アンナ:「……いいでしょう、春見様に免じて”眼”を──」

厳蔵:「──ならんぞ、アンナ」


 アンナの言葉を、低く、威圧感のある声が遮る。当主、佐倉 厳蔵だ。


春見:「お、お爺様!?」


 思わず目を見開く春見。紛れもなく厳蔵の声ではあったが、その印象に優しさなど微塵もなく。遥かな恐ろしささえ感じさせた。

 そしてその声音こそ、春見が幼い頃に聞いた厳蔵の声そのものだ。


影裏:「……ご当主様」

アンナ:「お言葉ですが当主様。春見様たちは明らかに何か事情を──」

厳蔵:「ならんと言っている! 仮に此奴こやつらに事情があったとして、それが手を貸す道理にはならん。

 ましてや”我が宝”を持ち出そうなど断じて赦さんッ!」


 肌がひり付くほどの強いレネゲイドが、荒らげた声とともに発せられる。

 そしてそれは"約束の瞳"が発しているようにも感じられるだろう。

 ましてや視力が落ち、感覚が鋭敏になっている春見にとって、その繋がりは確固たる物として確信できる。


 ──佐倉 厳蔵は、レネゲイドを蓄え過ぎて暴走状態となった”眼”によって操られている。


影裏:「"約束の瞳"のレネゲイドの影響か。春見、今のご当主様に説得が通じると思うか?」

春見:「……難しいと思う。仮にも遺産だし、一度影響下に入ると自分で抜け出すのは不可能に近いよ」

影裏:「なら、答えはひとつか」

春見:「うん──やるしか、ないと思う」


 幼い頃はただ怯え、従う事しかできなかった。恐怖そのものと言っても過言ではなかっただろう。

 しかし今、厳蔵を前にする彼女に恐れはない。かつて萎縮いしゅくしていた春見の姿は、ない。


影裏:「手を打つにしても、抵抗される状態じゃ厳しい」

厳蔵:「尚も儂の前に立つという事は、敵対の意志を示したと言えよう」

春見:「ええ、お爺様。昔の私は、貴方に恐怖する事しかできなかった。

 でも──今は違います」



 自身の右側に立ってくれる彼に視線を送り、



「彼が、結理君が。一緒に立ってくれる! これだけで私は──頑張れるからっ!」



アンナ:「(春見は、変わるんだ。それはきっと、私なんかじゃなくて、彼が──

 影裏”さん”が、変えるんだ)」


 昏い瞳のまま、それでもアンナは口にする。


アンナ:「──私も、春見様と共に戦います。……私が始末を付けなくては、いけません」

春見:「(……ありがとう、お姉ちゃん。まだ様付けなのは悲しいけど、いつか──いつか絶対に)」

影裏:「ありがとう、杏子さん。それじゃあご当主様、今まで世話になった恩。今ここで返します……!」


 一触即発となった鍛錬の間。まるでアンナの張ったワーディングを塗り潰すかのように、厳蔵の強力なレネゲイドが放たれる。


厳蔵:「恐怖を感じぬというなら、再び植え付けるまでよ。その強い衝動によって、より強い力を発現させてみせようぞ。

 力を寄越せ……”眼”よ!」


 そのレネゲイドに操られるかのように、フラフラと部屋へ入ってくる犬が一匹。

 ゾォルケンは厳蔵に一歩近付く毎に、徐々にその大きさを増してゆく──。


厳蔵:「我が家にオーヴァードに携わらぬ者は不要。

 この獣は儂の支配下にある、レネゲイドによって身体を構築された不安定な存在よ。

 故に、より獣らしくも、より獰猛にもなる。甘く見れば死ぞ。

 まったく、良い”拾い物”をしたものよ」



GM:補足すると、ゾォルケンは《オリジン:アニマル》の人工レネゲイドビーイングの試作品と言える存在だ。

 レネゲイドについて何も分からない時代に取り組まれた実験の成果物であり、失敗物でもある。

影裏:この時代ならそうなるか。なるほどな。

春見:レネゲイド拡散してすぐだものね。



影裏:「ゾォルケンまでオーヴァードだったか……気の毒だが、俺たちのやるべき事は変わらない」


 両腕に黒炎を灯す影裏の左側で春見が魔眼を煌めかせる。


影裏:「視界のカバーは俺がやる。いつも通りのコンビネーションで行くぞ」

春見:「うんっ! 前衛はお願い!」

影裏:「ああ、任された!」

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