最終話~ミドル5~

 何度も、何度も何度もガイアの記憶に触れ続けた影裏は、既に人としての領域を超えつつある。

 時間という概念は薄れ、ただひたすらに知る術のない情報を流し込まれ──それに同化していく。

 そしてまたひとつの泡沫が、見知った場所の記憶を垣間見せた。


 影裏が佐倉家の一員となるより昔、まだ杏子がアンナと名乗るより前の佐倉家での出来事だ。様々な記憶を保持する影裏は、杏子が春見の姉である事を既に知っている。

 佐倉家の鍛錬の間で、声を荒らげる女性が視界に映った。春見の母、佐倉 透だ。


佐倉 透(以下、透):「お爺様、いくら春見に期待しているからとやり過ぎです。あれでは春見の身体が保ちません!」


 穏やかな彼女が、こうして声を荒らげている事は珍しい。


佐倉 厳蔵(以下、厳蔵):「ならん。儂とて信じてなぞおらんが、”あれ”は予言の子。”眼”を操る資格を持つやもしれんのだ」

透:「ですが──!」

厳蔵:「ならんと言っているッ! 佐倉の者として、これ以上の口答えは赦さん」

透:「っ! …………申し訳、ありませんでした」


 そんな様子を、どこか遠い出来事に感じながら見守る影裏。


影裏:「……(今度は佐倉家の記憶、か。昔のご当主様だな。門限破って夕飯抜かれそうになった事もあったっけ。……いや、待てよ。透さんはレネゲイドについて知らない筈じゃ……?」


 疑問。それはガイアの記憶を更に呼び起こす結果となる──。



 情報項目:佐倉 厳蔵の様変わり

 <知識:レネゲイド> 10



影裏:『専門家』を使用してダイス増加、侵蝕率のボーナスを含め13個でいざ参る。


 大量のダイスを振り、達成値は29を叩き出した。


影裏:我が知識は大海の如しと知れ。

GM:なんてダイス数……段違いだな(元凶)



 情報:佐倉 厳蔵の様変わり

 影裏たちが知っている厳蔵とは態度が大きく異なっている。

 ガイアの知識を多く得た今なら、目を凝らせば視えてしまう。厳蔵は取り巻いているレネゲイドによって操られている。

 そのレネゲイドを影裏はごく身近に感じる事だろう。

 何故なら、"約束の瞳"と同じレネゲイドだからだ。



 厳蔵が昔と違う理由は分かった。しかし佐倉 透についての疑問が、再び記憶の奔流となって襲ってくる。



 EX情報項目:佐倉 透とレネゲイドの関わり

 <知識:レネゲイド> 20



影裏:だいぶ難易度高いが……同じく『専門家』を使用して挑戦しよう。判定だ!

 (ダイスころころ)達成値、24! 我が灰色の頭脳に不可能はない。

GM:すげぇな……成功だ、開示しよう!



 情報EX:佐倉 透とレネゲイドの関わり

 アンナが杏子と名乗っていた頃はレネゲイドについての知識を持っていた。

 しかし彼女はオーヴァードではなく、知識を持った一般人だ。

 彼女がレネゲイドについての記憶を失った時期と、影裏が佐倉家に引き取られた時期はおおよそ一致している。

 レネゲイドに関する記憶はアンナによって消されており、それによって杏子についての記憶も消え、親子であるという認識を失った。



影裏:「ぐッ……く。ご当主様がレネゲイドで操られていて、ある日を境にそれが解除された……まだ情報が足りんな」


 だが、これ以上ガイアと同化すると精神が保てるかすら怪しい。

 佐倉家に何があったのか、その僅かな疑念を胸に抑え込む内に、ゆっくりと世界が溶けていく。


 そしてまた暗い海──記憶の底へと戻っていた。周囲にはまだ、いくつもの泡沫が漂う。


影裏:「っ……くそ、キツイな……! けど──」



「まだだ。まだ諦めるもんか。今の俺にできる”全力”を尽くしてやる」


「だから頼むぞ、皆──!」



 記憶は劇毒となり、精神を蝕み続ける。それでも持てる力の全てを振り絞り、立ち上がる。

 かつての自分から程遠くとも、それが数多の戦いを経て得た──彼の強さだ。


 追加侵蝕により、影裏の侵蝕率は187%となった。

 並みの精神なら既にジャームになっているだろう。

 強さの根底にある力──絆だけが、彼を辛うじて繋ぎ留めているのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る