最終話~ミドル3~

GM:次のシーンプレイヤーは影裏だ。シーンインしておくれ。

影裏:登場するね(ダイスころころ)2点上昇して、96%か。ヒヤヒヤする……!



 暗い空間を漂う泡沫──ガイアが持つ記憶の欠片に、影裏は否応なくさらされている。

 脳内に流れ込んだ光景は、影裏が元いた世界線ではなく、春見が覚醒せず死んでしまったβ世界線での出来事だと認識できてしまう。


 場所はデッドエンドデッド研究所、京香を助けた研究室だ。しかしポッドは既に排水され、もぬけの殻となっている。

 虚空からβ世界線の京香、つまりは後のプランナーが現れ辺りを見回す。手には小さな義眼が握られているが、レネゲイドも宿っていない普通の一品だ。


影裏:「(義眼か。って事は、あれが春見の──)」


 そこへ見慣れた──いや、ある意味では見慣れない人物が部屋へと入ってくる。β世界線の影裏自身だ。

 二人は言葉を交わすのだが……β影裏の声だけは、聞き取る事ができない。


β京香:「──。……うん、そうだね。本当はこんな事するべきじゃ、ないのかも。春見ちゃんを、巻き込むなんて……」


 悲しげに迷いを見せる彼女に、その男も暗い顔で答える。


β京香:「ううん、結理君だけに責任は負わせられないよ。……私も、背負う」


 二人は頷くと、影裏の眼前で影のアギトを形成し──レネゲイドを”逆流”させてみせた。


影裏:「……!」


 自分の力はレネゲイドを奪う事だけだと、勘違いしていた。

 しかし眼前の自分はレネゲイドを義眼に流し……微弱ながらレネゲイドを宿らせる。


β京香:「──私、必ずこの時代に帰ってくるから。だから約束だよ、結理君」



「私たちの罪の証を──"約束の瞳"を持って帰るまで……無茶はしないで」



 返事は、肯定とも否定とも取れるような。曖昧な表情での頷き。

 それに小さな溜息を吐くも、未完成の"約束の瞳"を手に京香は自身が眠っていたポッドに入った。


β京香:「それじゃあ”またね”、結理君。気取られる前に、もう行かなきゃ」


 この世界線での結末を、今の影裏は知っている。”またね”。再会の約束は、眼前の自身とは果たされない事を。

 ゆっくりと閉じたポッドの中で京香は、足元で機械を操作するβ影裏に不安げな視線を向け、小さく、呟く。


β京香:「ねぇ、結理君。私、いつまで結理君の事──好きでいられるのかな」



「──いつまで、化物にならずにいられるのかな」


 京香に、何か一言だけでも伝えたい。その強い意志──絆が、小さく、しかし確かな過去改変のキッカケとなる。



 判定項目:小さな過去改変(2)

 <意志> 10



影裏:来たか……行くぞ!(ダイスころころ)達成値は32。我が意志は鋼と知れ。

GM:鋼メンタル再び!



影裏:「……”またね”、か……すまない。俺はその言葉を裏切る事になる」

β京香:「え、結理君……? でも、今……」


 眼下で機械を操作する彼を見やる。


影裏:「信じられないかもしれないが……俺は”京香がこれから出会う影裏”だ。

 訳あって、ガイアの記憶に介入している」

β京香:「これから出会う……結理君。もしかして、それってつまり……。

 世界線が、変わったんだね。……ううん、これから私の行動で、変わるんだ」

影裏:「……ああ。どこまで言うべきか難しいが……こことは別の世界線で、俺たちは再会する。春見も一緒だ」

β京香:「春見ちゃんも……!」


 目に涙が滲む。もう二度と会えない筈の、何年も前に喪った友人。

 京香にとって、春見は特に会いたい相手に違いなかった。


β京香:「ねぇ、結理君。ひとつだけ、教えてもらっても、いいかな?」

影裏:「もちろんだ」

β京香:「未来の……そっちの世界線に辿り着いた私は──化物に、なってない?」

影裏:「……安心しろ。京香は京香だ。最初はギクシャクしたけど、俺たちはまた、皆で肩を並べられた」



「お前は独りじゃない。確かに皆とは離れ離れになったかもしれない。それでも──

 京香は成し遂げたんだ。皆との思い出を胸に、戦い抜いた」



β京香:「皆との、思い出……ありがとう、結理君。その言葉、絶対忘れない」



「どれだけ過去に遡っても、未来のあの頃が……思い出があるから。私は──戦い抜く」



影裏:「──過酷な戦いだ。けど、俺たちがついてる。必ず、未来でまた出会えるから」

β京香:「うん──信じる……ずっと、信じてる」

影裏:「会えた時に聞かせてくれ。……未来で待ってる」

β京香:「うん。必ず、言うから。返事が無くてもいい。だから──」



「帰り、待っててね。いつか、”迎えに行く”から」



影裏:「ああ。約束だ」

β京香:「うん──約束」


 ポッドが、世界が──光で包まれる。迸る光の中、京香の身体は消えていく。

 その口許は、穏やかだった──。



 弾けるように世界が消え──ガイアの記憶は、影裏の内に流れ込み終えた。

 しかしそれは、人の身には劇毒に他ならず──。


影裏:「ぐ……ゥ……!」


 必死に侵蝕を抑え、自我を保とうとする。必ず、皆が手を打ってくれる。

 ”迎えに来て”くれると信じて。



GM:影裏。侵蝕率を+40%してくれ。

春見:+40%(二度見)

影裏:これで、侵蝕率は136%……まさかアージエフェクトがミドルから使える事になるなんて(白目)



 ガイアの記憶によるレネゲイド侵蝕。時間をかければ確実に……ジャームへと堕ちる。

 そして彼がジャームとなれば、周囲の人間が持つロイスは瓦解を始めるだろう。

 まるで堕ちた影裏が、大切だった友人たちを、引き摺り堕とすかのように──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る