昨日の僕に期待された僕は明日の僕に期待する

Kehl

プロローグ

 環境が変われば自分も変わる、というのは少しだけ違うように思える。自らが望んで能動的に環境を変えたのか、いつの間にか自分を取り巻く環境が変化したのでは大きく違う。


 前者ならば進んで困難を受け入れ、それに打ち勝っていく気概を持ち合わせているが、後者はそうではない。ただただ時間の流れと共に変化していく環境を漠然と眺めているだけで、その移り変わる環境の一つとして自分も変われるんじゃないかと、哀れな期待を抱いているのである。残念ながら僕は後者だ。与えられただけの環境に不満を抱き、愚痴を漏らし、それであるのにも関わらず変わろうとしない愚かな人間だ。昨日の自分から渡された期待を明日の僕に受け渡す日々。そこに変化が起きることは無い。


 けれど、今更こんなことに気づいたところで遅い。僕の命は今にも消えかかろうとしているのだ。


 目の前には身長を軽く二メートルを超し、ブクブクと体が膨れ上がった化物。僕はそんな化け物に一人で挑んだが、体躯の差や技術の未熟さもあり、容易く打ち負かされてしまったのだ。体と同様に膨れ上がった顔は、「フーッ、フーッ」と荒い鼻息を何度も立てている。右手には一メートルほどの大きな斧。その斧で何人の人間を殺したのだろうか?刃先に付着した血は赤黒く変色している。僕も今にその殺された一人として数えられるのだろう。ゆっくりとこちらに巨体が近づく。


「ヒッ……!」


 僕は這うようにして距離を取る。しかし、そんなことをしても無駄なのは火を見るよりも明らか。たちまちに距離を詰められてしまう。


「……」


 逃げる気も失せ呆然としていると、不意に傍らで横たわっている死体と目が合う。

 胴体は真っ二つに切断されており、顔は絶望に怯えたまま固まっていた。

 僕もあんな風になってしまうのか。死にたくない。しかし、今の僕にはどうにもすることは……。


「オオオオオオオオオオ!」


 化物が低い咆哮を上げ、斧を大きく振りかぶる。

 ああ、これで終わりなんだな。死を悟った僕は静かに目を閉じた。


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