革命九号

憑木影

革命九号の夢

それは、夢なんだろうか。

まあ、多分夢なんだろうと思う。

累々と重なる、屍のやま。

色はなく、灰色と黒の景色。

気がつくと、どこからかピアノの音が聞こえてくる。

その後に、囁くような声。

Number Nine

Number Nine

Number Nine

Number Nine


「ざけんなよ、こら!」

こわい。

本当に、こわい。

目の前のおとこがわたしを睨み、凄んでいる。

一応テーラードスーツを着ているが、わざわざ腕まくりをして刺青を見せてくれていた。

金髪に染めた髪の下にある目も、ご丁寧に金のカラーコンタクトをしている。

RPGの世界であれば、モンスターと間違って殺されても文句はいえないスタイルだ。

「まあ、そうおどしなさんな。嬢ちゃん、こわがって話せやせんだろ」

隣に座っている初老の男が、なだめにかかる。

こちらは、中小企業の社長といった雰囲気。

物腰は穏やかだけれど、目は笑っていない。

こちらも、こわい。

こわくなさそうなのは、後ろの若者だった。

60年代のヒッピーのような、恰好をしている。

あちらは、三人。

こちらは、二人。

わたしと、9号だ。

9号は、少し離れた席に座っている。

わたしは、少し笑みを浮かべ金髪は舌打ちのあとため息をついた。

「てめぇ、なめてっと本当に承知しねぇからな」

金髪のおどしに、わたしは神妙に頷く。

ここは、街外れのファミレス。

夜明け前なので、客といえば派手なドレスを着た外国人のおんなたちか、国籍不明のやさぐれたおとこたちぐらいしかいない。

まあ、あまりまわりに気を遣う必要はなさそうだ。

「てめぇがうちのシマで、ヤクを捌いてた証拠はあるんだよ」

「あのぉ」

わたしが何かを言おうとすると、金髪が凄んだが社長っぽい初老のおとこがおさえる。

「エビデンスっていうのは、わたしたち当事者以外の第三者が認めてはじめて、エビデンスとなるんじゃあないですか?」

「ざけんなよ、こら!」

わたしは、金髪の金目からレーザー光線がでるんじゃあないかと思って、少しのけぞる。

社長っぽい初老のおとこが苦笑し、金髪は凄い目で睨んだ。

「じゃあてめぇは、サツが介入してもかまわねぇっていう気か、あぁ?!」

わたしは、もう一度微笑みかけた。

金髪は、毒気を抜かれたように、舌打ちをする。

「うちは、古くからやっている花屋です」

金髪は、うんざりした目でわたしをみるが、わたしは気にせず話をつづける。

「戦前からやっている花屋で、昔からのお客様がいます。わたしたちは、主に夜の繁華街で商売する店に花を卸しています」

だからどうしたという顔を金髪がしたが、社長風初老のおとこが先をうながす。

「夜の街でのお客さんとは付き合いが長いので、色々相談に乗ることがあります。時々、わたしたちのいるこの島国では手に入らない遠い異国の花を所望されるお客さんもいます」

金髪はいらいらしながら、我慢をしている。

煙草をだすと、くわえる。

後ろから、ヒッピーの兄ちゃんがライターを差しだし火をつけた。

「わたしのおとうさんは、遠い異国の地で花の栽培をはじめました。でも、中東の僻地では歓迎されざる客だったのです」

わたしは、スマホを金髪の顔につきつける。

金髪は鼻で笑ったが、ヒッピーは青ざめてのけぞった。

そこには、破壊されたおとこが写っている。

手足は全て逆方向に、捻じ曲げられていた。

鼻と目は抉り取られ、唇も切り取られている。

あちこちに火傷の後が残り、何より目をひくのは股間であった。

性器のあるはずの場所は、赤黒い血の塊だけが残っている。

「わたしのおとうさんがこんな目にまであって手に入れた花を、わたしたちは卸しています。どうかご理解ください」

金髪は、煙草の煙を吐き出す。

それは、もろにわたしの顔にかかり、わたしは咳き込んだ。

わたしは、振り向いて9号に声をかける。

「9号、なんか反応薄いんだけど」

「だから言ったろ」

髪を短く刈り込み、ライダースジャケットを羽織った9号はバイカーギャングのようである。

ただ惜しむらくは、背が低くてはったりがきかない。

「そういうのは、動画のほうがいいって。タリバンから動画もきてんだろ」

わたしは、ぽんと手を打つと、スマホの操作をはじめる。

「ちょっと、待ってくださいね」

「やめろよ、知ってるんだよ。おまえの父親のこと」

わたしは、問いかけるように金髪をみる。

金髪はやれやれという目で、話を続けた。

「アフガンで罌粟の栽培やって、タリバンにみせしめに殺されたんだろ、そういうのはな」

もう一度、金髪はわたしに煙草の煙を吹きかける。

せせら笑うように、唇を歪めていた。

「おれたちの業界じゃあ、自業自得ってんだよ」

わたしは、立ち上がった。

両手を、握り締める。

拳は、わなわなと震えていた。

「ひどい」

わたしは、金髪を睨みつける。

まあ、十代の小娘が睨んだって、金髪にとってチワワに吠えかけられた程度のもんだとは思う。

「おとうさん、殺されたのに!」

わたしは、涙をぼろぼろこぼしながら叫ぶ。

「命と引換で、仕入れたのに!」

「いいかげににしろ、こら」

金髪は立ち上がり、わたしを殴ろうと手を後ろに引く。

でも、手がわたしにとどく前にわたしがハンドバックから出したルガーP08の9ミリパラベラム弾が、金髪を血で染めた。

銃声は、思ったより小さい。

金髪は、何かふにおちないという顔をして、ソファにくずれ落ちた。

意外と血は、出ていない。

わたしは、ルガーを9号に手渡すとまわりをみる。

誰も気にしていないように、見えた。

しかたがないので、わたしが悲鳴をあげる。

その悲鳴をおうように、東南アジア系外国人ウエイトレスが、悲鳴をあげた。

「てめぇ」

柔らかい物腰は捨て、凶悪な形相となった社長風のおとこはわたしに手をだそうとする。

「やめとけ」

薄く笑った9号が、社長の手を掴む。

もう一方の手に、ルガーを持っていた。

社長は、呻きをあげて手をひっこめる。

ヒッピーは、携帯電話にひたすら何か叫んでいた。

あっという間に、ファミレスの外には黒いベンツが十台くらい揃う。

でも、驚いたことにパトカーも十台くらいかけつけ、睨みあいがはじまってしまった。

社長は、冷酷な目でわたしを見つめている。

「嬢ちゃん、ただではすまねぇぞ。あきらめておとなしくしな」

わたしは、げらげらと笑った。

9号も、苦笑する。

「いったよね、うちは戦前からの老舗だって」

ベンツからショットガンが、発砲される。

ファミレスと駐車場の間のウインドウが、次々と割れた。

警官隊が発砲した拳銃音が響き、怒号と悲鳴が交差する。

わたしたち以外の客は、裏口から逃げ出したようだ。

店は、からっぽになっている。

わたしたち以外誰もいなくなった店内でわたしは仁王立ちになり、社長に指をむけた。

「戦後の愚連隊はあんたらみたいな育ちのいい、おぼっちゃんじゃなかったのよね」

多分、70年代に青春をすごしたであろう社長は苦笑する。

「だからなんだよ。こっちは5丁の散弾銃、5丁の自動ライフルがあるぞ。その小さな時代遅れのピストルでどうするってんだ」

「わたしたちはね、戦車相手に喧嘩してきたっていってんの」

「だからどうやって」

わたしは、9号を指差す。

「このこはね、ロボットの九十九神なの」

社長は、きょとんとした顔になる。

「九十九神っていったら、おまえ茶碗や箸がおどるみたいな、なんていうかその」

「妖怪です」

意外にも、ヒッピーにフォローされ社長はうんざりした顔になる。

「そう、このこは妖怪。九十九神は情念を受けた道具が、怪異に転じたもの。かつて旧帝国陸軍が、最終本土決戦兵器鉄人式九号としてロボットつくりあげた」

社長は、あきれたようにわたしを見ている。

「45口径十年式12センチ高角砲に、八九式旋回機関銃という必殺の武器を持ちながら、実戦配備は間に合わず大陸でPLAGFに接収され人民弾圧に活用される。名前も変わり革命九号と、よばれた。戦うはずだった敵に操られ、救うべき人民を弾圧する。その無念や、いかばかりか!」

わたしは、ぽろぽろ涙をこぼしながら叫ぶ。

「その無念! その怨念! それはロボットを妖怪に変えるに、あまりあったのよ」

わたしが涙ながらに叫ぶのを聞いたヒッピーが、意外にも口出しをする。

「おかしいよ、妖怪は戦わないって、水木しげる大先生が」

「はぁ? あんた、馬鹿ぁ?」

わたしは、ナンシー・スパンゲンみたいに口を歪める。

水木しげるって。

そういえばヒッピーは、ねずみおとこに似ている。

「それはマンガのはなしでしょ。これは、現実なの。現実を見なさい、現実を」

「現実ってのはな」

社長が、疲れたように言った。

「窓の外にある散弾銃と、自動ライフルだ。どこにその、高角砲や機関銃があるってんだよ」

わたしは、得意気な笑みをみせる。

見せてあげる、っていうの。

わたしは、叫んだ。

「我が前に真の姿を現せ、変化せよ! 革命九号」

ごうっと風がおき、無人のファミレスを荒らし回る。

空気にエネルギーが充填されたようになり、肌が電気をながされたようにひりひりした。

9号は爆発したように、轟音と光につつまれる。

強力な閃光と爆音が、スタングレネードのようにわたしたちの耳と目を封じた。

数秒後にわたしたちが視力を回復したときに、そこに革命9号の真の姿があった。

「こいつは」

社長が、うめく。

「ガンタンクじゃあねえか」

とても残念な感想をもらしたので、わたしは社長を睨み付ける。

「ぜんぜん違うっていうの」

無人のファミレスの天井に頭部が届きそうな鋼鉄のロボットは、脚部に無限軌道を装備していた。

全長4メートル、全高2メートル半の鋼鉄製ロボットの下半身は、九八式軽戦車を転用している。

右手に十年式12センチ高角砲、左手に八九式旋回機関銃を装備し、前面は50ミリの装甲に覆われていた。

上半身は、五メートルはある長大な砲身を支えるため鈍重な円錐形をした黒鉄の塊である。

背中に装備された星型18気筒誉エンジンが、轟音とともに作動をはじめた。

ちなみに背中には装甲がないので、エンジンと冷却ファンはほぼ剥き出しである。

後ろから射たれたら、いっかんの終わりというやつ?

まあ、敵に背中を見せるのは死ぬことだという帝国陸軍らしい、あきれた思想でつくられている。

「あかんだろ、なんで陸軍なのに海軍の高角砲装備してんだよ」

わたしは、むうとうなる。

ヒッピーは実にどうでもいい、つっこみをしてくる。

「それに四式戦闘機のエンジン積んでるみたいだけど、それじゃあ戦車の無限軌道は動かせない」

「うるさい、馬鹿! こまかいことは、いいんだよ!」

わたしは、不機嫌に叫ぶ。

確か9号は、ポルシェティーガーと同じ、ガス・エレクトリック方式で駆動されるはずだ。

でもそんな説明のかわりに、9号に命じる。

「9号、八九式旋回機関銃掃射!」

毎分1400発撃てる7.7ミリ弾が、轟くような銃声とともにファミレスを破壊する。

社長とヒッピーの頭上を鋼鉄の弾丸が、空気を粉砕してとおりすぎた。

ふたりは衝撃で、へたりこむ。

わたしは、満足してけらけら笑った。

「生命をとるのは、勘弁してあげるわ」

社長は、ヒッピーをどなりつける。

「あれを、よべ」

「いや、あれは」

ヒッピーの顔が、途方に暮れたようにくもる。

「馬鹿やろう、今使わねぇで、いつ使うってんだよ。よべったらよべ」

ヒッピーは、諦めたように携帯電話をかける。

よくわからないので、彼らはほっておくことにした。

「9号、22時の方向微速前進」

9号は、戦車の無限軌道でファミレスの床を砕きながら方向をかえる。

そして、あらかた割れた窓のほうへ向かって前進をはじめた。

わたしは唸りをあげる誉エンジンを横目でみながら、9号の背中へよじのぼる。

おしりの下で星型18気筒誉エンジンがごうごうと咆哮をあげているため、振動でおしりがむずかゆくなった。

9号の頭には王冠状の電探兼通信用アンテナがあり、その下目の部分にはふたつのライトがある。

わたしは、アンテナの根元にあるハンドルを掴み振動しながら進む9号にしがみつく。

わたしと9号は、ファミレスの外に出た。

いつしか夜が、明けたらしい。

妙に空が青く、さわやかだ。

警察は、警告を発するだけで撃ってくる様子は無い。

多分、機動隊に応援を要請しているのだろう。

ベンツのほうは、ダブルオーバック9粒の散弾を撃ってきていたが、猪狩りじゃあるまいしロボットにはなんの効果もない。

後ろの方にいるベンツから自動ライフルが突き出され、連射してくる。

みたところDPRKでライセンス生産された、カラシニコフのようだ。

たかが5.54ミリのライフル弾では、50ミリ装甲に傷すらつかない。

いや、それはいいすぎか。

わたしの9号に傷をいれるなんて、なんだか腹立たしい。

「9号、停止して八九式旋回機関銃掃射!」

9号は目があるわけではないが、電探で敵の位置を把握し自動追尾的なことをして八九式旋回機関銃や十年式高角砲を撃てる。

80年前につくられたことを考えると、もの凄い高度な技術だ。

でも、敵味方識別はできないので基本的には皆殺しである。

これが大陸でどう使われていたかは、あまり考えたくない。

お腹を震わせるような振動と轟音が響き、八九式旋回機関銃が7.7ミリ弾を撒き散らされていく。

7.7ミリ弾は、もしかすると防弾をしていたかもしれないベンツのボディを楽々と貫き破壊する。

警察のパトカーも、同じ運命をたどりスクラップになっていった。

何台か、ガソリンタンクに火がついて爆発、炎上する。

ベンツから黒いスーツの連中が逃げ出しながらカラシニコフを撃ってくるが、あわくってフルオートで撃つのでそもそも狙いがめちゃくちゃであった。

むしろ同士討ちになりそうで、黒服どうし怒鳴りあう。

わたしが、せせら笑いながらそれを見ていたとき。

突然、轟音と爆発が9号の左手でおこり、気がとおくなった。

かろうじて9号の頭にしがみついて、振り落とされるのをふせいだ。

上空から機銃弾で撃たれたらしく、八九式旋回機関銃がもぎとられ金属アームがむき出しになっている。

9号は、その金属アームで破壊されたベンツの車体を持ち上げ、盾にした。

黒いベンツが機銃弾を浴び、ぼこぼになっていく。

貫通した銃弾が、9号の装甲にとどくがさすがに力を失っていた。

9号の指揮台についたスピーカーから、9号の声がきこえてくる。

(前方2時の方角、距離400に敵機あり)

確かに電探のスクリーンに、輝点があった。

でも、空には何も見えない。

(おそらく、ステルスヘリだ。光学迷彩を、使っている)

それならば、レーダーにも写らないはずではある。

まあ、9号は妖怪なのでひとの気配があれば察知できた。

これが無人機なら、やられたところだ。

「9号、チャフとフレアを放出」

9号の車体後部について擲弾筒から、四発のフレアが発射される。

光り輝くフレアが、放物線を描いて前方へ飛んだ。

同時に、同様に擲弾筒から煙幕が放出される。

煙幕の中にはパッシブ・デコイであるチャフが、混ざっていた。

レーダーを混乱させる金属片が、煙幕とともに撒き散らされていく。

(くるぞ、ヘルファイアだ)

前方の空が一ヶ所裂けて、炎の矢となった対戦車ミサイル・ヘルファイアが二発発射される。

ミサイルは、フレアを追って左右に分かれていく。

9号から少し離れた建物に命中し、爆炎と火焔があがった。

どこの発展途上国だというくらいに、派手な市街戦になっている。

ここまでくると、警察では手もでない。

「9号、十年式高角砲を撃つよ。パイルバンカーで固定」

9号のボディについた4機のパイルバンカーが地面に向けて、発射される。

頑丈な鋼鉄の杭は、7.7ミリ弾の力を使って地面深く埋め込まれた。

9号は重心が高くなっているので、45口径12センチ高角砲なんてものを撃つと反動でひっくりかえってしまう。

だから、四本の杭を地面に撃ち込んでボディを固定する。

そして、油圧シリンダが右手の十年式高角砲の砲身仰角を調整していく。

背中の誉エンジンが動作することで電気が生み出され、その電気でモーターが起動し十年式高角砲の照準をあわせる。

「三式対空弾、使用。時限信管5秒。十年式高角砲、撃て!」

空の一角が裂け、ヘリの20ミリガトリング砲が撃ち込まれる。

50ミリの正面装甲は、至近距離からの20ミリ弾にたえた。

目が眩むような轟音が放たれ、十年式高角砲から三式対空弾が発射される。

9号の20トン近くあるボディが、浮き上がるような反動だ。

二つの巨大な油圧シリンダーが反動を吸収しながら、閉鎖機を後退させ空きカートリッジを地面へほうりだす。

そして、輪胴型の弾倉が回転しつつ次弾を薬室へと送り込む。

一方、前方の空ではヘリが回避運動をとっていた。

でも、それは無駄なはなし。

三式対空弾は、太陽が突然出現したように時限信管によって爆発する。

千発近くの焼夷弾子が、撒き散らされた。

空の中から、火だるまになった戦闘ヘリが出現する。

炎の塊になったヘリは、見事に近くのビルへ突入した。

大規模テロの様相に、なってきている。

あたりは、火の海になって爆煙が巻き上がり白い灰が雪のように降ってきた。

「9号、変化をといて脱出」

わたしと、バイカーギャングふうの青年はどさくさに紛れて脱出した。


「だから、そいつがロボットを使って街を破壊したんだって」

ヒッピーは、半ばやけになった口調でいう。

わたしは、しくしくと泣きつづけていた。

ヤング・エグゼクティブふういいおとこの刑事は、とてもスーツが似合っており有能そうに見えるけど、ヒッピーと泣いてるおんなの子の前ではあまり実力が発揮できていない。

「現場に、あんたのいうロボットなんていなかったぞ」

うんざりした刑事の言葉に、うんざりしてヒッピーがこたえる。

「だからそいつが呼び出した、ロボットの妖怪なんだって」

「ひどい」

わたしは、しくしく泣く。

「こんな頭のおかしいひとの言うことを、なぜ警察はきくの?」

わたしの問いかけに、もっともだと刑事は頷かざるおえない。

ヒッピーは、うんざりしたようにため息をつく。

「少なくとも、この娘がうちの頭をルガーで殺したのは間違いないっすよ」

わたしは、息をのむとふるえる。

涙をこぼしつつ、ヒッピーを睨む。

「わたしが、ひと殺しなんておそろしいことできるわけない」

「ルガーも、現場にはなかったぞ。大体ルパン三世じゃあるまいし、なんで今時ルガーなんだよ」

「ルパンは、ワルサーだよ」

いつものように、ヒッピーのつっこみには意味がない。

「どうでもいいんだよ、そんなことは」

刑事は、もっともな意見をのべる。

疲れたように、ため息をついた。

「あの」

わたしは、にっこりと微笑んだ。

「もう帰って、いいですか?」


それは、夢なんだろうか。

まあ、多分夢なんだろうと思う。

累々と重なる、屍のやま。

色はなく、灰色と黒の景色。

気がつくと、どこからかピアノの音が聞こえてくる。

その後に、囁くような声。

Number Nine

Number Nine

Number Nine

Number Nine

そう、世界はこなふうに混沌としてる。

これはきっと9号の世界。

9号の見た夢。

いつか世界は、こんなふうに混沌へかえる。

それまでわたしたちは、死と儀礼的なダンスを踊りつづけていくんだ。

音楽が遠くから流れてきて、また遠ざかっていく。

囁き声が、続いていた。

Number Nine

Number Nine

Number Nine

Number Nine



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革命九号 憑木影 @tukikage2007

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