epi 4. 囚われぬ無垢さの話

 とてとてとて…とっ


 ぱたん


「えーん、えーん。……えーん。」


 真っ青な青空を背景に、青い風船が飛んで行く。

 目の前でお手本のように綺麗な泣き声をあげるのは、これまた青い服を纏った5歳くらいの男の子だ。

 ふにっと握りたくなる小さな手、丁寧に縫製がなされている小さな靴。

 その一番広い距離はジーンズ生地のオーバーオールで繋がれているが、やはり小さな範囲。



 起き上がることもなく泣き続けるその子は、助け起こされる事を疑う余地なく生きてきたのだろう。

 どうしたものやらと思いつつも、ここは一つ大人らしく声をかける。


「どうしたのかな?」


 顔を上げた男の子はしゃがんだまま


「風船がぁっ」


 と、声を裏返しながら訴える。


「嗚呼、風船が飛んでいってしまったのか。風船のところへ行きたいかい?」


「うん!」


 いいお返事を貰ったので、お望み通り風船のところまで移動させる。


 男の子はキャァっとはしゃぎながら風船を片手に掴む。男の子を包む空気はそのまま下へ下へと彼を受け渡し、変わって行く。数分もかからなかっただろうか。案外軽い音がして、先ほどとは対極の色が広がっているのが見て取れた。



 足元の小さく青い結晶を拾う。摩擦を感じさせない動きは靴先に当たるまで止まることなく速度も落とさずに球を運んできた。結晶というにはあまりにも透き通っているそれは、はっきりと向こう側が見える。


 いらいらする。


 最期まで純粋さだけで生きてきたからこそ生まれた透明さと完全なる球型。

 好みでは無い、と手のひらで力をかけると、パリンッという音と共に砕ける。



 青い粉は風と共に空気に溶けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る