第2話 物語は突然に…
「よしっ、今日もお掃除頑張るぞっ」
爽やかな日差しの中、少し大きめのエプロンとほっかむりをした少女はそう言って自分の服の袖をまくりを始めた。
「ん~…とりあえず、フワリ。」
そう言って彼女が窓を指をさすと、彼女の指先から生まれた小さな風が優しくカーテンを開けた。
柔らかだったはずの日差しが、より一層強く部屋の中へと差し込んでくる。
「そして…ポワロン。」
彼女がそう唱えると、今度はコンロに小さな火がついた。
彼女の名前はマルル。
魔法の力が失われつつあるこの時代で、少しだけ魔法が使える14歳の女の子だ。
「とりあえず、床のそうじを済ませて朝ごはんを作らなきゃっ」
そう言ってマルルは立て掛けてあったホウキを人差し指で操って、あらかた床の掃除を終えると、パチンっと一つ指を鳴らして魔法でドアを開け、そしてそのままホウキごとゴミを外へと追い出した。
マルルは家事は大好きだが、少々粗っぽいところがあるようだ。
「やれやれ、またホウキを一匹野良にしたのかい。」
楽しそうに庭を掃き去っていくホウキの姿を
窓から眺めながら、二階から降りてきたマルルのおばあちゃんはそう言って溜め息をついた。
「おはよう、おばあちゃん。今日は早いのね。」
魔法を使って次々と家事をこなしていくマルルは片手間にそう声をかけた。
「昨日はあまり眠れなくてな。ほら、あれじゃ、デス・ピザエール…」
「え…?何?デス・ピザ…何?」
マルルは突然おばあちゃんの口から発された
聞き慣れない言葉に思わず戸惑った。
「いや…何でもないんじゃ。そんなことよりもマルル、お茶を入れてくれんかの。」
「あ…うん。」
おばあちゃんにお茶を頼まれたマルルは、おばあちゃんの言葉が気になりながらも、先程コンロで沸かしたお茶をティーカップへと注いだ。
「はい、おばあちゃん。」
そう言っておばあちゃんの席に静かにティーカップを置くマルル。
おばあちゃんはゆっくりと席につくと、マルルに入れてもらったお茶に口をつけ、そして小さな声でポツリと呟いた。
「はぁぁ~…
…デス・ピザエール…」
…と。
「ねぇ!やっぱおばあちゃんさっきから何か言ってるよね!?デスなんとか、デスなんとかって言ってるよね!?」
「言ってないでおぢゃるよ、ワタシは何も言ってないでおぢゃるよ、あ~お茶が美味しいでごぢゃる。」
片手をぶんぶんと振りながら、怪しさ全開に否定しつつ、もう片方の手で飲み続けるおばあちゃんに、マルルは冷ややかにツッコミを入れた。
「…おばあちゃん。
ソレ、花瓶の水だけど…。」
動揺しすぎてそうなったのか認知症が始まってしまったのか、お茶と間違えて花瓶の水を飲み始めるおばあちゃんの事を心配しながらも、マルルはおばあちゃんをジッと見つめた。
「…仕方がない。そんなに気になるのなら教えてやろう。」
(むしろ気になるようにわざと連呼してたんじゃないか…?)とは思っていたが、何だか話が長くなりそうなので、あえてそこはツッコまず、マルルは黙ってババアの話を聞くことにした。
「その昔―――…
この世界にはデス・ピザエールという悪い魔族がおってな、あらゆる悪事を働いて、それはもう人々の事を苦しめておったんじゃ。」
珍しく神妙な面持ちでそう語り始めるおばあちゃんにつられてか、いつしかマルルも真面目に話を聞きはじめていた。
「知ってる。確か魔法少女がその魔族を倒してこの世界を救ってくれたんだよね。」
「そうじゃ。じゃが正確には倒したのではなく、封印しただけだったのじゃ。その時のその魔法少女の魔力だけでは1000年の間、魔族を封じ込める事くらいしか出来なかったからの…」
そう言っておばあちゃんは再び席を立つと、
窓から外を眺めながら話を続けた。
「そして今日がちょうどそのデス・ピザエール達を封印して1000年目…」
コクリと唾を飲み、話に聞き入っているマルル。
「そしてこれが…」
そう言って突然近くにある戸棚を開けはじめたおばあちゃん。
すると中から…
『キシャ―――――ッッ!!』
赤い目をしたどデカいトカゲが奇声を発しながらマルルの前へと飛び出して来た!
「そしてこれが、デス・ピザエールの手下達じゃ。」
そう言ってまるで自分の恋人を両親にでも紹介するかのように
「えぇ!?
まさかのいきなり戦闘開始ッッ!?」
爽やかな朝の日差しの中を、
マルルの悲痛な叫びだけがこだました。
~次回、魔法少女まじかる・ぱいんっ
『誕生!魔法少女』
でお会いいたしましょう!
次回もまじかる・まじかるンっっ
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