第2話 件名:論点がズレています
『そもそも、あなたが戦わなければならないのは、「カップ麺を女性が食べるなんてあり得ない」などと言う男性諸氏らではありません。「あなたに無神経な発言をした上司」です。彼と対決し、打倒しない限り、彼はいつまでも難癖を付けてくる可能性が高い』
最初こそカチンときた。が、考えてみればそうだ。
清美は元々、松井にマークされていて、ことあるごとに文句を言われていた。
相手はそれが面白いと思っている。
ハニカム組合によると、『彼は発言に罪悪感すら感じておらす、意見をその場で忘れている可能性もある』と推測していた。
説得力のある分析だ。
『第一、カップ麺の成分は精子にも影響が出ます。男性も食べるべきではありません。よって、女性のカップ麺摂食を禁ずる発言は、的外れだという他ありません。もし、健康に関して議論したければ、そう言い返せばよろしいかと』
「言葉の中身自体に怒るべきではない」というのが、ハニカム組合の見解だ。
『また、あなたが共感のみを求めているというなら、これ以上の具体策は特に必要ないかと思われます。多くの女性陣の回答こそを求めていたのだというのなら、これ以上読む必要はないです』
と前置きして、言葉は続く。
ハニカム組合が言うとおり、あの上司は同じ事をまた繰り返す。確実に。
一刻も早く止めなければ。
マウスで画面をスクロールさせ、清美は回答を読み進める。
『あくまでも、あなたが直して欲しいのは、上司の無神経さであるはずです』
しかし、どう戦えというのか。セクハラで訴えろ、とでも?
裁判なんかで争えば、たとえ解決してハラスメントを受けなくなったとしても、居心地が悪い。
『直接対決するなら、やはりセクハラ裁判かと。とはいえ、裁判するまでに至った人間と、同じ職場にいたくないでしょう。大人になって我慢する手もあります』
回答者も、同じ事を考えていた。なんとか穏便に済ませたい物だ。
『でも、あなたに不満が残ってしまう。わたしが皆さんの回答が的外れだと言ったのは、その点です』
議論しただけでは、自己満足止まりになる。清美の事態が解決していない、と。
『なにより、あなた自身が幸福を得られない』
ハニカム組合のこの発言はガツンときた。そうだ、これなのだ。
今のままでは、なにも事態が好転していない。
ギャラリーは話題ができていいかもしれないが、具体的な解決策こそ必要だ。
『そこで』と前置きして、ハニカム組合は一つの提案をしてきた。
『こういうのはどうでしょう? 裁判は、この作戦が失敗してからでも遅くはありません』
清美は、組合が出してきた案に目を通す。
大胆な作戦だ。なんと荒唐無稽な作戦だろう。清美はそう思った。
だが、どうせ戦わなければ、どちらも殺し合いになってしまう。
裁判以外の手がなくなる。
清美は、ハニカム組合の提案に乗ってみることにした。
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