ユニバース&ファンタジー

うすしおごまらいす

第1話 0000

「ふうぅ!今年は3月でも寒いなあ」


「ええ。そうですね。ニュースではまた寒波が再来したとからしいですよ」


「かぁあ!寒い!よし!こんな寒い時には飲むのが一番!てことでどうだい?君も。」


「あぁ。すみません部長、今日はちょっと用事がありまして」


「そうなのか、残念だ。他のプロジェクトメンバーを誘うとするよ。」


「西坂さんあたりは今日暇だと聞いています。誘ったらどうでしょう」


「お、そうか。なら誘ってみるか」


「では部長、今日はこの辺で」


「おう、気おつけて帰れよ」


「了解です」



俺は國弘悠人。しがないアウトソーシング会社の28歳サラリーマンだ。


さっき話してたのはプロジェクトリーダーである部長だ。気前がよく好感を持てる人で今日もイベントがなければ飲みに行くんだが。



「流石に今日はクランのメンバーも多く来る中、主役が来ないわけにはいかないからなぁ」


そう、今日は俺が11年も前からやっているゲーム「Galaxy derive」のイベントが行われる。


大学時代からコツコツとやって来たゲームで宇宙を開拓し、銀河一の帝国を作るのが目的のゲーム。


最新のVR技術と携帯端末からお手軽にNPCなどに指示をして資源を集めさせたりも出来るため社会人になった今でも続ける事が出来た。


「VRからログインするのいつぶりだっけ。最近は仕事増えてなかなかダイブ出来ないんだよなぁ」


と愚痴りながらその日は足早に家と向かった。


アパートのドアの鍵を開ける。家に帰って来た事による安心感でほっと息が出てそれが一瞬白くもわっとした。


「ただいま」


家には嫁や家族はいない。現在東京に単身赴任しているからだ。だとしても嫁などいないが。


「やっぱ一人もんは寂しいな」


俺はそそくさと中に入り、あらかた飯を食ってシャワーを浴びて久々にVRヘッドギアを被る。


「さぁ、行くぞ」


ゲームのクランメンバーには勿論久々に仮想世界で会う。なので少し気合いを入れてから入る。


ピッ


現実から仮想へと通じるボタンを押し、俺の意識は飛んでいった。




しゅうぃん


久々にVR空間に入った俺はベース基地の司令室に居た。


「この真っ白な部屋、懐かしいなあ」


早速俺はいつもの軍服を着用し、皆が集まる円卓会議場へと足を運ぶ。

カシャカシャといくつものドアが開き部屋を渡って居た時だった。


「おかえりなさい、ゆうと司令官。」


「ああ。久しぶり、ミコト。…俺って最後何日前にベースに戻ったっけ?」


「83日前になります。」


そう答えたのは黒髪の大和撫子「ミコト」だ。このゲーム、長年続いてる故数多くのやり込み要素があるがその中にアンドロイド要素があり、彼女である。一番最初のゲームオープンガチャで最初の副官として彼女を当てて以来、俺はアンドロイド技術にハマって俺以外全職員がアンドロイドで構成されている。


「ありがとう。そのぉ…すまないな、司令官である俺が直接指揮できずに」


「…?」


彼女含めアンドロイド及びNPCやAIは全て視界の下にあるテキストバーで会話が表示されている。一応口パクはしてるが、ここら辺が最新のゲームとは違い昔のVRゲームだと実感する所でもあったりする。本当は声とかあてて欲しかったんだけど。


「ああ。かまわない、独り言だ。持ち場に戻れ」


「はいわかりました。」


そう言って彼女は流麗にお辞儀をし、立ち去っていった。



最後の扉を抜けると、金属製のサイバネティックな円盤型テーブルが姿を表した。


「俺の席は…ここだったな」


席に着くとブォンと言う音とともに4人のホログラムが現れた。


「お久しぶりっス!クランマスター!」


「久方ぶりだな」


「久しぶり〜社畜さん」


「はっはっは」


「ああ。久しぶりだ。つかトミ、おまえ社畜さんとか煽ってるだろ!?事実だが言わないで欲しかったな!」


「いや〜就職してからユウトの噂はよく聞くぜぇ?。期待のやり手新人から始まり、この前も特許取ったんだって?もう社畜じゃん」


「うっせえ。俺が楽しんでやってるからいいんだよ」


「そんな事よりまずは祝おう。ユウト、歴代4番目大銀河帝国おめでとう!」


「おめでとうっス!」


「おめおめ〜」


「よきかなよきかな」


「ああ、ありがとう。これも日々クランメンバーの援助があってこそ達成できた。本当にありがとう!」


そう、俺は3日前に公式から直々に「貴方は銀河一の帝国を築きあげました!」という文面でメールが送られて来た。そして今である。


「しかし帝国名が“アンドロイドの象徴国家”とは運営をも認めるアンドロイド馬鹿だよな」


「はっはっ!なんせエイリアンを雇わず全てアンドロイドで賄うというまさにロマン!資源の無駄遣い!」


「そうっスね〜。にしても凄いっス!総勢2400以上機機体があるんっスよね!」


「確か今年で2421体になったな。でも半分がロールバック用だし、実質動いてるのはその半分だよ」


「アンドロイドは本当に資源食うからねー。エイリアン雇えばもっと早く銀河帝国になれたんじゃない?」


「だと思う。だがこれは俺の趣味だ。譲れない」


「9割以上が女型だしな」


「うむ。自分の理想に合わせてボディやフェイをカスタマイズ出来るからな!」


「これは底抜けのロマン馬鹿だ!はっはっは!」


そしてこんな感じで雑談をしたり、時に関係ない事で騒いだりと時間は過ぎていった。


「やーっ、今日は楽しめたっス!」


「存外遅くまで騒いだな」


「リアルではもう夜中の3時か。はっはっはそろそろ寝なければ!」


「流石にお前も明日休みだろ。何か予定は?」


「あー。休みだが、明日は新システム導入の書類作成をしようかと…」


「出たよ社畜笑。まあ頑張るは良いがたまにはこうやってVRでも遊ぼうぜ。仕事ばっかりは流石につまらんだろ。」


「なるべく善処します」


「あっ。そうだこの後セクター3000に飛ぶんだよな?」


「ああ。運営からのご褒美、貸切恒星系だ」


「羨ましいっス!」


「それじゃあ俺たちはここまでだ。またなー」


「ああ。何度も言うがありがとう、トミ、タケル、イワン、サイ。それとここにいない160人のクランメンバーも」


そして皆それぞれ通信を切っていった。


シュヴォン


最後の通信が消えると会議場は一気に静かになった。


「はぁ。それじゃそろそろ飛びましょうかね」


そう言って俺は腕輪状の端末を操作し、運営から貰ったコードを確認する。


ここにコードを入れ…よし確認。


「ん?」


運営からもらった恒星系アクセスコードと座標だが、座標がどうもバグってるらしい。


「いち、じゅう、ひゃく、せん、ま…1万7374!?」


どう考えてもバグってる。サーバー数はその番号で1000〜4000番台しかなく、1万は流石にバグってるとしか思えない。


「でもアクセスコードは合ってるし…表示だけがバグっているのか」


一応「OK」ボタンも出てて、後は押せばワープする。


「まあ、表記バグなら後で報告でもすれば良いだろう。さあいざ俺だけの新天地へ!」


ポチッ。


ウィーン、ウィーン


ワープ開始のサイレンが鳴る。全ての採掘船や資材キャリアーなど再度チェックし、転移漏れがない事を確認する。


「よし。あぶれるものはないな。呼び戻すの面倒だし」


後はこのまま待っていればワープが開始…されるはずだった。


“汝を歓迎する。鋼鉄の王よ”


いきなり声が聞こえた。その声は大きく、そして凛と澄んでいて綺麗な女性の声だった。


!?


“新たな外世界系へ汝を迎え入れよう”


強烈な耳鳴りと目眩を感じた瞬間、ワープが始まり世界は真っ白になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る