それな射的にチャレンジャーこいこい!
ちびまるフォイ
あなたはきっと「それな」という
「さぁーー、みんなやっていきなーー。
商品を落とせばどんなものだってあげちゃうよーー」
にぎわっている縁日の中でもひときわ景気のいい声が聞こえる。
声に誘われるように屋台へ向かってみると、のれんに見慣れない言葉が書かれていた。
【 それな射的 】
「おじさん、これなんですか?」
「まあ、見てごらんよ」
射的には銃があり、景品が置いてあるものだが
この屋台には商品の代わりに女子高生が立っている。なんか怖い。
「この屋台にいる人に"それな"と言わせればいいんだ。
それなと言わせた人が持っている商品をあげちゃうよ」
「へぇ」
商品一覧には最新のゲーム機までそろえられている。
「あ、でも、"それなんだろう"とか誘導して言わせるのはダメだよ。
本人が心から共感した"それな"を引き出すことが大事なんだ」
「わかりました、やってみます」
共感できること。共感できること……。
「そ、そうだ! 自転車に乗ってるときに、
誰もいない道に入るとやたら歌いたくなるよね!!」
しん、と思い沈黙が流れた。
「ダメダメ。そんなマイナーなものじゃ共感なんて得られないよ。
相手に共感してもらうには、短くストレートなものを言わなくちゃ。残り2回ね」
「短く……ストレートに……」
相手は女子高生。
自分が日頃思うことを言ったところで共感なんて世代の壁に阻まれる。
それなら、全人類が当てはまりそうなネタで勝負する。
「子猫の動画って、めっちゃ癒されるよね!!」
「それな」
「やったーー!! 言いました! それなって言いましたよ!!」
思わず飛び上がって大人げなくはしゃいだ。
そこに屋台の店主が割って入る。
「お客さん、1それな、ね」
「なんですかそれ。商品は?」
「実は、"それな"の声のボリュームによって判定されてるんだ。
本気の"それな"はボリュームが10で、10それな。
今のは1それなだから上げられないよ」
「先に言ってくださいよ!」
「注意書きには書いてるんだけどねぇ……」
『"それな!"と言わせた人の所有している商品を獲得できます。
※声量が10それなに達した場合に限る』
たしかに注意書きには書かれていた。めっちゃ小さい字で。
残り回数は1回。
お金を出せば何度でも挑戦はできるものの、
ギャラリーが増え始めているので「大人げなく必死にやってる(笑)」と見られたくないので
事実上、これがラストチャンス。
「確実に共感してもらえる内容を……」
リーサルウェポンである子猫ネタですら「1それな」だった。
思わず立ち上がって、手をたたきたくなるような共感ネタが必要だ。
もっと女子高生の目線に立って、女子高生が日頃考えているような共感ネタを。
「どうしたい、兄ちゃん、もうやめておくかい?」
「……」
「残念賞として、きなこ棒あるよ。あきらめるかい?」
「……いや、思いつきました」
「ほう」
「スマホのバッテリーって、すぐなくなるよね!!」
「「「 それな!!! 」」」
屋台の女子高生たちが一斉に声をあげた。
びりびりと声が響いて屋台が揺さぶられるほどの衝撃。
「やった!! やったぁ!! やりました!!」
会心の"それな"だった。
今世紀はこれ以上のそれなを得ることはないだろう。
「それじゃ、商品をもらいますね」
「あーー。兄ちゃん、このそれなゲージを見てみなよ」
【 9それな 】
「惜しかったねぇ。あと1それなだったんだけどねぇ」
「いやいやいや!! 確実に10いっていたでしょう?!」
「人間の判断はあてにならないから。やっぱり機械判定を信じないと。
はい、残念賞のきなこ棒」
「むぅ……わかりました……」
きなこ棒を口にくわえて屋台を立ち去るとき、それな判定機の後ろをのぞいてみた。
判定機の設定では上限値が9までしか設定されていなかった。
「おじさん!! 判定機にイカサマしていたでしょう!?
この判定機、9までしか出てないよ!」
「なにを人聞きの悪いことを! 営業妨害だぞ!」
「だったら、おじさんが、今ここで10それな言ってみてよ」
「いいとも。いくぞ、すーはーすーはー……。 そ れ な !!!!」
【 10それな 】
店主は判定機Wを手元で操作し、一時的に上限値を解放した。
「そうら見たことか。この判定機は10それなもちゃんと出る。
イカサマなんて人聞きの悪いことをこれ以上言うんじゃないぞ」
「わかりました。それじゃ商品はもらいます」
「は!? 待て! 何を言ってる!?」
慌てる店主にどや顔で答えてやった。
「注意書きには、書いてるんだけどねぇ?」
『"それな!"と言わせた人の所有している商品を獲得できます。
※声量が10それなに達した場合に限る』
それな射的にチャレンジャーこいこい! ちびまるフォイ @firestorage
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