vs神
ベームズ
異世界。
「……そんな‼︎」
絶望と驚愕の混ざった、困惑しきった女性の声が、白い光に包まれた何もない世界に響く。
ここは女神の領域。
女神以外は誰も、出入りすらできない閉ざされた空間。
雲のような白いモヤモヤがあちこちに立ち込めるだけの、何もない空間だ。
そこに一人、何かを見つめながら口元を両手で覆い、固まる女性。
女神ガイアは、とある世界の管理人をしている女神だ。
ガイアが管理する世界は、勇者率いる人間と、魔王率いる魔物との対立をもって調和を保たれた、剣と魔法の世界である。
その視線の先にある、水面のように波紋を描く鏡で、世界の隅々までを見、必要なものは創り出し、不要なものはあらゆる手段を用いて排除してきた。
現在女神は、そんな鏡を見て、固まっている。
鏡には、二人の人物が並んで立つ姿が映し出されている。
一見なんの変哲も無い普通の光景。
だが、
それは女神にとって、延いては、世界にとって、最悪の事態を意味する光景であった。
「魔王と……勇者が……」
並んで立つのは、魔王と勇者だった。
世界の均衡を守る二つの勢力、魔王軍と人類軍。
彼らはそれぞれの側の頂点に立つ二人だ。
そんな彼らが並んで立つことが意味する事態。
世界の均衡が崩壊する。
「本来、互いを殺そうとし合うように設定されているハズの二人がなぜ!?こんなのありえない‼︎」
あの世界は他ならぬ女神自身が作り出した世界だ。
そこに住む生き物も全てこの女神が設計した。
世界を破壊しようと企む魔王と、それを阻止し、世界を守る勇者。
この二人が中心となって、世界が回るように設定されている。
創造主本人の意に沿わない行動は当然できないハズである。
にも関わらず、その『ありえない』をやってのけた二人を見て、驚愕が隠せない女神。
完全に予想外の事態だ。
これから何が起きるかなんて想像もできない。
「なら仕方ない。最悪の事態が起きる前になんとかしないと……」
言って、鏡に手をかざす女神。
すると、鏡がまばゆい光を放ちはじめる。
女神は、自分の意に沿わない行動をする存在を「無かったこと」にしようとしているのだ。
「何も世界そのものには罪はない。『あの二人』だけ、彼らだけを無かったことにすれば、あとはどうにでもなる。」
代わりの存在など後で作ればいいのだ。
そう思ったのだが、
「どうして?干渉できない!?」
本来ならもう跡形もなくなかったことになっているはずの魔王と勇者。
彼らは、今も何ごともなかったかのように立ち続けている。
「そんな馬鹿な……」
完全に異常事態だ。
女神の創造物であるにもかかわらず、こちらの干渉を一切受けない異常行動をする存在。
最悪だ。
ただ、やはりあの二人だけの力でこんなことができるとは思えない。
考えられる可能性があるとすれば、
「……外からの干渉?」
外からの、女神にも匹敵する存在の干渉。
それによって、本来なら女神のコントロールの範囲内でしか行動しないはずの存在二人が乗っ取られ、あのような異常な行動をとり、女神からの干渉も受け付けないなんてことになったのではと考えた。
女神があたふたしている間にも、あちらの世界では分厚い黒い雲が立ちこめ、世界を覆っていく。
そして、
「……そういうことでしたか」
そこに現れた存在を確認してようやく納得がいった女神ガイア。
それは、
"神であるにもかかわらず、下界に降臨し、創造主である自分すら干渉できない存在"
あるいは、それを創り出す存在。
「……あなたが出てきたということは、喧嘩の続きですね」
女神ガイアの目に、静かな怒りが灯る。
「ゼウス」
そして、それはもう嫌そうな口調で、鏡に映る、やたらガタイのいい、高身長の一人の男
その名を呼んだ。
それは、
全知全能。
神々の王とまで言われる絶対唯一神。
ゼウス。
やりたい放題、暴れたい放題の天界でも有名な問題児だ。
そんな神が、今、ガイアが作り出した下界の分厚い黒い雲の上で、"女神"へむけて中指を立てている。
それを見たガイアは、コメカミに血管を浮き上がらせて、完全にこちらを挑発してきているゼウスを睨みつける。
「……あちらの世界の最強二人を駒にして勝った気でいるようですね」
ガイアが持つ最強の駒二つを奪い、勝った気でいる様子のゼウス、
だが、
ニヤリ、
と、怒りに満ちた笑みを浮かべるガイア。
「ですが甘いですよ、ならこちらは"とっておき"を用意するだけです」
挑戦を受けたガイアは、もちろん本気で勝ちに行くつもりである。
そんなガイアが用意した"とっておき"とは、
「今こそ出番ですよ!!起きなさい‼︎ジズ‼︎ベヒモス!!リヴァイアサン‼︎」
パァーッ‼︎
巨大なまばゆい光が、大地、海、空に出現した。
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