3章 その8

 あの日と変わらない、太陽の見えない暗い日に、再び森の奥に訪れた。リュミエールは奥にたどり着いたときに、大きな声で叫んだ。


「ブラン! いるの? 約束通り来たよ! いたら返事して!」


 すると、奥の方からのっそりとひょろりとした黒いローブの女が現れた。ランタンを左手に持っていたが、今日は斧を持っていない。


「ああ、君か。今日は曇りだから、来ると思っていたよ。そんな大きな声を出さなくてもちゃんと聞こえている。私は目が悪いが、耳は悪くないんだから」


 ブランはフードを脱ぎ、白い頭をあらわにした。そして、二つの透き通るような蒼い眼でリュミエールを見据えた。ついてきていたアランとヨアンは縮こまってサッとリュミエールの後ろに隠れた。二人の震えが彼女の背中にも伝わっていた。


「もう、二人とも男の子のくせに、情けないんだから」


 リュミエールはあきれた目で後ろを振り向いて二人を見た。アランはビクッとして声を震わせて言った。


「だってさ、やっぱり怖いぞ……あの見た目だと」


「何言ってるのよ。今は斧とか持ってないし、大丈夫でしょ。まあ、確かに背は高くてちょっと威圧感はあるかもしれないけど」


「そういうことじゃない。もし本当に魔法が使える魔女だったりしたら……」


「だから、使えないって言ってるじゃない!」


 リュミエールはアランを一喝した。その様子を眺めていたブランが、不意に微笑んでアランのほうに近づいていった。


「大丈夫、おびえなくていい。私は本当に魔法なんか使えないし、もし使えたとしても君たちに危害を加えるつもりはない。私は世間を恨んでいる、なんて噂もあるようだけど、実のところは恨んでなんかいない。父に捨てられ、世間から追い出され、母とともに街の隅に追いやられてしまったのは本当のことだ。でも、魔法だとか恨みだとかは「世間」の勝手な妄想さ。だから安心してほしい」


 ブランは少し早口で言った。アランはそれを聞いて少しだけ警戒を解き、リュミエールの後ろから出てきた。


「ほ、本当ですか……? 本当に、本当に本当に、俺たちを呪わない?」


「呪わない。人を殺したこともない。第一恨んでもいない相手を殺したって、こっちに何の得がある? 合理的に考えればありえないだろう?」


 ブランはアランの問いにひょうひょうと答えた。ブランはこんな噂話はもう聞き慣れた、といった様子だった。


「さあ、こんなところで立ち話もなんだから、私の小屋に招待しよう。すぐ近くにある。君も、まだ女の子の後ろで震えている君もおいで。なあに、悪いようにはしないよ」


 ブランはそう言ってリュミエールの後ろのヨアンの方を向いた。


「そ、そういうセリフを聞くと逆に怖いです……」


 ヨアンはますます小さくなり、彼女の後ろにより深く隠れた。


「そう……か? 私はあまり人と話さないからな。変なことを口走ってしまうかもしれないが、まあ許してくれ。では、小屋に案内しよう。こっちだ」


 ブランは踵を返し、やってきた道を戻っていった。三人も、それを彼女の後ろについていった。

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