第30話 祝勝会ー2
俺の目線の先に居るのはファルス王国第一王女リスティ、俺の冒険者仲間……のはずだ。
第一王女? 何の冗談だ?
俺は酔って夢でも見ているのかとも思ったが、酒はそんなに飲んでいない……。
数度目を擦り見直す……。
やはり視線の先に居たのはリスティだ。
一体全体どういう事なんだ?
俺が困惑しているとリスティと目線が合い、ツカツカとヒールを鳴らしながらこちらに一直線に歩いてくる。
俺はすぐさま警戒状態に入る。
「あ、あの――「
「あ、ああ……我も第一王女に会えて光栄の至りだ」
「その、お話をしませんか?」
「へ? あ、ああ……いいとも」
何の話をするって言うんだ?
トレジャー・キーパー討伐の事か?
それとも大嘘ついて王に仕えてると言った事か?
「ええと、その――私! あなたの事を本物の英雄と思っています!」
「え? あ、ああ……そうなのか。だが我は英雄でも何でもない、ただの兵士だ」
「そんな事ありません! 凄かったです! あの演説、そしてトレジャー・キーパーを一撃で屠ったその実力! まさに神がこの国に遣わした英雄です!」
鼻息荒く拳を強く握り、身を乗り出しながら言ってくる。
どうやら演説が効きすぎたか……。
今度から少し抑えめにしとかないといけないな……と俺は心のメモ帳に書き足しておく。
それにしても近い――そしていつもより妖艶だ。
いつもと服装が違い、肩を曝け出し胸元が見えているからか? それとも、うっすらと醸し出すフローラの香りのためだろうか? この香水は反則級だ……。
俺の鼻が意思とは無関係にその甘くていい香りを俺の肺へと入れていく。
「まぁなんだ、我だけの手柄ではないし……そうだ! 兵士や冒険者達もがんばっていただろ?」
「それはそうですが――「
「ああ、そろそろ我はパートナーの悪酔いを止めに行かねば!」
「え、あの……まだ話したい事がたくさんある――」
話を無理矢理中断し、まーちゃんと受付嬢の所まで早歩きで向かう。
「
近づいたまーちゃんはアルコールの臭いが口から放たれており、すでに泥酔状態で何を言っているのかわからない。
受付嬢が一生懸命酒の瓶をもぎ取ろうとするが、酒の瓶だけはしっかり握りしめ手放そうとしない。
「まーちゃん臭いのん」
「まーちゃん、そろそろ帰るぞ! 受付嬢も行くぞ」
「は、はい」
「まらまらのめるにょ」
「この馬鹿……いつまで飲む気だ! くそ、フェリス――は無理だな。受付嬢! まーちゃんの足を持て。どこか部屋を借りてこいつを休ませるぞ! とにかくここは不味い!」
「はい!」
俺はまーちゃんの両脇を持ち受付嬢は足を持つ。
そして使用人にどこか休ませる場所がないか聞き、すぐさま移動する。
大広場から廊下に出て小さな部屋へと案内された。
客室だろうと思わせる部屋だが、そこにあったベッドにまーちゃんを寝かしておく事にする。
そして使用人に水を持ってくるようにお願いしてする。
ふぅと俺はため息をつき、シャツの一番上のボタンを外し一息つく。
「受付嬢、お前は知ってたのか?」
「何がですか?」
「リスティだよ、何であいつがこの国の第一王女なんだ?」
「えっ! リスティさん王女様なんですか?」
「いやいや、名前も言ってたし見た目もリスティだっただろ」
「すいません、魔王さんに意識が集中していて見てませんでした」
俺は受付嬢に対して「はぁ」と大きくため息をつく。
それを見た受付嬢は肩を竦ませる。
「とにかく不味い……俺とまーちゃんの正体がばれかねない」
「で、でもこの部屋にいたら大丈夫なんじゃ?」
「いつまでもいれるわけないだろ?」
「確かに……」
「少し休んだら俺は広場に戻る。お前はどうする? このまままーちゃんの介抱をお願いしたいが……」
「私もお供しますよ! リスティさんが王女かどうか確かめたいので」
「ふむ、まーちゃんは寝かせとけば平気か――フェリス、まーちゃんの事を頼めるか?」
「仕方ないのん」
フェリスは若干嫌そうな顔をしているが渋々了承する。
少し時間が経ちそろそろか……と俺は重い腰を上げる。
「広場に戻るか……誤魔化しきれればいいけどな」
「なんなら私がフォローを――」
「頼む」
受付嬢にフォローを頼み俺達は広場に戻る。
ある意味トレジャー・キーパーより難度が高い戦場へと……。
広場に戻るとリスティは他の貴族の面々に囲まれていた。
俺はその一団から距離を置きなるべく目立たない様に行動をする。
一応念のために自分へ魔法「
気配を抑えるためだ――
俺は魔法使いではないので所詮小手先の魔法だ。
例え「
だが、何もないよりはましだろう……。
俺は料理を食べながら適当な貴族を見つけてはリスティに隠れるように世間話をする。
世間話が終われば、また次の貴族を見つけて身を隠しつつ適当に話をする。
何回それを繰り返しただろうか? 時間が結構経った頃合いをみて庭へと休憩がてら移動する。
庭に続く窓の縁側に座り空を見上げる。
星がとても綺麗だ――
「ふぅ……本当に王女なんだな、あいつ……」
そんな言葉がボソリと口から漏れる。
「ゆーくん何してんの?」
後ろから声を掛けられ俺は怒りが込み上げてくる。
呑気に酒を浴び、よりによってここで名前をだすか……ここでは正体を隠せと言っただろうに――
俺は振り返りつつまーちゃんを怒鳴る。
「お前なぁ、ここでは名前出すなって言った――」
そこには酔ったまーちゃんではなく、王女のリスティが立っていた。
「ご、ご機嫌用、リスティ王女」
俺は思考が停止し、声が無意識に裏返る。
「ゆーくんですよね?」
「ななな何の事ですか? ゆーくんとは誰ですか?」
「嘘はもういいです。さっきの言葉で全てわかりましたから……」
くそっ、だからまーちゃんの声色を真似してまーちゃんが話すように俺に声を掛けたのか……。
つまりは……嵌められた! このアマ――
リスティは横に座り俺の顔を覗き込んでくる。
「やっぱりゆーくんだったんですね」
「それが何だ、ばらすならばらせ」
「いえ、ばらしませんよ。何か事情があるのでしょう?」
「お前こそ王女だなんてな……貴族辺りだとは思っていたが、まさか王女様とは思いもしなかったよ」
「それはお互い様です」
「王女の道楽にしては冒険者家業は危険すぎるだろ」
「ええ、クリスにも言われました。ですが兄に憧れていますので……」
「ふーん」
正直リスティの境遇なんてどうでもいい。
それよりも俺が「
「それで? 俺が「
「いえ、むしろ予想通りでした。こう見えても私は人を見る目は凄いんですよ?」
そんな事をいいながらリスティは自分の目を指さし舌を悪戯気味にペロっと出す。
「理由を――何故正体を隠すのか聞いても?」
「…………俺は――」
俺は言葉に詰まる。
どう言ったものか……いや、答えは出ているのだが言った所で理解はしてもらえないだろうという思いがあった。
はぁと大きくため息をつき渋々俺は言う。
「俺はもう「
そう、四百年戦い続けて俺の事を覚えていた仲間は魔法で延命していた爺さんくらいだ。
他の仲間はもう死んで誰もいない。
近代化された元の世界では勇者が魔王と未だに戦っているという事さえ忘れ去られていた。
戦いが終わって外に出れば王国も解体され報酬なんて一銭も出なかった。
俺は思い出したくもない元の世界の事を考え、気分が悪くなる。
「そうですか……つらい経験をしたんですね」
「つらい? お前に何がわかる!」
酒を飲み過ぎたか? 感情が抑えられない――
「魔王と戦って戦って人間共のために魔王城に缶詰めにされて、外に出てきたら惚れた女はあっさり俺に見切りをつけて貴族と結婚してたんだぞ! ふざけるな! 何が神のお告げだ! 何が人間の幸せのためだ! そんな物の為に俺はどれだけ犠牲にすればいいんだ!」
本当はわかってる……。
勇者の使命だから魔王と戦うのは当たり前の事……そして勇者として生まれてしまったから人間の為になる事をしなければならない。
それが俺にとっての一番の不運なんだ――
俺は唇を強く噛みしめる。
「あ、あの……ごめんなさい」
俺は怒りで立ち上がりそのまま庭の方へと数歩歩く。
そして満天の星を見上げる――
そよ風が怒りで火照った俺の頭を優しく撫で、体温を少し下げる。
少し落ち着いた俺はリスティに向き直る。
「……すまん。少し我を忘れた」
「いえ、私こそ何も知らないのに知った風な事を言ってしまって――」
「お前は悪くない。でも俺はもう「
「でしたらなぜ、この街を救ったのですか?」
「成り行きだよ。フェリスの人生初の友人がこの街にいたからだ」
「ふふ」とリスティが口元を右手で隠して笑う。
「何がおかしいんだ?」
「だって「
俺はリスティの言葉に肩を竦める。
なら見捨てろとでもいうのか? 全く……。
「あ! 勇者様、こんな所に――」
リスティの後ろに受付嬢がいつの間にか立っていた。そして俺の名前を呼んでくる。
「だから――ここでは名前を呼ぶなよ……」
「す、すいません。あっ! リスティさんまで!」
「こんばんわ」
リスティが受付嬢の方に向いて返事をする。
俺は叫んだせいか喉が渇いていたので受付嬢が持っていたワインを寄こすように促す。
渋々といった様子で受付嬢が俺にワインを渡す。
「あの、あの――リスティ……王女様……でいいんですよね?」
「この場ではそうなりますね。ですが冒険者組合では王女と言う事は黙っておいてほしいのですが――」
「わかりました。リスティ王女様!」
「俺もここでは「
「は、はい!」
受付嬢に釘を刺し俺達は広場へ帰ろうとする。
立ち上がろうとするリスティに右手を差し伸べるとリスティも王女らしく右手を俺の手の上に、左手でドレスの裾を軽く持ち上げ立ち上がる。
「そろそろ帰るか……まーちゃんを連れて」
「そうですね、そろそろ帰りましょうか」
「リスティはどうするんだ?」
俺は左手に持っていたワインを口に入れる。
「私はまだ……他の貴族達に挨拶をしてから――」
リスティが言いかけた時、広場からまたも意外な言葉が会場に響き渡る。
「国王陛下の御成り!」
俺は受付嬢へと口に入れたワインを噴き出す。
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