第22話 オークの巣窟ー1

 俺は今日、オークの巣窟に行き一掃するというクエストを受ける事になっている……。

 昨日と同じく「クエストに行くわよ!」というまーちゃんの大声で起こされ朝食を食べる。

 フェリスは自然に起きるまで起こさないでおく――

 無理に起こすと昨日みたいに悲惨な結果になるからだ。

 朝食を食べ終えリンゴジュースを片手に俺は昨日読めなかった本を読む。


「おはようなのん、ゆーくん起こしてくれなかったのん」


 まだ寝ぼけてるのか目を擦りながら食堂にフェリスが部屋から下りて来た。


「昨日みたいに脛を殴られても困るからな」

「優しく起こせばいいのん」

「昨日優しく起こしたけど起きなかったぞ?」

「努力するのん」

「わかった……今度から努力してみよう」


 そんな会話をしながらフェリスも朝食を頼み、運ばれて来た食事を口の中に入れる。


「それにしても遅いわね! あの二人」

「いや、お前が早すぎるんだよ」

「そんな事は無いわよ。ほら周りを見てみなさい、冒険者が一杯よ?」


 周りを見回すと確かに冒険者らしき人間は多い、昨日パーティーを組んだガスト達の姿もある。

 恐らくクエストを受けに来たり、パーティーを組んだりしているのだろう。


「まぁ落ち着けよ。そのうち来るだろ」

「ああ、もう! 早く行きたいわ」


 俺は頭を掻き毟るまーちゃんから本へと視線を戻し、続きを読む。

 少し経った頃、また昨日と同じようにまーちゃんが「来た! 来たわ!」と大声でドアの方に向けて手を振る。


「すいません……お待たせしてしまって」

「いや、待たせてはいないと思います」


 俺は上半身だけ声のする方向へ向けて挨拶をする。


「今日もご苦労な事だな。本当にいいのか? またオークの巣窟を一掃するクエストなんて――」

「ええ、とても楽しみです」

「私は反対だ。リスティには合わないと思っている」

「クリス、その事は昨日も話しましたよ」

「そうですが……」


 クリスの言葉にリスティが頬をぷくっと可愛らしく膨らませる。

 その行為にクリスは何も言えなくなったのか「はぁ」とため息をついた。


「それじゃ行きましょう!」

「まだフェリスが朝食を食べてる。せめて食べ終わるまで待て」

「遅い! 早く食べて!」


 まーちゃんがリスティを真似して頬をぷくっと膨らませるが、あまり可愛くない。

 俺は本を閉じ、それをまーちゃんの頬に軽く当てる。


「ちょっと! 何するのよ!」

「今のは純情なリスティがするから可愛いんだ。お前がやっても腹が立つだけだ」

「何でよぉ!」

「その通りだ。お前もたまにはいい事言うな!」

「あの――やめて下さい。とても恥ずかしいです」


 まーちゃんは顔を真っ赤にして怒り、リスティは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

 そしてそんなリスティを見て「やっぱり、リスティが一番かわいい」と言わんばかりにクリスが「うん」と頷いている。

 それを見ながら俺は食事を終えたフェリスの頭を撫でる。




 その後、クエストを受けにまーちゃんが受付へと向かう。

 「今回は五人よ! 大丈夫」と言う声が聞こえてくるが受付嬢はいい表情ではない。

 すでに二回も失敗しているのだから仕方がない反応だろう……。

 クエストを半場無理矢理受け、俺達は出発する。

 その道中、街中で俺は色々と買っていく。

 「何を買ってるんだ? 今からクエストに行くのに――」とクリスには言われたが、もしもの時のため必要な物を買っていく。

 特に巣窟と言うからには洞窟みたいな所だろう、準備しておいて損はない――




 俺達は街の外に出て丘を数十分程歩く。

 すると森と丘の境目が見えてきた。

 その数メートル手前の丘に二つの岩が見える。

 俺達はそれを見て少し腰を落とす。


「あれか?」

「そうよ! あの岩よ」


 まだ遠目ではあるがその二つの岩は自然にある訳ではなくどうやら平たい岩を二個から三個縦に組み合わせたような感じだ。

 そしてその前には見張りらしき二メートル程の緑の巨人がいる。

 あれがオークか――


「あれの中はどうなってるんだ?」

「ええと……」


 どう説明しようかまーちゃんが迷ってる中フェリスが俺の横に来る。


「あの中は下に掘られてるのん。つまりは地下に続く巣穴なのん」

「なるほど、蟻みたいだな」

「厄介なのが森側にも入り口があるん。丘側、森側どちらからでも逃げれるのん」

「頭いいな……オーク」

「今見えてるオークを殺しても奥の森側にいるオークが巣窟に知らせてすぐ逃げるのん」

「なるほどな……そりゃ強力な魔法を使えば逃げるわけだ。森の中に逃げられたらもう見つけられないな……」

「大丈夫よ! 今度は上手くやるわ!」

「待て、どう上手くやるんだ? 先に教えてくれ」


 まーちゃんはフフンと鼻を鳴らし得意げな顔を浮かべる。

 どんな魔法を使うつもりなんだ?


「まずは私があの手前の見張りのオークを魔法で倒すわ。そして奥にいるであろうオークはゆーくんが倒すの」

「それで?」

「それだけよ!」


 やっぱりまーちゃんは馬鹿なのだろうか? 魔法の音だけで恐らく奥にいるであろうオークが気付き俺が近づく前に巣窟に知らせるだろう。

 その後は昨日や一昨日みたいに森の中へ――当然クエストは失敗だ。


「それじゃ魔法撃つわね! サン――」

「待て!」


 俺はまーちゃんの髪の毛を強引に引っ張る。

 そうしないと今頃魔法が放たれていただろう。

 すぐさままーちゃんがこちらに顔を向ける。


「何するのよ!」

「だから魔法は待てと言ってるだろ」

「あの、提案が――」

「何だ? リスティは何かいい案があるのか?」

「いい案かどうかはわかりませんが……ゆーくんがあのオークを静かに殺して、その後奥の入り口を魔法で塞ぐと言うのはダメなのでしょうか? 昨日は塞がないまま魔法を使ったので逃げられてしまいましたので」

「さすがリスティ! いい案ですね」


 リスティに対してクリスが拍手を送る。

 ――しかし確かにいい案だ。


「それじゃ――それ採用!」

「なんでよ!」

「まーちゃんの案は音ですぐばれるだろ」

「だからこそ、ゆーくんがスキルを使ってもう一匹を――」

「もう一匹は見えないから岩の後ろだと思うがそこまでスキルで行ったとしても既に巣窟の中に危険を知らされてるよ。俺はそんなに早くないぞ」

「もう! なんて使えないのかしら。さすがロリ勇者ね」

「いや、むしろお前の頭の中を解剖して見てみたいよ」

「何ですって!」


 俺とまーちゃんが掴み合いの喧嘩になりすぐさま横からリスティが喧嘩を止める。


「落ち着いて下さい。お願いですから争わないで下さい。それにあまり騒々しいと手前のオークにも見つかってしまいます」

「その通りだ。さすがはリスティ、やはりこのクエストは我々二人の方が成功率が高かったんじゃないか?」

「クリス、クエストは人が多い程いいと言ったでしょ」

「そうでしたね……それで? どうするんですか?」


 クリスが俺をジロリと睨む。

 その眼光に俺は怯まず答える。


「よし、それじゃ手前のオークは俺が殺す。後ろの――森側の入り口はまーちゃんに任せてもいいか?」

「任せなさいよ」

「あの岩を綺麗さっぱり粉砕するんじゃないぞ? ちゃんと崩して入り口を塞ぐんだ」

「ま、任せなさいよ」


 本当に大丈夫なんだろうか? もしかしたら粉砕するのでは? という疑問が残る。

 俺は横にいるフェリスにだけ聞こえるように声を発する。


「フェリス……もしまーちゃんが粉砕したら何か魔法で穴を塞げるか?」

「やろうと思えばできるん」

「さすが――あと岩が粉砕されずに崩れて入り口を塞いだ後、オークが岩を持ち上げない様に土系魔法か何かで上を覆ってくれないか? でないとまた森に逃げられる」

「わかったのん、ゆーくん要望多いのん」

「すまんな」

「いいのん、ゆーくんはいつもそうなのん」


 俺はフェリスの頭を優しく撫でる。

 本当にできた子だ――

 まーちゃんにフェリスの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


「さて――と」


 俺は立ち上がり聖剣を抜く。

 そして聖剣の剣部分を右手で挟むように持ち、左手をオークの方にかざす。

 そう、これは勇者たる俺が普通なら身に付けているはずがない技――かつての仲間、盗賊職ローグの男が俺に教えてくれた技だ。

 そういえば盗賊職ローグは食料の調達、肉の下準備、さらにはもし自分が死んだ時に盗賊職ローグの代わりは俺がしないといけないと言い色々と技を教えてくれたっけ……今思えばいい兄貴分だったな。

 俺は昔の仲間――盗賊職ローグのローブ越しに笑った顔を思い出す。

 そして俺は意を決して聖剣をオーク目がけて投げつける。

 聖剣は綺麗にオークの頭へと突き刺さりそのまま崩れ落ちる。


「今だ! まーちゃん」

「はいよ! <雷撃サンダー>」


 まーちゃんの豪華そうな杖から森側の入り口である岩に雷が迸る。

 そしてバランスを崩したのか、ドスンという音が三回鳴り岩が入り口を塞ぐ。

 その奥にはもう一匹のオークの顔がひょっこりと見えていた。


「フェリス!」

「はいなのん! <雷撃サンダー>!」


 フェリスの杖から放たれた魔法がオークの頭に直撃し、弾け飛ぶ。

 俺はそれを確認しすぐさま聖剣の刺さったオークへと向かう。

 そして聖剣を引き抜く。

 他のオークがすぐに異変を察知して地上に出てくるだろう――なのでまずはフェリスに塞いだ岩の上に何か魔法で重しをしてもらう事にする。

 後ろを振り返ると既に全員が俺の所に来ていた。


「フェリス――頼む」

「わかってるのん。<土精製クリエイトアース>」


 フェリスの杖から塞がれた岩に向けて土が降り積もる。

 このまま待っておけば土の重みで岩は当分動かないだろう。

 だが、その前に岩をどかされる危険性もある。


「リスティとクリスは森側の入り口を見張ってくれ。もしかしたら岩をどかされて逃げられるかもしれない」

「わかりました」

「了解した」


 二人は俺の指示を聞き、すぐさま塞がれた入り口へと向かう。

 俺はバッグから街の道中で買っておいた長い薔薇の茎を塞がれていない入り口に設置する。

 あとは逃げてくるオークがこちら側にきて薔薇の茎についたトゲで転げまわるという算段だ。

 それを俺が殺せばいい――すこし勇者としては卑怯だが、数がどれ程いるかわからないので仕方がない戦法だ。

 後ろを振り返るとまーちゃんが何か言いたそうな顔をしている。


「何だ?」

「ちょっと卑怯じゃない? ゆーくんは勇者なんだから出て来たオークを真っ二つに切り裂くとか――」

「いいのん! さすがはゆーくんなのん。その卑怯さは好ポイントなのん」

「さすがフェリス! わかってるな!」


 俺はフェリスに親指を立てる。

 すぐさまフェリスからも親指を立てた拳が帰ってくる。

 後はオークが出てくるのを待つだけだ。

 俺はオークが出てくるのを待ちながら聖剣を力強く握る。

 さぁかかってくるがいい! オーク共!

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