第7話 服屋で買い物
俺達は神殿の横にある建物に入る。
中はズラリと受付が二十程並んでおり、それぞれ列を作って自分の番はまだかと並んでいる。
よく見ると色々な種族がおり身長が低く髭が長いドワーフ、耳が長く長身なエルフ、その他にも爬虫類の二足歩行をしているリザードマンやゴーレムまでいるのがわかる。
職業も冒険者や魔法使い、農民のような格好の者まで様々だ。
一番驚いたのは肉が腐っているアンデッドですら並んでいた事だ――
腐敗臭によってかアンデッドの周りには少し空間が開き遠目からでもわかる。
「せめて臭いは何とかしろよ」と周りの人間も思っている事だろう。
恐らくここは小さい神様が言っていたスキルや技を会得する為の場所だろう。
どうやって会得するのかはまだわからないが、まずは宿屋を予約しておきたい。
俺は周りを見渡し列を案内している女性を見つける。
「あの女性にここの事を聞いてくるよ」
「私はここで待ってるね。ゲプッ――」
「うちも行くん」
フェリスはまーちゃんと二人になる事に抵抗があるらしく俺についてくる。
案内人であろう女性の前まで行くと、こちらが言うより先に声をかけられる。
「いらっしゃいませ。ご用は何でしょうか」
「すいません。宿屋で一泊したいのですが――」
「宿屋は奥の階段を上がって二階になります」
「なるほど、ありがとうございます」
後ろを振り返ると確かに階段があった。
少し遠いがまーちゃんとフェリスを連れて案内された階段を上がる。
するとテーブルと椅子が複数個あり、奥には受付が二つ見えた。
左の受付は奥に厨房が見え、りんごの甘酸っぱい匂いが漂ってくる――こっちは食堂の受付だろうか。
まーちゃんは口を手で覆いりんごの匂いを必死に拒絶していた。
それほどまでに昼食を食べすぎたという事だろう……。
そして俺は迷わず右の受付に行く。
「すいません。宿を借りたいのですが」
「何名様でしょうか?」
「三人です」
「少々お待ちください」
どうやら俺の推測は当たっていたようだ。
宿屋の受付であろう女性がパラパラと名簿らしき物をめくりだす。
部屋が空いてるか確認してるのだろう。
「三名様、一泊でよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「畏まりました。一泊ですと一金貨になります」
俺は小袋から一金貨を取り出し受付の女性に差し出す。
女性は金貨を受け取り鍵をテーブルに置く。
「部屋は右にあります通路を一番奥に行き左、四番になります。それと食事は付いておりません。横の受付で承っておりますのでそちらで注文をお願いします」
「服屋もあると聞いたのですが――」
「服屋は三階になります」
俺は振り返り先程上ってきた階段の方向に目線をやる。
もう一つ上があるのかと思いつつ先に部屋に行く事にする。
まずは荷物――と言っても俺は地図だけだが――を置いてから行くべきだろう。
それとまーちゃんも少し休憩させた方がいい。
なにせ先程から腹に手をやり苦しそうにしているのだ。
受付の女性が置いた鍵を受け取り自分達の部屋に入る。
すると、入るや否や「やはり」と言うべきか、左の手前にあったベッドにまーちゃんがダイブしているのが見えた。
枕を抱き「動けない」と体で表現している。
俺はそれを眺めつつ右側のベッドに座り込む。
「フェリスも好きなベッド――とは言っても、あとはまーちゃんの横か俺の横しかないがどっちでも好きな方を使っていいぞ」
「ゆーくんと一緒に寝るのはだめなん?」
「俺はいいが年頃の娘が男のベッドに潜り込むのはどうかと思うぞ」
「でもたまにゆーくんのベッドに潜り込んでたん」
「あれは寝ぼけてだろ?」
「わかったん。ゆーくんの隣でいいのん」
少し残念そうな表情を浮かべたフェリスも自分の寝るベッドを決めたようだ。
まーちゃんを見ていた俺はベッドに寝ころび大の字になる。
このまま眠りたい欲望に駆られる中、今日の予定を整理する――
この後は服屋に行きスーツから冒険者が着るような服に変えたい。
次に神殿に行き、その後この建物の一階でスキルや技を会得する。
最後は受付の所で料理を注文し飯を食べて寝る――そういえば風呂とかはないのだろうか? これだけ立派ならせめて体を洗うための井戸くらいはありそうだが……。後で聞いておくか――
俺は眠りたい欲望を抑え立ち上がる。
「どこか行くのん?」
「ん? ああ……上の階で服を買ってくるよ。スーツのままってのも動きにくいし何よりも暑い」
「うちも行くのん」
「まーちゃんは……来ないよな」
まーちゃんの方を見るが既に枕を抱き寄せ昼寝状態に入っていた。
俺はフェリスと共に部屋の外に出る。
通路を進み、上ってきた階段の所にもう一つ上へと続く階段を見つけた。
恐らく服屋へ続く階段だ。
階段の方に足を進めている最中、フェリスが俺の手をそっと掴んでくる。
「フェリスも服を買うか? その服は学校の制服だろ」
「うん、何か買うのん」
「二人合わせて十金貨くらいで収まるようにしたいな」
「節約なのん」
俺とフェリスは階段を上がり服がびっしりと並んでいる空間に出る。
その光景に俺達は「おお」と感嘆の声をあげてしまう。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
上ってきた俺達を見て、すぐさま店員らしき女性が駆け寄ってくる。
「はい――俺とこの子の分の服がほしいんですけど」
「わかりました。職業はなんでしょうか?
「俺は
「わかりました。
「軽装ですかね。暑いですし……」
「了解しました。お嬢様の方も軽装でよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
俺達は店員に案内され、それぞれの服を見て回る。
値段と動きやすさ等を考慮しつつ俺は鏡の前で服を自分の体に合わせたりし、ある程度目星をつけ試着室で着替える。
「お客様、お似合いです」
「ああ、動きやすいし値段も手頃だ。これを貰うよ」
「ありがとうございます」
「ゆーくんそれでいいん?」
「おっ、フェリスもいいの着てるじゃん」
フェリスも着替えをし終えて俺の前に立っていた。
黒を基調にしたドレスの様な感じだ――所々赤いリボンが黒を引き立てている。
そしてその上から赤いローブを羽織っていた。
「うちはこれがいいのん」
「わかった――すいません。二人分の会計をお願いします」
「はい、十五金貨になります」
俺の分が四金貨――あとの十一金貨はフェリスか……値段よりかわいらしさを重視したな? と思いつつフェリスの顔を覗き込む。
フェリスは「お願い」と言わんばかりの顔を俺に向ける。
その顔に俺の心が負けてしまう。
「転移祝いだ」
まーちゃんの事を責めれないなと俺が思っているのとは裏腹にフェリスの顔がぱっと明るくなる。
小袋から十五枚の金貨を取り出し渡す。
「あ――あと、ある程度物が入る鞄を三つお願いします」
鞄は重要だ。
特に冒険ともなると鞄がないと何も始まらない。
見た目も鞄に関してはどうでもよく、利便性重視で決める。
三つで合計十五金貨、まぁ安い方だろう。
服屋での合計、しめて三十金貨――結構使ってしまったが仕方がない。
鞄を一つフェリスに渡しもう一つは俺が肩から下げる。
そしてその中にスーツを入れる。捨てても良かったが、一応替えの服はあっても困らないだろう。
俺の行動を見てか、フェリスも自分の制服を鞄に入れていた。
残りの鞄を持って俺とフェリスは自室へと歩を進める。
帰り道、フェリスは俺の手をギュウと握ってくる……感謝の現れだろうか?
「ゆーくん似合ってるん!」
「フェリスもかわいいよ」
俺は決してロリコンではない――これだけは確かだ。
そう思いながら自室の扉を開ける。
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