第31話 試験勉強 中

「だから、歴史はそのまま暗記しても意味ないって。第一、楽しくないだろ? そいつがどんな奴なのかを知っとくと勝手に覚えれるぞ」

「うぅ……言ってることは分かるけどぉ……なおだって、数学は暗記なんでしょ?」

「全部な。教科書に載ってるのを丸暗記する」

「ほらぁ、矛盾してるよぉぉぉ」

「それはそれ。これはこれ、だ。第一、僕は自分で考えて」


「こっほん」


 目の前から咳払い。

 琴と目を合わせ、視線を向ける。

 そこにいたのは、微笑を浮かべている美少女。


「あー宮ノ木さん?」

「中ノ瀬君と恋ヶ窪さんは、とても仲良しなのですね。ふふ……ふふふ……まるで、お付き合いされているみたいに見えます」

「違」「そう見えるっ!?」

「ええ……とっても。ですが、折角の勉強会なのですから、私も混ぜていただきたいですね。恋ヶ窪さん、先程からずっと中ノ瀬君ばかりに聞かれて……」

「えーだってー。あーでもでも、こんな所でそうしてたら、なおと恋人に見えちゃうかな? かなっ!」

「……琴、お前なぁ」


 ペンをノートの上に置き嘆息する。

 今、僕等がいるのはカフェテリア。普段は早い時間に閉まってしまうのだけれど、試験期間中は開放され珈琲や紅茶、ちょっとしたお菓子も食べれる。

 放課後、今朝の約束通り一緒に試験勉強をすべく、僕と琴、そして宮ノ木さんはここへやって来たのだ。

 最初こそ、和やかな雰囲気でやっていたのだが……琴が、ちょくちょく僕へ質問をし、それに答えている内、宮ノ木さんの微笑が深く深く――あれ? この感じ、何処かで……。 

 取り合えず、腐れ縁の頭にチョップ。


「! いった~いっ。暴力反対っ!」

「少しは考えてから聞け。僕だって、今回はそれなりに真面目なんだ」

「あら? 中ノ瀬君、それはいったい?」


 宮ノ木さんが頬杖をつきつつ、僕へ尋ねてきた。

 何故か目がニヤニヤしている。

 ……そこまで、興味を持たれる事かな?


「あーちょっとした賭けをしてるんですよ。まー具体的な事とか決めてないんですけどね」

「賭けですか?」

「テストの点数勝負ですよ」

「へぇ……面白そうですね。中ノ瀬君、私ともしませんか?」

「謹んでお断りします」

「む、何でですか」

「宮ノ木さんが頭いいのを知ってるからです。僕は琴ほどじゃないですが、そこまで成績良くないですし」

「なお、ひどーい、ひどーい」

「教えてやらんぞ?」

「…………てへ♪」

「いいじゃないですか。是非、私とも勝負を!」


 宮ノ木さんが、優雅に紅茶を飲みつつ笑顔を向けて来た。

 笑顔。そう、笑顔なのだ。

 しかし、その目は……。

 頭を掻く。


「…………分かりました。勝った方が、さっきの件、奢るということで如何」

「うふふ、分かりました。それじゃ、少し本気にならないといけませんね♪」

「いや、本気でやらなくても勝ち目がないような――ん?」


 携帯が震えた。表示は『雨倉透子』。

 二人へ頭を軽く下げ、席を立つ。

 ……何となく嫌な予感。まぁ、気のせいだ。うん。


※※※


 中ノ瀬君が「はい、もしもし。何ですか?」と話しながら離れていきました。

 私の直感が告げています。きっと、女の子からです。

 面白くありません。私という、美少女を置いていくんですか、そうですか。


「……なおのバカ。で、さ――聞きたいことがあるんだけど」

「はい、何でしょう」

「宮ノ木さんって――……あ、うん、やっぱり、いいや。ごめんなさい」

「そうですか。では、私からも質問していいでしょうか」

「……なに」

「恋ヶ窪さんはゲームを――『剣魔物語Ⅱ』という、オンラインゲームで遊ばれていますか?」

「! ど、どうして、それ……う、ううん。あ、遊んでないよ。わ、私、ゲームしないし! なおからはよく聞くけどね」

「あら? てっきり」

「な、何?」


 にっこり、と微笑みます。

 すると分かりやすく動揺されました。

 ……確定ですね、これは。

 こうして見るととっても可愛らしい方です。

 はぁ、どうしてあの人の周囲にいる女の子達は、皆さん可愛かったり、綺麗だったりするんでしょうか。有罪です、間違いなく。

 ……試験終わったら、ぜっったいに美味しいパフェを奢らせないと。


「み、宮ノ木さん、そ、そこまで言って、何も言わないのは、ち、ちょっと」

「ああ、ごめんなさい。勘違いだったようです。お気になさらず」

「う~……宮ノ木さんって、思ったよりも意地悪だよね。私が知ってる女の子にそっくり……」

「違いますよ。恋ヶ窪さんが可愛らしいのでつい。それに、そんな事言ったら、貴女も私の知り合いにとてもよく似ています」

「へっ? そ、それって、どういう」

「――お待たせ。琴、宮ノ木さん、悪い。ちょっと野暮用で、これから出かけないといけなくなった。今日は御開き」

「私も行きます」「私も行く!」

「…………いや、人と会うんだけど」

「中ノ瀬君のお知り合いですよね? なら問題ありません」

「先約は私達だよっ!」

「あー……」


 彼が珍しく困った顔をされています。

 ――可愛い。

 自然な動作で、携帯を取り出し撮影。むふ。


「宮ノ木さん、どうして今、撮」 

「撮ってません」

「いや、だって」

「撮っていません。さ、では、移動しましょうか。中ノ瀬君のただれた交友関係を確かめないといけませんし。そうですよね」


 恋ヶ窪さんの耳元で囁きます。

 

「――フジさん?」

「!?!! な、何でっ!?」


 動揺する恋ヶ窪さんを後目に。私は立ち上がり鞄を持ちます。

 中ノ瀬君は、溜め息をつかれ肩を竦めました。



「……分かりました。ちょっと癖の強い人だから、喧嘩しないように」

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