異世界とおっさん

@tomato04

1.私とおっさん

 私の住んでいた村が魔物に喰いつくされてしまったのは5日前の出来事だった。 私はその時のことをよく覚えていない。覚えているのは僅かな食糧と水を持って逃げ出したことと父親が私を庇って───魔物に喰われたと言うこと。

 逃げ始めてからもうどれくらい歩いたのだろうか。 辺りはもう暗くなってきているし、靴もボロボロだ。逃げ出してからまだ一度も立ち止まっていない彼女に灯りをつける魔力すら残っていないのは自身が1番わかっていた。


 このままじゃ死ぬ。3日前に尽きた食糧を入れていた麻袋を見て、彼女の足は止まってしまった。


「あ……。」


 発動させていた探知の魔法に魔物特有の魔力反応を検知する。


「もうダメかな……。待ってて、お父さん、お母さん……。」


 地面に乱暴に倒れた彼女は、新しい魔力反応を検知したが反応はできず、魔物の唸り声を聴きながら目を閉じ、意識を手放した。


 ───────────────────

 ひどく都合の良い夢を見た。


 新しい魔力反応は人間で、魔物の唸り声はその人間にやられた悲鳴のようなものだったようで、魔物は一瞬で倒されてしまった。その助けてくれた人間に名前を聞いた。


 確か名前は────。


「起きろ!」


 突然の怒気をはらんでいるような大声に不恰好な返事をしてしまった。


「なんだその返事は……。 大丈夫か? 一度都ミングルに行って薬師を呼んでこよう。行く途中に俺の店があるから、君はそこで休んでいるといい。」


 朦朧としていた考えや視力が少しづつ戻ってきていた彼女は、目の前にいる自分よりも二回り以上大きいスキンヘッドの彼の質問には答えず、いつのまにか踵を返してどんどん進んで行く彼についていった。


「あの……。」


少し歩いたところで私は限界を迎え、この方におんぶしてもらっていた。そこから15分ほど経ち、ミングルの入り口がだいぶ近くなって来たころ、先までに感じていた死の恐怖もだいぶ薄れ、何よりも今目の前にいるこの男性──名前はなんと言うのだろうか、とにかくこの方に御礼を言わなければいけないと私は考えていた。


「ん、どうした。」


「私、貴方に御礼がしたいのです。あ、私の名前は『リリー』と申します。」


少し緊張しておかしな言い方になっていないだろうか。そんな様子の私を感じ取ってくれたのか、ニカッと笑ってそのまま続けてくれた。


「おう、リリーって言うのか、よろしくな! リリーが気を失う前に一応名乗ったが、もう一度言っとくよ。俺の名前は『リュウ』だ。今年で30になるから俺のことは名前で呼ぶか『おっさん』って呼んでくれ! 今はミングルの外れで店を構えてるから、まずはそこに行くぞ。御礼をしてくれるって言うんだったら店に行って元気になってから頼む! あと1分も経たないうちに着くぞ。」


おぶってもらっている私に言うにはあまりにも大きい声でリュウさんは私に答えた。


もう目と鼻の先にそれらしい建物があるのだが、"それ"に店を構えているという感じはしなかった。


というか、家としてもどうなのだろうか。


建物の周りには草が生い茂り、人がその中に進むにはあまりにも整備されていない土地、ここを店だと言えと聞かれたら唯一店らしい何か読めない文字の書いてある看板があることくらいだろうか。


「あの……。ここがリュウさんの言っていたお店でしょうか?」


「ああそうだ。しばらく店を空けていたからだいぶ不恰好になっているけどな。ここは"よろず屋"。まぁ、意味合いとしては困ったことがあれば何でも代わりにやりますよ、って店だ。……と、さぁ着いたぞ。」


この魔物が跋扈し人々の生活がいっぱいいっぱいになっている世の中、何でも屋なんてあるのか、そんな疑問を持ったまま店の中に入り入り口で私を降ろすとそのまま奥の椅子に座り私に向かってこう言った。


「ここは万屋、なんでもする店だ。お前は何か困ったことでもあったのか?」


魔力検知した時から、リュウさんが並大抵ではない魔力の持ち主であることはわかっていたが、いざ目の前にしてみると確かにそこかしこにキズがあり、それがリュウさんの凄みをより感じさせているように見える。

……と、まぁここまでリュウさんの言ってることを無視してある程度思考していたけれど、今私の一番の依頼したいことは。


「あの……、何か食べさせてもらっても良いですか?」

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