カクヨムではなぜ小説の章立てにエピソードという言葉が使われているのかについての一考察

@ennoshin

カクヨムではなぜ小説の章立てにエピソードという言葉が使われているのかについての一考察

 カクヨム愛好者の皆様、お元気になさっているでしょうか。五月の十五日、本日の最高気温は二十七度とか。暑いです。まあ昔っから東京の五月というのは蒸し暑いですから、こんなものだと諦める他はありません。何しろ夏至が六月の二十日前後ですからね。太陽の位置ももうすでに相当高くなっているわけです。暦の上でどうとかではなく、立派な夏なわけです。はい、諦めましょう。

 それで「エピソード」ですね。はい。筆者はつい最近この『カクヨム』を利用するようになったのですが、その時モーレツな違和感を覚えたのがこの「エピソード」という言葉の使い方です。エピソードって普通「挿話」ですよね? それをこのカクヨムでは小説の本文という意味で使っている。まるで神奈川県を千葉県だと言っているような違和感です。

 気になって仕方ないので広辞苑を引いてみると「エピソード」はこう定義されております。「物語の本筋の間に挿入する小話。挿話」と。音楽用語としての面もあるようで「主要主題やそれに基づく楽節の間に挿入する副次的な楽節や楽句。特にフーガやロンド形式で主要主題とは別趣の補助的挿入句」とも書かれてある。要するにメインディッシュであるステーキに添えられたポテトや人参が「エピソード」であるわけですな。

 しかるになにゆえカクヨムでは小説本体をエピソードなどと呼ぶのか? 小説の区分けの便と言うのならば「章」とか「チャプター」という語の方が明らかに適切であるにもかかわらず。

 日本ポップス業界ではテンポの遅い曲を「バラード」と呼んでおります。誰がそう呼び始めたのかは分かりませんが、そう慣習化しております。元々の「バラード」は故事伝説などを題材とした物語性のある詩の事で、またそういう詩に基づいた器楽曲にも使われる言葉です。楽曲のテンポなどは無関係です。四曲あるショパンのピアノ曲の「バラード」はいずれも物語風の劇的な起伏に富んだ曲で、テンポは決して遅くありません。またポップスの世界でも有名な「ジョンとヨーコのバラード」なども決してスローテンポではありません。それがどうして日本ポップス業界でだけスローテンポの曲をバラードと呼ぶようになったのか? どうも武田鉄矢の「母に捧げるバラード」辺りがA級戦犯だったのではないかと個人的に疑っておるのですが……ねえ。大ヒット曲ですし、あの冒頭部分のスローテンポはとっても印象的ですよねえ。あの曲のせいで多くの日本人が「バラード=スローテンポ」と刷り込まれてしまっても無理からぬ所です。

 言葉というのは誤用が通用化してしまう事がままあります。「セレブ」というのは有名人という意味なのですが、その使用例を見てみると「金持ち」という意味合いで使っている人の方が多いように思われます。「破天荒」というのは未曾有や前代未聞と同じく史上初という意味なのですが、なぜか言動が荒々しいとか型破りといった意味で使っている人の方が多いように見えます。型破りならば型破りと言えばいいじゃないかと思いますが、なにゆえ型破りではなく破天荒と言いたがるのか、その辺りの心理の研究はまだ筆者には不十分であります。

 挿話を意味するエピソードという言葉がどうして小説本体をさす言葉として使われたのか? 筆者には一つだけ思い当たる事実があります。大ヒット映画の「スターウォーズ」シリーズです。はい。あの作品四作目から「エピソード1」「エピソード2」などという副題を入れ始めました。はい。どうしてそんな言葉を使ったのかと推測してみるに、あの「エピソード」という副題は、これが壮大な宇宙戦史のごく一部であるという隠喩が込められているのは明らかです。はい隠喩でございます。ところがスターウォーズシリーズはあまりにもメジャーになってしまったために、その副題である「挿話」という言葉を「第一章」「第二章」などと勘違いしてしまった人も膨大な数になってしまった……というのが事実なのではないでしょうか。そしてそういう数のパワーがカクヨムにまで影響を与えてしまった、と。

 人妻という言葉は他人の奥さんという意味です。結婚した女性という意味ではないのですが、そう誤用している人も多い。人が多い事によって誤用が通用化してしまう。それが言葉の宿命です。

『母に捧げるバラード』と『スターウォーズ』は共に日本語を変えてしまったという点で同じぐらいの戦犯だったのでしょう。



 



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