第3話
目が覚めた時僕は雨の滴る原生林の中にいた。
「ここ…どこ?」
「元極東ロシアの東の方」
そっけなく彼女は答えながら食欲のそそる香りのスープをバーナーで温めていた。
「おいしそう」
食欲に抗えずつい僕は声に出す。ハイジャック犯が人質に食料を渡すかはいささか疑問だが、僕は欲しそうな目で彼女の瞳を見る。
「…残念だけどあなたに食べ物は渡せない。500年眠っていた重病人だからこれで我慢して」
差し出されたのは飲み物と薬三錠。
がっかりしながら受け取り聞き返す。
「500年ってなんのことですか?」
「話が長くなるから後で話す」
そう言い彼女はあらかじめ地面に掘っていた穴に調理道具やいろんな物を詰め込み、ひどい匂いのするスプレー缶を吹き付けて埋めた。
「歩くからついてきて」
スマホを見ながら彼女は早足で歩き出した。
…もうかれこれ何時間は歩いただろうか?
やせ細った僕の足にムチを打ちながら取り憑かれたかのように延々と歩く。
すると何かが見えてきた。
道路だ。
ガーと音を立てながら車が通り過ぎていく。
何時間かぶりの人工物にまるで砂漠のオアシスかと思わずにはいられない。
僕が感動して立ちすくんでいると彼女が車道に出た。
そして流れるように彼女は止まった車の運転手を殺害、死体を茂みに隠して「さあ乗るよ」なんて言ってくれる。
別の意味で僕はまた立ちすくんだ。
「…ちょっと今」
「いいから早く」
僕は車に乗り込んだ。
彼女が「そういえば話さないといけない事があった」と運転しながら呟く。
彼女によると僕が事故った時、植物状態になって老化せず研究対象になったらしい。
違法スレスレの実験とかもしたおかげでみんな不老になったけど、人権団体が騒ぎ出して裁判沙汰になった。
結局は本人が目覚めたら研究を中止しろってなったけど数十年前からとっくに目覚めてて今日まで常に麻酔を効かせて気絶させてる状態だった。
「そんな事があったんですか」
「そう、だから麻酔の禁断症状が凄いことになる」
「えっ」
「気おつけて」
「えっちょっ」
急に目覚めたら犯人と隣合わせ、しかも人権無視&薬物中毒宣言。
「そんな嘘ですよね?」
「これを見れば分かる」
スマホの様なものを渡し「いろいろ検索すれば私が言っている事が分かる」と言って画面にGoogleの文字が浮かび上がった。
そこからは何時間もネットサーフィンを続けた。
単にCGや偽サイトでは片付けられない様な情報の数々。
今乗ってる車だって変な技術のてんこ盛りで妙な吐き気を覚える。
何より興味の矛先が向いたのが
第三次世界大戦
前見た世界地図と今の世界地図が所々変わってる、白色の部分が増えた。
戦争の動画は奥行きのある立体で表示されるし、どっかの国の偉い人が目頭を熱くして演説してる。
そしてどのサイトもどの記事も最後は LOVE & PEACE. の一文。
他にも僕に関した記事が多かった。
正に世紀末だ。
あるサイトが目に入った。
”すでに絶滅のカウントダウンが国連から発表されている!人類存続の鍵がNeconomi Puzzleにある!”
「ネ…コノミ…パズル?」
そのサイトはまるでヒトラーの演説のように過激で何も知らない僕から見ても極端な思考の持ち主だなと推測できた。
それによるとネコノミパズルは出産率0%の現代。ヒトの遺伝子情報を改変させるための研究内容であり、気の触れた学者がその研究結果を暗号化、世界で一つだけの研究施設を爆破して自殺したと書いている。
あとはその学者の批判。
暗号を早く解かない政府の批判。
そして研究対象で有った僕の批判。
もう頭がおかしくなりそうだ…
稚拙な記事のせいか麻酔の禁断症状のせいかどんどん言葉では言い表せない気分に落ちてくる。
「もういいです」
僕は彼女にスマホを返す。
ただただ不快だ。
なんか幻覚が見えるし色彩が敏感になってい
く。
もう…眠たい…
座り心地のいい座席の中で僕は眠りに着いた。
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