第33話

 そして、三日後。


「……ついにここまでやってきたわね……」


 地下鉄のトンネル、その入り口にメアリーとリニックが隠れていた。隠れている理由は単純明快。軍の兵士が地下へのトンネルに検問をかけているためだ。だから鉄道も一度停止して全員の個人情報を確認せねば進めることが出来ない。


「想像以上に、厳重体制で剣を隠しているのね……。何というか、これじゃあ、埒外よ。どうしようもない」

「でも、これから陽動をかけて……」

「ええ、だから生まれる隙はほんの一瞬でしょうね。それを利用して、」


 どがあああああああああああん!!!! と巨大な爆発音が聞こえた。

 その爆発音は何かを破裂させたような音で、恐らく何かを仕掛けていた爆弾が爆発したものだろう。

 そして、その爆弾は先程検問を通っていた列車からだと確認出来る。


「……何が起きたの……?」


 流石に予想外の行動が起きたので、メアリーは目をぱちくりさせていた。

 しかし、リニックは違う。

 そんなことを確認するよりも、行動あるのみという手に出たのだ。


「り、リニック!」

「行くなら体制が混乱している今です! 狙っているかどうかは分からないけれど……もしかしたらあの手口は、オール・アイの可能性だって有り得ますよね?」

「オール・アイが……。成程、面倒ごとを全て吹き飛ばしてしまえ、という戦法ね……。むちゃくちゃにも程がある戦法といえば、その通りかもしれないけれど、」

「そんなことを言っている暇があるなら、さっさと行きましょう!」

「わ、分かっているわよ!」


 そして、メアリーとリニックは爆炎立ちこめる列車爆発事故の現場へと向かうのだった。



 ◇◇◇



 そして、一足先にその現場を通過している人間が二人。


「ライラックがまさかこんな作戦を思いつくなんて思いもしなかったけれど、」

「でもおかげで先に進めましたね?」


 オール・アイの言葉に、そりゃあそうだけれど、と答えるロマ・イルファ。

 列車爆発事故の要因は、小型の水素爆弾だ。

 ロマ・イルファは水を生み出すことが出来る。その水を電気分解した後、炎をぶつける。それにより爆発的なエネルギーを生み出すことが出来る。それが水素爆弾の簡単なメカニズムだ。


「水素爆弾、ね……。随分と昔にもそんな戦法を利用した人間が居たような気がするけれど」

「何か言ったかしら、ロマ・イルファ?」

「いいや、何も。……あとは、どう進めば良いのかしら?」

「ええと……」


 オール・アイは目を瞑る。

 そうして持っていた杖を彼女の顔から少し離れた位置で一周回すと、目を開いた。


「分かりました。さ、先に進みましょう」

「一応確認だけれど、本当にそれで分かったの?」

「分かりましたよ? 確認します?」

「確認する方法がどうやってあるというのか、逆に教えて欲しいレベルなのだけれど」


 そうして、彼女たちは先に進む。

 祠へと向かう最短ルートを通って、彼女たちはさらに前へ、前へ。



 ◇◇◇



 ぱちり。電気がはじける音がトンネル内に響き渡る。

 燃え尽きた後の列車を実況見分するのは、警備隊の仕事だ。

 しかしながら、今日は訳が違う。

 何故だかその実況見分に、帝国のカラスミ=ラハスティ将軍が同行するということになった訳だ。


「なあ、どうしてカラスミ将軍がいるんだ?」

「知るかよ、そんなことよりさっさと実況見分終わらせちまおうぜ。見た感じ、ただの爆弾によるものっぽいしよ」

「そこの警備隊、今の話、少し聞かせてくれないかな」


 警備隊の二人の会話を、カラスミは聞き逃さなかった。

 カラスミの言葉に二人は即座に敬礼し、丁寧に情報を提供する。

 下手に変なことを言ってしまうと、その場で斬首ものだ――あくまでも噂の範囲だが。


「……成程。ということは、水を使った爆弾ということだな?」


 一通り話を聞き終えたところで、彼女はそう結論づけた。


「いえ、正確には水を構成する分子によるものが原因でして……」

「?」


 カラスミは首を傾げ、


「私は難しい話が苦手なんだ。要するに、水が原因で作られた爆弾なのだろう? そんな爆弾を開発可能な施設は? この星に存在するのか?」

「い、いえ……。確かにこの分子は水を構成する分子によるものですが……、流石にそれによる爆弾を作ることが出来るか、と言われると……」

「無理なのだな」

「は、はいっ」


 カラスミは踵を返す。とどのつまり、この爆弾は進みすぎた科学……或いは魔術かもしれない、によって開発されたものである、と。

 と、なると、答えはただ一つ。


「これを生み出したのは、オール・アイの一派か、或いはアンダーピース……。いずれにせよ、我が国に被害を齎すなど絶対に許せん」


 今回の列車事故では、何人もの人間が亡くなっている。

 それについては原因究明が急がれるばかりだし、犯人も捕らえなくては成らなかった。


「いずれにせよ、奴らは我ら帝国にやってくるはずだ」



 ――理由は単純明快。剣の欠片を三つこちらが所有しているからだ。



 だが、その剣がどういう意味を成しているのかは明らかになっていない。『偉大なる戦い』によって使われた剣であるということは明らかになっているし、歴史の教科書にも載っている程の常識だが、しかしながら今になってそれを使う意味がさっぱり分からない。

 それを使うことで、世界を変えてしまう程の力を得てしまうからか?

 それとも、それを使わなくては成らない程の脅威が出現してしまうのか?

 結論は考えても出てこない。それに、幾ら考えたところでそれが正しいかどうかははっきり分からないし、分かるはずが無い。だったらさっさとどちらかを捕らえて吐かせれば良いだけの話だ。それがどうして今に成って必要になったのか、その理由を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る