第五章
第31話
アント。
機械文明になっているその場所は、カトル帝国の主要都市となっている。
そして、アントにはカトル帝国の第一基地があり、そこには軍事の中心があると言われている。
第八会議室。
「カラスミ将軍。君は剣を手に入れているという話は、本当かね?」
目の前に座っている男とは、腐れ縁の仲だ。しかしながら、そこまで仲良くなく、寧ろ悪い方に入ると言ってもいい。
キャビア=レークサイト。
第一基地を管轄する将軍であり、彼はこのアントにある祠を管理している人間だ。
そして、カトル軍のリーダーでもある彼は、各基地の将軍の上に立つ存在でもある。
そんな人間に、嘘を吐いて上手く誤魔化すことは、そう簡単な話では無い。
諦めた彼女は、深く溜息を吐いた後、答えをはっきりと告げることとした。
「……ええ。あなたの言うとおりですよ、私は剣を既に三つ手に入れています。しかしながら、カトルとトロワについては剣を手に入れていない……。それどころか、トロワに至っては星が消滅したという報告も上がっている」
「それは、君が『見逃した』という一味によるものでは無いのかね?」
「さあ、どうでしょう? それは聞いてみないとなんとも言えませんが」
「……聞いてみないと、なんとも言えない……ね」
キャビアはそう言うと、伸びていた顎髭に触りつつも、
「しかしまあ、随分と嘗められたものではないかね、このカトル帝国が? アースの一組織に。アースはもう人間が滅びてもおかしくない、いつ人間の住める環境が狭まってもおかしくない状態にあるというのに、我々がアースに目を向ける必要は無い、と言われている。まあ、皇帝陛下が『母星への帰還』を命じているから致し方ない事ではあると思うがね」
「皇帝陛下を卑下しているのか?」
「まさか、そんなことをするはずがない。君と私の仲だろう?」
「そんな仲になった覚えは無い。これっぽっちもな」
「冷たいなあ、カラスミくん。……で、どうするつもりかね? 彼らは次にやってくるとしたら、このアントでは無いかね?」
「彼らがどれほど力を身につけたか、というところでしょうか。剣の力を身につけて未だ日が浅い。剣に振り回されるか、剣を使いこなすか。それについては、実際に剣を交えてみないとなんとも言えないこと」
剣を構えるカラスミを見て、深い溜息を吐くキャビア。
「……何というか、相変わらず、戦闘狂と言ったところか。そろそろ男とくっつくつもりは無いのか」
「私が、か?」
「そうだ。お前が、だ」
「私はそんな柄ではないよ。お前だってそれは知っているだろう?」
キャビアはそれを聞いてうんうんと頷く。
「それぐらいは知っているぞ。だが、昔から言うでは無いか。女は家庭に入るべきだ、と」
「それは昔の話だ。今は男だって女だって剣を振るい、国のために戦うのが一般論だ。世間もそう認めているでは無いか」
「そりゃあ、」
キャビアはどこか遠くを眺めて、
「そうだが……」
「そういうわけで、私はこれからも任務を遂行する。……あれがあれば、帝国も力を発揮できる。そうだろう? 正確に言えば、『どのような力をも手に入れる事が出来る』だったか。陛下が何をお望みか分からないが、剣の力を真に使える人間が出現した。そして、それがアントにやってきてくれる。なんと良いことか。かつての人間が使っていた言葉に、『飛んで火に入る夏の虫』なんて言葉があるらしいが、まさにそのこととは思えないかね」
「まあ、今はこの世界に季節なんて概念は存在しないがね……」
「……二千年近く昔の話だったかしら、その戦いにより世界は崩れ、地軸のずれにより季節という概念は失われ……、結果的に、この世界はどうなってしまうのかしらね。とてもいびつな世界になってしまっているわけだけれど?」
「さあな。それを決めるのは俺たちじゃあない。もっと上の立場の人間だろうよ。或いは人間じゃあないかもしれない」
「そもそも私たちに決められる立場の話じゃあないってことね……」
窓から外を眺めるカラスミ。
「あら、雨ね……」
外は雨が降り出していた。
それはまるで何かを報せるようにも感じられた――。
◇◇◇
アント国際空港に到着したメアリーたちを待ち構えていたのは、土砂降りの雨だった。
「……最悪ね。まあ、雨雲を突っ切った時点で予想は出来ていたけれど」
「今日はどうするつもりなの?」
メアリーの言葉にライトニングは尋ねる。
メアリーは頭を掻いた後、ライトニングたちに答えた。
「え? ああ……ええと、取りあえず先に宿を取りましょう。もう疲れたわ……。一日休むとまでは行かなくとも、今日はここで一泊しましょう」
国際空港には、たくさんの人間(無論人間以外の存在も居るのだが)が往来するためか、ホテルが併存している。だからそこを上手く利用してしまおうという考えなのだろう。
問題は、そのホテルに空室が存在しているか、どうかなのだが――。
◇◇◇
「いやあ、なんとかなったね。運が良いことに、シングルとはいえ全員分の部屋が確保が出来るとは」
「シングルだからこそ、奇跡に近いわよ。だって、こんなに巨大な空港に一番近いホテルが人数分だけ空室があるなんて、奇跡よ。奇跡」
取りあえず、今は作戦会議ということでメアリーの部屋に全員が集まっている状態だ。
メアリーはベッドに地図を広げる。地図は先程ホテルのラウンジで購入したものらしい。
「ここが空港。そして、この都市の中心……その地下に祠はあるわ」
「何故それは確信だと言えるんですか?」
「そりゃあもう。ライトニングから聞き出したに決まっているじゃあない」
「ライトニングが……祠の管理に何か関わっている、と?」
それを聞いたメアリーはきょとんとした表情で、リニックを見つめる。
「あら? 言っていなかったっけ?」
「……メアリーはいつも言うことが遅くなるの。言うよりも先に行動が出てしまうの。悪い癖なの」
「もう、そんなこと言わないでよ。……ええとね、このライトニングは、というかライトニングって名前じゃあないんだけど。……これについては言ってもいいよね?」
こくこく、と頷くライトニング。
というか言った後に事後承諾を得たところで問題ありありなのだが。
「彼女の名前……ライトニングじゃあないのよ、正確には、ね。ライトニングは、私が適当につけた名前。彼女は、かつての旧文明からこの時代を観測し続けて、そして今は私とともに行動をしているというだけに過ぎない。その名前は、キガクレノミコト。かつては『日本』という国で神の一柱を演じていたらしいが、今はその神の地位を捨て『眷属』にしたらしいけれど、ただまあ、眷属がどうのこうの、あなたにはあまり関係の無いことかしら?」
「いや……何というか、情報量が入りきらないというか……」
「人間というのは、弱っちい生き物なの」
「弱っちい……は余計過ぎないか? いや、まあ、何というか……凄いのは分かったんだけど……」
「キガクレノミコトはもう古い名前だから、あまり気にしないほうが良いの。今の私はライトニングという名前、それだけで良いの。……良いの?」
「なんでそこで再確認するのかしら、ライトニング? 別にあなたが良いと思えばそれで良いんじゃあない? だめならばだめで良いけれど、そしたら名前を元に戻せば良い。名前なんてものはあなたがあなたであることを決める数少ないピースの一つなのだから」
「……それじゃあ、ライトニングで良いの。今の私はそれが似合っているの」
ライトニングはこくこくと頷く。
「……それならそれで良いわね。あなたがそう思っているなら、それで生きていくべきよ」
メアリーはライトニングの頭を撫でながら、そう言った。
ライトニングはそれが気持ちいいのか、笑みを浮かべながら、そちらを見つめていた。
「……さて、それじゃあ、作戦会議の仕切り直しと行くかしらね」
そして、メアリーたちは作戦会議を(漸く)再開するに至るのだった。
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