第30話

 村長が手に取っていた剣を手に取ると、それを見てにやりと笑みを浮かべる。


「ついに、手に入れたわ。剣の『欠片』を」


 そうして、空間に円を描くと、そこに穴が生み出された。

 そこに剣を放り込むと、再び円を描く。すると穴は閉じ、そこには何も無くなった。


「……あとは、それを知る人間を全て殺すだけ、ね」


 ポケットから銀時計を取り出して、時間を確認する。


「あと一時間、余裕はあるわね」

「村長っ!」


 そのとき、声が聞こえた。

 開いていた祠の入り口を見ると、親衛隊の一人――ピローがそこに立っていたのだ。


「き、貴様! 村長に何をしたっ」

「何って、殺しただけよ。あなただって人が……いいえ、リザードマンが死ぬ瞬間なんて見たことがあるでしょう? 見たところ兵士のようだし」

「貴様ああああああああああああああああっ!!!!」

「……しかし、兵士に必要なのは力だけじゃあ無い」


 オール・アイが彼に手をかざす。すると、そこから鋭い針が無数に生み出され、彼の身体を貫いた。


「あがああああああああああああっ!!!!」

「余裕も必要なのよ、正面から突撃するなんて無謀もいいところ。……それぐらい分かっておきなさい、兵士ならばね」


 そして、オール・アイは血まみれになった祠を後にする。


「さあ、後は」



 ――その事実を知るリザードマンを皆殺しにするだけ。



 ◇◇◇



 それからは、早かった。

 村長の家に居る学者は全員殺害し、親衛隊も息の根を止めた。

 残りの住んでいる人間は殺害こそしなかったが、禍根を残さないために、ある手段を用いた。


「……ええと、先ずはこの星のマグマの流れをうまくコントロールして……」


 北東の小島に着陸する宇宙船を見上げながら、オール・アイは何かをしていた。


「オール・アイ? もう終わったのかしら」

「ええ、もう終わりましたよ。剣は後で出しても良いかしら」

「構わないわ」


 外に出てきたロマ・イルファとの会話をしつつ、何かを作っているオール・アイ。


「オール・アイ……いったい何を作っているのかしら?」

「斥力爆弾、とでも言えば良いでしょうか。簡単に言えば、電子と電子が突っぱね合う力を利用して、そのエネルギーを爆発に変える。簡単なものですが、設計図が無いと流石の私も作るのには時間がかかりますね……」

「ここに居る人間を、皆殺しにするということ?」

「人間というより、リザードマンと言えば良いでしょう。彼らには人権はありません。それに、剣を持って行かれたことを知られては困ります。帝国の領土ではないから、消すのは簡単です」

「だめよ、それは!」

「あなたが言っても無駄です。これはもう実現されたこと。……よし、これで完璧です」


 そうして、穴から何から落ちてきた。

 それは小さな球体だった。球体に時計がつけられたそれは、十五分のタイマーを指していた。


「……あとはこのスイッチを押すだけです。ライラック!」

『はい?』


 突然声をかけられたライラックはスピーカーを通して、オール・アイの言葉に答える。


「今から十五分後にこの惑星を爆破させます。良いですね、大急ぎで出発する準備をしなさい!」

『それならいつでも出来ますよ! エネルギーも充填完了済です!』


 オール・アイは頷くと、スイッチを躊躇いなく押した。


「さあ。急いで逃げましょう。もうこの星に未練はありません」


 オール・アイはロマを押し込むようにロケットに入る。

 そしてロケットは五分後には完全にトロワを離れていくのだった。



 ◇◇◇



「トロワが爆発した……ですって?」


 そして、そのアナウンスを宇宙船の中で知ったメアリーは、思わず崩れ落ちそうになった。


「メアリーさんっ」

「大丈夫、大丈夫よ、リニック。……それにしても、奴ら、そんな強攻策をとってくるなんて思いもしなかった。どうしましょう、きっと剣も手に入っていることでしょう」

「こちらにある剣と、あちらにある剣、そして残りは三つ……。どっちが先に手に入れるか、ですよね」

「決まっているわ、こちらが先に手に入れて、そしてその剣も出来ることなら手に入れたいけれど……」

「総帥、今来ました。この船はアント国際空港へ行き先を変更するようです」

「アント……って、機械文明の?」

「そうね。一番旧時代の色が濃く残っているとも言われている、アント」

「アントには知り合いもいないんですよね……。だからしらみつぶしに探すしか無いと思うのですが」


 レイニーの言葉に、メアリーは言った。


「そりゃあ、最初からしらみつぶしに探すつもりよ。……それに、こちらには強力な『眷属』が居る。……ええと、」

「ライトニング、なの」

「そう! ライトニングが居るでしょう?」


 今の動作が、少しだけおかしいと思ったのは、リニックだけだった。

 だが、問いかけるわけにも、指摘するわけにも、いかなかった。

 そこで彼女たちの良い雰囲気を崩すわけにも、いかなかった。


「それじゃあ、次の目的地は、アント。……アント国際空港にはどれくらいで到着するのかしら?」

「ああ、それなら――」


 レイニーの言葉をかき消すように、アナウンスが入ってくる。


『……皆様、このたびはご迷惑をおかけして申し訳ございません。トロワの大爆発により、空港への移動が出来なくなりました。その関係上、アント国際空港へ緊急着陸と致します。到着時間は今から五時間後になる見込みです。皆様には大変ご迷惑をおかけ致します』


 機械的なアナウンスを聞いたメアリーは頷く。


「あと五時間……。それまでにアントの剣が奪われていなければいいけれど」


 そうして、彼女たちの目的地はトロワからアントへと変更することになった。

 二つの剣はそれぞれの勢力によって一本ずつ奪われてしまった。

 残る『伝説の剣』は、三本。


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