第3話
とは、いったものの。
「……結局、どうやって脱出するんだってかあれはいったいなんなんだなんのためにこの大学を襲った!」
「……五月蝿いですね。質問は一つずつ受け付けますよ。順々に答えていくと、先ず、どうやって脱出するか……ですよね?」
リニックはこくりと頷いた。
「脱出方法は既に考えています。……敵がやってくるスピードについては正直想定外でしたが、それでも何とかなるでしょう」
「おい、今想定外ってワードが聞こえたぞ⁉︎ ほんとうに大丈夫なんだろうな……」
「私たち『アンダーピース』に掛かればそれくらいお茶の子さいさいですよ!」
アンダーピース。
地下の平和、とでも訳すべきか。その単語に彼は違和感を拭い去ることは出来なかった。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。今はなんとかしてここから脱出せねばならないのだ。リニックは更に話を続ける。
「……兎に角、緊急事態だ。脱出手段についてはそちらに任せるよ。……後の二つについても答えてくれるだろうね?」
「もっちろーん。ええと、テロ集団が何者かという話と、何故ここを襲ったか……でしたよね? 前者についても後者についてもはっきりしています。先ず前者は、『ラグナロク』という名前のテロ組織です。目標は世界の救世主たりえる勇者の殲滅。……単純にして簡単な答えですよ。そして、何故ここを襲ったか。それも簡単。ここに勇者がいるからですよ!」
「勇者が? ……ちょっと待て、話についていけないぞ」
「ついていけなくても仕方がありません! 何せこれは未だ知っている人間も少ないですからね。世界が僅か百年で再び危機に瀕するなんて……誰も思いやしませんよ」
「百年前。……ああ、この世界がこうなってしまった元凶だったな? 噂によれば、別の世界と接続されてしまったからそのプールされていたエネルギーが膨れ上がって破裂した……って」
「そんなのデタラメですよ。半分合ってて半分違う、とでも言えばいいですか。いずれにせよ、その考えは早々に変えるべきですね。あなたは勇者なんですから!」
「……は? 今なんと」
「だーかーらー! あなたは勇者なんですよ! この世界を救う神様に認められし存在! ……あっ、正確には未だ認められてないっか。これから認められますからねー。安心してくださいっ!」
「……いや、なんの冗談だ? 僕が救世主? いったい何を……」
「ごちゃごちゃ言ったところで何一つ問題は解決しませんよっ! さあ、向かいましょう! 先ずは私たちアンダーピースのアジトへ! そうしないとあなたはさっさと殺されてしまいます! 有意義な生活、送りたいでしょう?」
そんなことを言われても、となってしまうリニック。
しかしその沈黙を許さない現状がある。
爆撃は鳴り止まない。足音が着実にこちらに近づいてきている。
「さあ、どうしますか。どうなさいますかっ。急がないと、私もあなたもランデブー?」
「何を言いたいのかさっぱり分からないけれど、分かった! 分かったよ! とにかく、一緒に出るしかねえだろっ!」
「そうこなくっちゃ!」
「何をしているの、レイニー」
気づけば。
少女がふわふわと浮かんでいた。
否、それは少女と呼べるのか?
少女と言うよりも――幼女。
それも金属バットを持った幼女が、ふわふわと浮かんでいた。
「……ライトニング……! あなた、いったいどうしてここに……!」
ぼこっ。
レイニーが驚いていると、ライトニングが持っていた金属バットで彼女の頭を殴りつけた。
「どうして殴るんですかあ! 痛いですよ!」
「そもそも、今回は私とあなたの合同作戦だったはず。忘れていたのかしら?」
「え、えーと……そうでしたっけ?」
ぼこっ。ぼこっ。
今度は二発。
「痛いですってえ……、ぐすっ、ひぐっ……」
あまりの痛さにレイニーは泣いていた。
それを見てさすがのリニックも、どうすればいいのか分からなくなっていたのだが、
「さて、あなたがリニック・フィナンスね。……何というか、想像より腑抜けているように見えるけれど、ほんとうに本物?」
「ええっ、本物ですよっ。だって、それは『総帥』が確認してるじゃないですかっ!」
「総帥……ああ、彼女の話は冗談半分で聞いた方が良いと思うけれど。だって、彼女、お菓子食べながら作戦会議出てたでしょ?」
「ううっ、確かに、言われてみると……」
「お前達のトップって、どんだけやる気無いんだよ……。何だか、ついて行くのがどうにも、」
どんどんっ!
ドアを乱暴にノックする音が聞こえる。生憎リニックの研究室は鍵をかけていたため簡単に開くことはない。それが今回は功を奏したと言えるだろう。
「まずいっ、もうここまで来ましたか!」
「とにかく、脱出するの。『常闇の門』を利用して、」
「あれ、内臓が引っ張られる感覚がして好きじゃ無いんですけれど」
「そんなことを言っても、逃げられないの」
そうして、レイニーはライトニングに無理矢理引っ張られて、いつの間にか出現した黒い穴へと放り投げ出された。
いったいどこにそんな力があるのか――なんてリニックは他人行儀に思っていたが、
「次はあなたなの、リニック」
「ええっ? いや、僕は遠慮しておくよ……」
どんどんっ! がちゃがちゃっ! ぎーこーぎーこー!
明らかに扉を開ける音ではない音が聞こえてきている。
はっきり言ってこれ以上ここに居るのは得策ではない。
しかし、レイニーの言っていた『内臓が引っ張られる感覚』がどうにもネックになっていたリニックはなかなかそこに飛び込もうという勇気が湧かなかった。
彼の勇気が湧くよりも早く、ライトニングの手が伸びた。
「面倒なの。さっさと、飛び込むの」
そして、彼はそのままライトニングの手によって強引に黒い穴へと放り投げ出されるのだった。
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