第6話 家族
すっかり日常となっている、詩織と赤城との下校。いつもより騒がしい赤城。何度、うるさいっ! と言ったか、思い出すだけでも頭が痛い。
「ただいまー」
家のドアを開け、靴を脱ぎ捨てる。どうやら今日はお客さんはいないみたいだ。
「おかえり〜明美!」
すると奥から母親が出てきた。季節の変わり目で風邪をひいてしまったあの母だ。身体が丈夫ではないので、よく家にいるせいかなのか肌は白く、歳の割には若く見える。
瀬戸は名前を呼ばれ、うぐっ、と表情を歪めた。
瀬戸は昔から、自分の名前が好きではなかった。女の子らしい可愛らしい名前だから。自分は女の子らしくないからと名前で呼ばれることを極端に嫌っていた。
「父さんとこ、向かうから」
拗ねたように言い、足早に母の横を通り過ぎる。
「あらあら、反抗期かしら?」
呑気な母親だよな〜! と言う赤城の声が聞こえた気がした。
明美のへやと書かれたプレートが掛けてあるドアを通り過ぎ、ひたすら廊下をまっすぐ歩く。目的は父の所へ。
襖を開け、父の姿が見える。
「お父さん、ただいま帰りました」
「あぁ、明美か」
父は畳に座り、ジッと佇んでいた。
おかえりとも言わず、瀬戸をちらりと見た。ただ、それだけで終わったが、瀬戸は満足そうに笑った。
「……今日は稽古つけてくれないの?」
いつもなら「……やるか?」と声をかけてくる父だが、今日は違う。
――単純に機嫌が悪いのか? いや、父さん嬉しそうだ。
側から見ればムッとした恐い顔だが、経験から父は怒っているわけではないという考えになる。
――だからママもテンション高かったのか? うーん。
「今日……敦が帰ってくる」
敦と言うのは、瀬戸 明美の兄だ。成人しており、今はレスキュー隊の隊員で、忙しい日々を過ごしていると瀬戸は父から聞いている。
「に、兄さんが帰ってくるのか!? 本当にっ?」
緑色の目を輝かせ、ぴょんぴょんと踊り出しそうになる瀬戸。その瀬戸の様子に、父親は懐かしそうに目を細めた。
「あぁ」
「何時!? 何時ごろに帰ってくるの?!」
「もう少ししたらかしらねー」
「うわっ! ママか、びっくりした」
ぬぬぬっと出てきた母親が、うふふふと嬉しそうに伝えてくる。
「明美、お父さん。今日はご馳走よーー! いっぱい食べなさいね」
「うんっ、食べる」
「あぁ」
さっきから「あぁ」としか言わない瀬戸の父。それでも母親には微妙な変化がわかるらしい。瀬戸でも不機嫌の時や、返事をしている時……など区別がつかない時の方が多い。
「楽しみね〜」
「あぁ」
もう慣れてしまったが、やっぱりカオスだなーと思う瀬戸であった。
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