『君の名をもう一度・上』

 明転すると主人公の樹が立っている。どこか所在無さげ。

 シチュエーションは結婚式の二次会。

 みんな楽しそうに話をしている。

 樹の反対側には友美が夫と一緒に話しながらいる。

 しばらく、膠着状態。

 二人が同時にドリンクを取りに行く。

 その時に二人がそこで鉢合わせをする。

「あっ!」

 気まずそうに声をかける樹。

「久しぶり」

 そんなに気にした様子はない友美。

 この二人の久しぶりの出会いが、お互いの人生を狂わせていく。

 

 オープニングのところはもちろんかもしれないけどなにも手を加えられていなかった。

 物語は進む。


 二人の関係を整理しておくと、樹と友美は同じ高校で、友美の夫も同じだ。そして、ややこしいのは樹と友美の夫は親友であることで、樹と友美は過去に付き合っていたということだ。

 過去に樹と友美の夫は喧嘩したことがある。友美についてだ。昔の女について喧嘩するなんて女々しい男かもしれないが、樹にとっては初めて付き合った女性なのだから、人一倍思い入れがあってもしかたない。

 

 その過去に好きだった女性に久しぶりに出会ったことによって、彼の人生の歯車に狂いが生じてきた。

 友美が二次会の終わりぎわに「連絡先の交換をしましょう」と言った。

 最初、樹は乗り気ではなかった。彼にも家庭はあった。子供がいて、上の子が六歳と下の子が四歳。家では家庭サービスもする立派なパパだ。

 だが、友美から受け取った連絡先は爆弾のように思えた。

 データを消去することで丸く収まるのだが、なぜかそれをすることができない。

「一度だけ、一度だけ」と思いながら、彼は数回友美に連絡したが、彼女に繋がることはなかったし、折り返しの電話がかかってくることはなかった。


 自分の知っている連絡先はきっと間違っているんだということで決着しようとしていたら、ついにスマートフォンがバイブした。ちょうど仕事の最中だったので、樹は席を外してエレベーターホールへと向かった。


「もしもし」

 樹は若干焦った様子でもあった。

「もしもし、久しぶりね」

「久しぶり」

「かかってこないと思った」

「まぁ、まぁ、そうかな」

「今度の土曜日会える?」

「えっ?」

「今度の土曜日よ」

「えっ? それってまずくない?」

「なにかいけないことある?」

「うーん、そりゃあるでしょ、お互い結婚しているんだし」

「お互い結婚してて、会ったらいけないの?」

「普通に考えろよ」

「普通ってなに? それより、君の方が考えすぎなんじゃない?」

「うーん」

「そうだよ、きっと、そうだよ」

「そうかな?」

「そうにきまっているよ」

「そうかもね」

 樹と友美が付き合っている時もこういうことがあった。友美に押し切られる。実は友美のマインドコントロールなのではないだろうかと別れたあとに振り返って考えたことがあるが、実際に本人を目の当たりにすると、結局それを防御できなくなってしまう。

「じゃあ、二時に駅の改札出たところで待ち合わせね」

「わかった」

 待ち合わせ場所も樹にとってはなんとも懐かしい場所だった。友美と付き合っていた時に待ち合わせ場所だった。

 友美の記憶力もなかなかだと思ってしまった。


 ここまでで約半分来たけど、まだなにも変わっていない。

 まさか、最後のあのシーンを使うのか?

 だとしたら、彼は随分と辱めにあうはずだ。

 でも、そうしたら、協力者が何人か必要になると思うのだが……

 ミズキたちのことだから、もう手配済みか。

 あー、女の人って怖いな。

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