紫音と父親の過去
紫音はお店の通路で叔父さんが僕に向かって土下座をしている姿を見て戸惑ってしまう。
「え、ええ!?」
「お主がPMCとして活動しているのはワシにも原因がある。もし手紙が来たあの時にお主のところに向かっておったら、お主を辛い目に遭わせずに済んでいたかも知れぬ。ワシは・・・・・・ワシはぁ〜・・・・・・・・・・・・ウウッ!?」
「お、おじさんっ!?」
何か泣き始めちゃったよ。
「今は”お主を引き取れんが、必ず一緒に住めるように頑張るぞ。”だからもう少し辛抱してくれぇ」
「今は引き取れない?」
一体どういう事なのだろう?
「そうじゃ。お主にも知る権利はあるからのぉ。お主の父親ヒューリーは・・・・・・」
「シオンッ!?」
そう言って入って来たのは、何とオズマさんとリガードさんだった。
「オズマ? それにお前はリガードじゃないか。どうしてお主達がここに?」
おじさんの言葉に耳を傾けず、僕の側まで来ると腕を引っ張って来た。
「え、ちょっ! 一体何をするんですかぁ?」
「お前さんは何も知らんでいい!」
「えっ? でもぉ・・・・・・」
「でもじゃないっ!!」
オズマさんの剣幕に恐れを成してしまい、黙って俯いてしまった。
「シオン、こっちに来てくれ」
「・・・・・・はい」
リガードさんは僕の腕を掴みながら有無も言わさないと言いたそうな顔で見つめて来るので、僕は素直に従ってお店の外へと出て行った。
「あの、リガードさん」
「・・・・・・」
「あの叔父さんと知り合いなんですか? それにオズマさんも」
「まぁな」
そう言うと掴んでいる腕をキュッと強めた。
「お父さんは騎士団長だったって、おじさんが言ってました」
「・・・・・・そう、か」
「お父さんがどうして騎士団を辞めてPMCになったのか、リガードさんは知っていますか?」
「・・・・・・世界を見て回りたかったんだろう」
リガードさんの歯切れが悪い。何か隠しているのは丸わかりだ。
「リガードさん、本当は知ってるんじゃないんですか? お父さんが騎士団を辞めた理由が」
「知らない」
「嘘を言わないで下さいよ!」
「嘘じゃない」
リガードさんの態度にイラッと来たので、掴んでいる腕を振り解いて距離を取った。
「シオンッ!」
「何で何も答えないですかっ!? 僕はただお父さんの事を知りたいだけなのにっ!!」
「落ち着いてくれシオン、これにはちょっとした理由があってだな・・・・・・」
「理由? その理由を聞かせて下さいよ!」
僕がそう言ったら、リガードさんが しまった!? と言いたそうな顔をした。
「いや、そのぉ・・・・・・なぁ」
「ハッキリ言って下さいよ! 騎士だった頃何をしていたのかをっ!?」
「ああ〜、お前の父親はなぁ・・・・・・」
「国の為に勇猛果敢に戦っておったぞ」
出入口の方に顔を向けると、おじさんとオズマさんがいた。
「国の為に軍を率いて敵を倒しておったわい。そして第三次世界大戦の時に国が負けた後に、負けた責任追及をされたから、国外逃亡せざるを得なくなってしまったんじゃ」
「そう、なの?」
オズマさんの顔を見つめるとコクリッと頷いた。
「ヒューリーは戦闘が得意だったから、PMCになったんだ」
「そうなの? じゃあ僕がその国に行こうとしたら?」
「絶対痛い目に会うから連れて行けない」
「そう、何ですかぁ」
何か、スッキリしたような。しないような気がする。
「だからお主が気にしなくてもいいぞ」
おじさんは僕の頭に手を置いて撫でて来た。
「フゥ〜・・・・・・こう撫でていると、昔のヒューリーを思い出すのぉ」
「お父さんをですか?」
「ヒューリーはお主と違って、撫でられるのを嫌がっていたのぉ」
あのお父さんが嫌がる姿を想像出来ない。
「でも、照れ隠しなのは丸わかりじゃったわい」
お父さん、昔はツンデレだったのかなぁ。
「まぁともかく、駅のホテルに滞在しておるからな。何かあったらそこまで来るか、電話しておくれ」
おじさんはそう言うと、スマートフォンを取り出した。
「え、おじさん。スマートフォン使えるの?」
「ああ、時代に乗り遅れないように覚えたのじゃ。それにパソコンも使えるぞぉ」
うわぁ〜、お父さんはガラケーを使っていたから、おじさんの方が優秀かもしれない。
「ほれ、お主もスマホを出すんじゃ」
「あ、はい」
そう返事をしてスマホの連絡先を交換したのだ。
「フッフッフッ、これで可愛い孫との繋がりを持てたぞぉ!」
「それはよかったですね」
「ああ、それじゃあワシはホテルの方に行くとするかのぉ」
おじさんが立ち去ろうとした時に、何かを思い出したのかこっちを向いて来た。
「シオン、お主に渡したい物がある」
「渡したい物ですか?」
「ああ、少々準備が必要でな。準備が出来たら連絡をよこすから待ってておくれ」
「わかりました」
おじさんは それじゃあのぉ。 と言ってペコリと頭を下げると、道路を歩き出した。
「あっ!? そういえば! おじさんお金を払ったんですか?」
「ちゃんと払ったから心配しなくていい」
そっかぁ。それはよかったぁ。
「それにしてもおじさんが僕に渡したい物って、一体何なんだろう?」
「さぁの、それよりもシオン。お前さん、仕事をしないといけないんじゃないのか?」
「あっ!?」
そうだ! 段ボールの開封作業手付かずのままだ!
「戻らないと! オズマさん、リガードさん、それじゃあ!」
僕はそう言ってからスナックの中へと戻り真理亜さんの仕事を手伝うのであったのだが、明らかに真理亜さんの様子がおかしいのだ。
「真理亜さん、これで最後です」
「あらぁ、ありがとうね。シオンちゃぁん」
「いえいえ、僕もお世話になっているので、これぐらいは」
それにお仕事だから無下に出来ない。
「・・・・・・ねぇ紫音ちゃぁん」
「はい、何でしょうか?」
「この先何があっても、紫音ちゃぁんは紫音ちゃぁんだからね。周りに流されず生き続けなさい」
「え? あ、はい」
いきなり何を言ってるんだろう? と思っていると、真理亜さんはクスッと笑った。
「紫音ちゃぁんはPMCだからね。色んな人から誹謗中傷を受ける事があるけど気にせずにいなさい。って言いたいだけよぉ」
「そう、ですか」
僕がそう言うと真理亜さんは背伸びをしてから、ウィスキーのボトルを開いた。
「今日はもう上がっていいわよ」
「えっ、いいんですか?」
「ええ、もう充分働いたから、いいわよぉ〜」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。お疲れ様でした!」
ドアの前で真理亜さんにペコリと頭を下げてから、お店を出て事務所へと戻るのであった。
「ただいまぁ〜」
「おかえり、シオンくん」
「あれ? 天野さんとリトアさんは何処かに出掛けたのですか?」
リュークさんにそう聞いたらリビングの方を指差したので覗いてみたら、だらしない格好で横になっているリトアさんと、ソファーに寄り掛かって寝ている天野さんがそこにいた。
「リトアさん、またお酒を飲んだのですか?」
「今回は酎ハイの缶1つで済んだから助かったよ。ところでシオンくん、今日のお仕事の方はどうだった? 何時もより遅かった気がするけどぉ」
「ああ、はい。実はスナックで・・・・・・」
僕はおじに会った事、それに話の途中でオズマさん達が入って来て追い出された事を話すとリュークさんは驚いていた。
「シオンくん、キミに祖父がいたの?」
「僕も祖父がいたのを今日知りました」
「・・・・・・そんでそのおじさんが、お前に渡したい物があるって言うのか?」
「天野さんっ!?」
驚いていると、首をコキコキ鳴らしてから僕の方を見つめて来る。
「くれるって言うんだから、貰える物は貰っておけよ。お前にとって形見になるかもしれないからな」
「あ、はい」
天野さんはそう言うと、今度は欠伸をしてから横になって寝た。
ホント、仕事以外はだらしがないなぁ〜。
「シオンくぅ〜ん!」
「わぁっ!?」
今度はリトアさんが起きて抱き付いて来たのだ。
「お帰りぃ〜、お姉さんがいなくて寂しかったでしょぉ〜」
そう言って耳をモフモフして来たのだ。
「あの、離れてくれませんか?」
「ヤダァ〜、シオンくんの耳と尻尾をお帰りモフモフするのぉ〜」
お帰りモフモフって何?
「もうリトアくんの気が済むまで、モフらせてあげなよ」
「・・・・・・はい」
紫音はリトアの気が済むまでモフモフさせていたのだが、リトアは何故か途中で寝入ってしまったので、動こうにも動けない状態がしばらく続いたのであった。
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