紫音と老人の正体

僕が持っている写真と違って色あせているけど、間違いなく僕とお父さんが写った写真だ。


「そ、それは・・・・・・」


「この写真、見覚えがあるのかい?」


「写真? どんなかしらぁ〜?」


「これだ」


おじさんが真理亜さんにその写真を見せると、 まぁっ!? と言った。


「あら可愛い子ねぇ〜! シオンちゃぁんにそっくりねぇ!」


「いや、そのぉ〜・・・・・・」


「え? どんなのッスか? ウチにも見せて欲しいッス!」


真奈美さんはそう言うと、真奈美さんと同じように写真を覗き込んだ。


「うわぁ〜、可愛いっスねぇ〜。でも何でこの子は不機嫌なんスかね?」


「きっと写真を撮られる前に嫌な事があったのよぉ〜」


いいえ違います。女装したまま写真に写るのが嫌だったから、こんな顔になっているんです。


「でも母上。この子よく見ると紫音くんと顔が似ている気がするっス」


「言われてみれば確かにそうねぇ〜。それによくよく見ると、女の子を抱えている男性にも見覚えのあるわぁ〜」


「本当ですかっ!?」


おじさんが真理亜さんの方を見つめてそう言うが、真理亜さんは困った顔をしている。


「いつ頃だったかしらぁ〜、昔一回だけ来た事があるのよねぇ〜」


「い、いつ頃の事ですか?」


「うぅ〜〜〜〜〜〜・・・・・・ん」


真理亜さんが思い出そうとしている中、おじさんは尻尾を揺らしてソワソワしている。


「お父さんが、ここに来た事があるんだ」


「「「お父さん?」」」


「あっ!?」


しまった!? と思い、口を塞いだのだが遅かった。


「紫音くん。お父さんって?」


「え、あ、そのぉ〜・・・・・・ですね」


「それに彼が探している子の名前も、シオンちゃぁんよねぇ?」


「っ!?」


真理亜の言葉を聞いた紫音は、尻尾の毛をブワッと逆立てた。


「もしかして、この写真に写っている子は紫音くんじゃないんスかぁ?」


今度は真奈美さんが詰め寄りながら言うので、背中に嫌な汗を感じる。


「「どうなの、紫音くん(ちゃぁん)!?」」


「はい、その写真に写っているのは僕とお父さんです!」


僕は隠し通しておきたかった事を自白してしまった。


「うう〜、恥かしいよぉ〜・・・・・・」


顔に手を当てて恥ずかしがっていると、おじさんが僕の身体を抱きしめて来たのだ。


「シオオオオオオンッ!?」


おじさんはそう言って泣き出したのだ。


「え、え? 何でこの人泣いているんですか?」


状況が呑み込めないんですけど。


「紫音くん、あくまでウチの予想なんスけどぉ〜・・・・・・紫音くんのご家族? もしくは親族?」


「えっとぉ、僕には家族はいませんよ」


「アナタのお父さんから何か聞いてないのかしらぁ〜?」


「お父さんは親族とか僕に話した事をなかったので、誰もいない筈ですよ」


それに聞くのもタブーって感じもあったから・・・・・・聞こうにも聞けなかった。


「お前さんは、ヒューリーから何も聞いていないのか?」


「何もって・・・・・・何をですか?」


「ヒューリーのヤツめ。ワシの事を・・・・・・いや、意固地になっていたワシのせいか」


「あの、今更ながら聞きますが、アナタは一体誰ですか? それにどうして僕とお父さんが写った写真を持っているんですか?」


僕がそう言うと、おじさんは離れてから話始める。


「ワシの名は アゼム・ドルトン 。ヒューリーの父で、お主にとって祖父じゃ」


「そ、祖父!?」


何となくだけど、お父さんに近いような臭いがこの人からしていたけど、おじいちゃんって!


「え、でもぉ・・・・・・えっ!?」


「信じられないのも無理はないか。ワシの事を話していなかったからのぉ」


戸惑っている中、真理亜さんが僕の肩に手をポンッと置いた。


「話が長くなりそうだから、そこに座って聞きましょうかぁ〜」


「あの、いいのですか? まだ仕事に手を付けていませんよ」


「気にしなくていいわ。お仕事よりも紫音ちゃぁん達の話の方が重要そうだからねぇ〜」


真理亜さんはそう言うと、両肩を掴んでカウンターの席に無理矢理座らせた。


「すみません、真理亜さん」


「気にしなくてもいいわよぉ〜。さぁ、アナタも座ってぇ〜」


「うむ、失礼する」


アゼルさんはそう言うと僕の隣に座ったのだが、叔父さんは僕と違って大きくてガタイがいいので、毛が身体に当たる。


「それでだ・・・・・・何処から話せばいいのかのぉ〜。話す事が多すぎて、悩むわい」


「紫音くんを探しに来た理由から、話せばいいと思うっス!」


「うむ、そうじゃなぁ。先ずはそこから話すとするかのぉ」


叔父さんはそう言うと、写真を見つめながら語り始めた。


「ヒューリーと縁を切ってから数年経ったある日に、ヒューリーからこの写真がワシの元に送られて来たのじゃ。手紙と共にな」


そう言って取り出したのは、クシャクシャになった手紙を僕に見せて来た。


「ロードランス語?」


そう、クシャクシャになっている手紙は新大陸で書かれていた。


「ああ、ワシはロードランス大陸に住んでいるからな。内容は 産まれた子に会ってくれないか? 書かれているのじゃ」


知らなかった。お父さんが家族に向けて手紙を送ってのは。


「その手紙を読んだワシは怒りを感じ、手紙を丸めてゴミ箱に捨ててしまったのじゃ」


「えっ!? どうして?」


「彼奴はワシらにとって一族の恥晒しじゃったからな」


「恥晒し? お父さんが?」


お父さんが恥さらしと言われるほど、悪い事をしていたの?


「ん? お主、ヒューリーから何も聞いていないのか? ヒューリーは元々ワシが住んでいる国の騎士団長だったんだぞ」


「騎士団長っ!?」


「戦略に長けて強かったからのぉ。軍神と呼ばれたほどじゃったわい」


お父さんが責任ある立場にいたとは。


「信じられない。あの優しいお父さんが騎士団長だっだなんて・・・・・・」


「まぁ何はともあれ。ワシがお主に会おうとした理由は、妻が亡くなる前に会いに行って欲しいと、言われたからなんじゃ」


祖父さんの妻って事は僕にとって祖母に当たる。


「最愛の妻の言葉に最初は戸惑ったが、ワシが捨てた筈の写真と手紙を渡して懇願して来たからのぉ。亡くなった後も考えに考えた末に来る事にしたんじゃ」


「そう、だったんですかぁ」


「ああ、日本に来てヒューリーが住んでいると聞いたマンションを訪ねてみたら、 引っ越しした。 と言われて途方に暮れて歩いていたんじゃ」


「そこにアタシのお店に来たのねぇ〜」


多分ここがどんなお店なのか、わからずに入って来たんだろうなぁ〜。


「そうじゃ・・・・・・ところでシオン。ヒューリーは何処におるんじゃ?」


「あの、大変言い辛いのですが・・・・・・行方不明になりました」


「何っ!? 行方不明っ!!?」


叔父さんはそう言うと、僕の両肩を掴んで来た。


「どういう事じゃ?」


「ぼ、僕自身分からないです。ただ、仕事中に何処かに消えてしまったとしか聞いてません」


「うむ、そうかぁ。やはり・・・・・・」


叔父さんは肩から手を離して何か考えている。


「・・・・・・シオン、お主は何処に住んでおるんじゃ?」


「え、僕ですか?」


「ああ」


「今はジョーカーと言うPMC事務所に住み込みで働いています」


僕がそう言うと叔父さんは目を見開き、僕を見つめて来た。


「PMCの事務所で住み込みで働いている? もしかしてお主はPMCなのかぁ?」


「はい、そうです」


僕がそう言うと、おじさんは驚いた顔をさせたまま仰向けに倒れてしまった。


「あ、おじさん大丈夫ですかっ!?」


「あわわわわっ! 大変っス!?」


「早く、起こしてあげなさぁ〜い!」


「あ、ああはいっ!? わかりました!」


僕はそう返事をした後に、真奈美さんと共に叔父さんを起こした。


「おじさん! しっかりして下さい! おじさんっ!?」


「ハッ!? す、すまない。余りのショックに気が動転してしまったわい」


「何処か痛いところはないっスか?」


「だ、大丈夫じゃ。何処も怪我をしておらんよ」


叔父さんはそう言ってから立ち上がり、僕を見つめて来た。


「・・・・・・のう、シオン」


「は、はい。何でしょうか?」


「すまなかったっ!?」


叔父さんはそう謝りながら土下座をして来たのだった。

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