強行手段に出る紫音

授業を受けている時も身が入らなかった。何故かって? 何時いつ襲われてもおかしくない状況なので、ちょこちょこ窓の外を見て犯人がいないか確認していたし、何よりも筒城先生に近寄ろうとしたら向こう避けられてしまうのだ。


「もうこうなったら強行手段だ!」


お昼休みになった途端、僕はガンケースを背負って職員室に向かう。


「失礼します! 筒城先生はいますか?」


「あ、いるよ。何か用かな?」


「PMCの仕事として、筒城先生に話しておかなきゃいけない事があるので会わせて下さい!」


僕が別クラスの先生にそう伝えると、 ああ、やっぱりキミがそうなのか。 と言ってから振り返る。


「筒城先生、PMCの彼が来ましたよ」


「大園くんが? ッ!?」


筒城先生は僕を見た瞬間、身体を強張らせていた。


「ご、ゴメンなさい。今は忙しいの」


「僕も余裕がない中会いに来ました。それにアナタ自身の身の事でも話しておかなければならないので、嘘は言わないで下さい」


「そんな、嘘は吐いてないわ」


僕から目を逸らしている筒城先生をジッと見つめていると、別クラスの先生が まぁまぁ。 と間に入って来る。


「筒城先生、彼の話を聞いた方がいいと思いますよ」


「えっ!? でもぉ・・・・・・」


「それに、彼らPMCがいた方が心強いし、何よりも警察の方でアナタの護衛を依頼している。と聞いたのですが?」


それは初耳です。工藤さんからは、 一応警察の方で護衛しているが、なるべく筒城さんの側にいて欲しい。 と言われたぐらいだから。


「・・・・・・わかったわ。食べながら話を聞くわ」


「ありがとうございます」


僕はそう言うと筒城先生の近くまで行き、菓子パンを封を開けて食べ始める。


「それで話としては、なるべく僕の側にいて貰いたいです」


「大園くんの側に?」


「ええ、そうしないと咄嗟の時に筒城先生を守れませんから」


「そう・・・・・・わかったわ」


筒城先生はそう言いつつも、何か言いたげな顔をさせていた。


「一応僕以外のPMCがこの周辺で待機しているらしいので、僕達に何かあれば駆け付けて来るのでご安心して下さい」


「わ、わかったわ」


「それと、僕がアナタの側にいられるのは学校にいる時だけです。なので・・・・・・」


「それは困るっ!!」


説明途中で突然声を上げるので、思わずビックリしてしまった。


「えっとぉ、大丈夫ですか?」


「ねぇ、本当にアナタは学校にいる時だけ私を守るの?」


「はい、私の上司に当たる工藤主任からはそう言われていますから」


「お願い、私を学校外でも守って!」


筒城先生はとても怯えた表情で僕の両方を掴んで言うが、その手を振り払ってから話し始める。


「すみませんが、僕に言い渡された仕事はそこまでなので。そこから先は警察の方を頼って下さい」


「・・・・・・どうして」


「ん?」


「どうしてアナタは心ない事を淡々と言えるのっ!? アナタは銃を持っているんでしょ? なら私の事を昨日みたく助けてよぉっ!!」


筒城先生はそう言いながら、僕に抱き付いて来た。藁にもすがる想いとは、まさしくこの状況の事だろう。


「すみませんが僕はそこまで出来ません。諦めて下さい」


「そんなっ!!」


「でも1つだけ方法があります」


「えっ!?」


彼女は顔を上げてたところで説明を始める。


「アナタが僕達PMCを雇えばいいんです」


「・・・・・・え?」


何を言っているのこの子は? と言いたそう顔をしている筒城先生に対して、気にせず話を続ける。


「そうすればアナタを守る為に何時でも側にいてくれますよ。ただ僕達も命を掛けているので、それなりにお金が掛かるのだけは覚えていて下さい」


「え、それは・・・・・・」


「お金を払う事が出来ないのでしたら、潔く諦めて下さい。話は以上です」


そう言ってパンの袋を丸めてポケットに入れると、抱き付いている先生を振り解いてから立ち上がる。


「ど、何処へ行くのっ!?」


「教室に戻るだけです。次の授業は体育ですから、早めに教室へ戻らないと」


と言っても僕は着替える必要がないから楽だけれども、見捨てられたような顔で僕を見つめないで欲しいです。


「そ、そう・・・・・・なら仕方ないわね」


「あ、そうだ。聞きたかった事があるんですが。聞いても大丈夫ですか?」


「何かしら?」


「本当に犯人に心当たりはないんですか?」


多分僕以外でも、しつこく聞かれたんだろう。ウンザリした顔させながら手で覆った。


「ゴメンなさい。本当に心当たりがないの」


「・・・・・・そうですか、失礼しました」


僕はそう言ってから職員室を後にし、教室へと戻って来た。


「紫音さん、筒城先生に会いに行っていたんですか?」


「うん、一応僕の役割を伝えに行ったよ」


「次いでに本人に犯人との接点があるか聞きに行きましたよね?」


「うん、知らないって言わたよ」


だから先生から聞き出す方法以外で、犯人を特定しないといけない。


「そうですかぁ・・・・・・私では力になれそうにありません。すみません紫音さん」


「ああ、うん。別に気にしていないから、気にしなくてもいいよ」


「それでは、私は更衣室の方へ向かいますね」


「うん、行ってらっしゃい」


真奈美さんはそう言うと、体操着の入った袋を持って教室から出て行った。


「さてと・・・・・・」


天野さん達に 筒城先生は犯人に心当たりがないみたいです。 と書いたメールを送ったら、 そうか、わかった。 と返事が返って来たが、僕はスマホを片手に考え込んでしまう。


本当に先生は犯人を知らないのかな?


犯人は凄まじいまでの怒りを露わにさせながら、僕達を執拗以上に追いかけた。しかも名前まで言っていたのだから、どっかで接点があった筈。


そんな事を思っていたら誰かが肩にポンッと手を乗せたので、顔を上げて誰か確かめて見ると体育を担当している先生だった。


「そろそろ外へ移動だから、廊下に並んでくれ大園」


「あ、すみません。今並びます」


いけない。考え込んでしまった。


「まぁ大園が何を気にしているのかは見当がつくが、考え込み過ぎるのもよくないぞ」


「はぁ・・・・・・すみません」


「まぁ犯人がここに来た時は、その背負っている銃で頼むぞ大園! 俺と生徒達を!」


「アハハハハ・・・・・・その時は頑張ります」


まぁ狙われているのは僕と筒城先生だけっぽいから、体育の先生は命の心配しなくてもいいかもしれない。


その後も周囲に警戒しつつ午後の授業を問題なく受け、ホームルームになった。


筒城先生の話を聞きながら、流石に今日は現れないかぁ。 窓を見つつそう思った。


「先生からの連絡は以上です。何か質問ある人はいますか?」


筒城先生がそう聞くが僕を含めたクラスメイト達は、早く帰りたいのか何も言わない。


「ではホームルームを終わります」


そして日直が帰りの挨拶をして終わるが、終わった途端に筒城先生が僕のところへ来た。


「どうしたのですか、筒城先生?」


「本当に私の事を守ってくれないの?」


「すみませんが、僕は帰らせて頂きます」


そう言って立ち上がると、手を握って引き止めて来た。


「アナタが頼りなの! お願い、私を守って!」


筒城先生のその態度にちょっとイラッと来たけど、丁寧に説明をしていく。


「先程も申し上げましたが僕も命か掛けて仕事をこなしてお金を貰っている身ですから、守って貰いたいのでしたら雇って貰わないと困ります」


「大園さん、人の命をお金で判断するの?」


そう言って睨まれるが、怯みもしない。だって今一番理不尽な事言ってのは目の前にいる筒城先生なのだから。


「逆に聞きますが、筒城先生は無償で教鞭を取れますか?」


「それとこれとは関係ないでしょ?」


今にも殴り掛かって来そうなほどの剣幕だが、僕は至って冷静に話をする。


「関係ありますよ。何だかんだ言って、先生だって生活費を稼がなきゃいけないんですよね?」


「それはそうよ」


「僕だって同じですよ。自分の生活費を稼がなきゃいけないんですから。それに加えて弾代に銃の整備代の事も考えないといけないんですよ。わかります?」


「わかるわ。でもぉ・・・・・・」


正論を言われてしまった筒城先生は下を向いてしまったが、諦め切れないのか手を離してくれない。


「それに、僕は個人的に筒城先生に怒っているんですよ?」


「私に? どうして?」


僕はその言葉を聞いた瞬間、イラッとした気持ちから怒りの感情に変わった。


「昨日、一昨日と僕にPMCを辞めなさい。って言ってたのに、こういう状況になったら助けて下さい。って言われたら、どう思います? 普通にムカつくと思いませんか?」


「それは、こうなるとは、思っても・・・・・・」


「それにさっき言いましたが、護衛をして貰いたいのでしたら、ちゃんと雇って下さいって言いましたよね?」


「確かに言ったわ。でも・・・・・・私このままじゃ殺されちゃう」


思ってなかったとか、でも。とかじゃないって!


いい加減頭に頭に来たので、声を張り上げた。


「だから正式な手順を踏んで、僕を雇えば問題ないって説明してるじゃないですか!」


僕がそう言った瞬間、恐かったのか身体をビクッとさせて手を離した。


「それに何なんですかアナタは! さっきから話を聞いていれば自分が助かる事しか考えてないし、何よりも、 昨日助けて頂いてありがとうございます。 って言葉を僕はまだ聞いてないんですけど!」


「ゴメンなさい。言い忘れていたわ」


「それはそれでいいけれど、”無償で命を掛けて私を守って欲しい。“って教師が生徒に言って来るのも問題だと思いませんか?」


「ッ!?」


僕がそう言った瞬間、筒城先生は痛いところ突かれてしまったかのような顔をさせた。


「今のアナタは教師の前に、人として最低な人間ですよ。それでは!」


僕はそう言うと、足早に教室を出て行くのであった。

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