紫音と真理亜の情報

教室を出た僕は一刻も早くあの教室から離れたいという気持ちが強かったから、自然と足早に廊下を歩き、下駄箱まで来てしまった。


早く真理亜さんのところへ行こう。 と思いながら下駄箱から靴を取り出し履き替える。


「紫音さん、待って下さい!」


「真奈美さん」


彼女は僕に駆け寄ると、膝に手を置いて息を切らせていた。


「父上のところへ一緒に行きましょう」


「えっ!?」


僕と一緒に真理亜さんのところへ?


「別々に帰ろう。そっちの方が安全だから」


犯人が何処かから僕の事を狙われている可能性があるから、何時襲われても対処出来るようにしておかないといけないし、何よりも誰かを巻き添いにしたくはない。


「きっと大丈夫ですよ。だって犯人は怪我を負っていますから」


まぁ、その怪我を負わせたのは僕なんだけど。


「でも念には念をい、ッ!?」


話している途中で人差し指を置かれた。


「それに何かありましたら、紫音さんが守って下さるでしょう?」


「まぁ、そうだけど・・・・・・」


危険な状況から一般市民を守るのも、PMC協会の仕事でもあるから。


「でしたら構いませんよね!」


「えっ!?」


OKと言ってないんだけど。


僕がそう思っていると、彼女は靴に履き替えてから腕に抱き付いて来た。


「え、あ・・・・・・」


真奈美さんの身体が・・・・・・。


「では行きましょうか!」


顔を赤くさせて戸惑っている僕を真奈美さんはニッコリと見つめた後に先導して行くが、周りの視線が気になって仕方ない。


「あの、この状況マズイんじゃないかな?」


「何処がマズイのでしょうか?」


「だって、周りの視線が・・・・・・」


痛いと言うか、殺気立っている気がする。


「いいじゃありませんか。私達は仲睦まじいのですから、腕を組んで歩いてもおかしいと仰る方がおかしいですから」


真奈美さんがそう言った瞬間、背筋がゾクッとした。


「あの山本さんが?」


「あのライカンスロープと? てか私服だよな」


「確かあの子PMCなのよね?」


「えっ!? じゃあもしかして、背中に背負っているケースに銃が入っているの?」


女の子がそう言うと、その周りが反応をした。


「そうかもよ。だってほら、腰に銃をさしているもの」


「恐っ!? ひょっとして俺達撃たれるのか?」


「なるべく関わらない方がよさそうだな」


「そうだな」


黒狼族系のライカンスロープだから、ヒソヒソ話まで聞こえる。そんな中、真奈美さんが僕の腕をギュッと抱き締めて来た。


「紫音さん、気にしないで下さい。彼らは表面上の情報だけでしかアナタを判断していませんから」


「そうだよね」


別に気にしてはないけど、こうも聞こえて来るとげんなりしてしまう。


「さぁ、父上のところへ行きましょう」


「うん」


真奈美さんと一緒に校舎の外へと出る姿を、何人かの生徒が悔しそうな顔で見つめていたのは紫音は気づいていない。


「そう言えば紫音さん。犯人探しに進展ありましたか?」


「僕が聞く限りでは閉鎖区域に逃げてしまったとしか聞いてないので、犯人が何処で何をしているのかわからないんです」


閉鎖区域の壁付近をPMCの人達と警察の方で見張っていて犯人が閉鎖区域から出て来たら、僕の方に連絡が入るようになっている。


「そうなのですか」


「はい。詳しく話せなくて、すみません」


「謝る事ではありませんよ。ちょっと疑問に思ったので聞いてみただけですから」


真奈美さんはそう言ってから僕の尻尾を急に掴んで来た瞬間、全身の毛が逆立った。


「ファッ!?」


「どうなさいました、紫音様?」


「し、尻尾を掴むのなら、先に言って下さい! ビックリしますから!」


まさか急に尻尾を握られるとは思っても見なかったよ。


「あ、すみません。そんなに敏感だとは思いもしなかったので・・・・・・」


「もぉ〜・・・・・・次からは言って下さいね」


「あら、触らないで下さい。じゃないのですか?」


「あ、うん。獣人の人達はそうですけど、僕の場合はそういった事を気にしてません」


小さい頃から色んな人から耳と尻尾を触られてたのと、お父さんが 大切な人以外に耳と尻尾を触らせてはいけません。と教育されてないせいだと思う。


「そうなんですか。なら紫音さんの耳と尻尾を、好きなだけ触れますね!」


彼女はそう言うと、恐いと思えるほど顔を輝かせながら尻尾を両手で撫でて来る。


「いくら何でも撫で過ぎじゃあ・・・・・・」


「そうですか。では続きはお家に着いてからにしますね」


真奈美さんはそう言うと尻尾から手を離したが、また僕の左手に抱き付いて来た。


「だから抱き付かなくても、いいんじゃない?」


「まぁまぁ、ただのスキンシップですよ」


モヤモヤした気持ちを抱えつつ真理亜さんのお店に着いたところで、腕に抱き付いている真奈美さんに話し掛けた。


「あの、真奈美さん。いい加減離れて貰えませんか?」


「どうしてですか?」


「このままお店に入ったら、誤解されてしまいそうですから」


「大丈夫ですよ、父上は紫音さんが思うような勘違いを起こしませんから」


真奈美さんはそう言ってドアを開き、ドアに設置されたベルがの音に反応して真理亜さんがこっちを向いて来た。


「あら、おかえりなさぁ〜い!」


「ただいまっス、父上!」


「あんらまぁ〜、いらっしゃぁ〜い。紫音ちゃぁ〜ん、待っていたわよぉ〜!」


「は、はい」


真奈美さんと腕を組んでいるので真理亜さんが何か言って来ると思っていたけれども、何も言って来ないのでホッとしている。


「じゃあウチは着替えて来るので、自分の部屋へ行くっス!」


真奈美さんはそう言うと、僕から離れると店の奥へと行ってしまった。


「お話がしたいから、そこに座ってぇ〜!」


「へ? あ、はい」


僕は真理亜さんの言われた通り、カウンター席に座った。


「えっとぉ、今日呼んだのはバイトの事ですか?」


「違うわ。今紫音ちゃぁんが関わっているお仕事の、お・は・な・し・よ!」


今関わっているお仕事の話って、もしかして!


「犯人に関しての情報ですか?」


「当たりぃ〜!」


真理亜さんはそう言って、棚の下からファイルを取り出して僕に見せて来た。


「オオ〜〜〜ッ!?」


「 と言っても犯人までたどり着けなかったのよぉ〜。ゴメンねぇ〜!」


「ええ〜〜〜〜〜〜っ!!?」


それじゃあ持っているファイルを渡されても意味がないじゃん。


耳が垂れている僕の姿を、真理亜さんは可笑しいのか笑っている。


「でもね、犯人に繋がりそうな手掛かりを手に入れたのよぉ〜!」


「本当ですかっ!!」


僕は再びピンッと耳を立てた。


「はい、これ」


「えっ!?」


真理亜さんはそう言いながら、ファイルを差し出して来た。


「あの、いいんですか?」


「いいって、何がいいのかしらぁ?」


「だって、真理亜さん情報屋さんですよね? 無料ただで渡しちゃったら、真理亜さんの利益がないじゃないじゃないですか」


「紫音ちゃぁんは本当にお人好しねぇ〜、今回は遠慮しなくてもいいわよぉ〜。この間お客様を呼んでくれたお礼も兼ねたアタシからのサービスよぉ〜」


「そう、ですかぁ・・・・・・」


それだとちょっと悪気になっちゃうなぁ〜。


そう思いつつ真理亜さんからファイルを受け取ると、 あ、そうだ! といい事を思い付いた。


「営業時間じゃないですが、コーラとポテトを頼めますか?」


「ウフフッ、お店の売り上げに貢献してくれて、ありがとう紫音ちゃぁん。ファイルをここで開いて見ても構わないわよぉ〜!」


真理亜さんがそう言うので、ファイルを開いて中を確認していく。


「筒城先生の情報?」


「そうねぇ〜、内容はかなりかい摘んでいるけど、書いておいたわぁ〜」


筒城先生の学歴、住所、年齢、資格の種類、スリーサイズまで書かれていた。


「あの、スリーサイズまでは要らなかったんじゃないでしょうか?」


「あらそぉ〜お? 男の子だから興味深々だと思ったんだけれどもぉ〜」


真理亜さんはそう言いながら、コーラをカウンターに置いてくれた。


「ありがとうございます、真理亜さん」


頼んだ物のお金はキッチリ払います。


「いいのよぉ〜。それよりも、もう2つの情報を読んで貰いたいのよぉ〜」


「もう2つ?」


ファイルの中身をめくって確認してみると、筒城先生の情報が書かれた紙の裏にクリップでまとめられた紙の束が2つほどあった。


「この2つって・・・・・・ん?」


ドアのベルが鳴ったのに反応してそちらに顔を向けると、そこにはスーツ姿の男の人が立っていた。


「確かあの人は、唯凪さんと一緒にいた・・・・・・」


「鈇田よ」


真理亜さんは店の入り口にいる鈇田を睨み付けていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る