ターゲットがいる場所に向かう紫音

対人戦。スポーツマンだったらスポーツマンシップに則った競技で勝敗を決めるが、僕は民間軍事会社PMCで銃を持って戦う訳だから、殺し合いになる。そう、スポーツのような互いを健闘しながら真剣に戦う姿も勝敗もない。ただあるのは任務完了の1つだけだ。

そして紫音は今、その戦いに向けて装備を整えている最中はずなのだが、何故か自分の震えている右手を見つめていた。


手の震えが止まらない。


紫音は手の震えを止めようと左手で押さえ込んだのだが、その左手も一緒のなって震えてしまい意味がない。


「こうなるのも無理もないの」


「えっ!? オズマさん!」


いつの間にかオズマさんが後ろにいたのだ。


「シオン、左手を出してくれ」


「あ、はい」


オズマさんに言われた通り、左手を差し出すと手のひらを見つめて来た。


「ホゥ、興味深い」


オズマさんはもしかして、手相を見ているのかなぁ? と思った瞬間。


スパッ!?


「痛ッ!?」


何とナイフを取り出して腕を切り付けて来たのだ。


「何するんですかぁ!?」


「落ち着け、ナイフで軽く腕を切っただけだ」


何平然と言ってるんだ、この人は!


「人をナイフで傷つけて置いて、だけって!」


「もう一回自分の手を見つめて見ろ」


怒りながらも自分の手を見つめてみたら、怒りがスッと消えた。それは何故かと言うと、手の震えがなくなっていたのだから。


「手の震えが止まった。どうして?」


「ショック療法みたいなもんだ」


「ふぇ?」


言っている意味がわからない。と言いたそうな顔をしている紫音を後目に、オズマさんは紫音の左腕に包帯を巻いている。やった張本人なのに。


「わざと痛み感じさせて、その手の震えを止めた」


「手の震えを止めたって、やる前に言って下さいよ!」


「馬鹿野郎。言ったら嫌がって手を引っ込めるだろう?」


そりゃそうですけど。


「それよりも、準備の方は出来たのか?」


「あと二ーパッドを付けるだけです」


「そうか、じゃあそれを付けるのは車の中でやってくれ」


「あ、はい。わかりました」


ニーパッドとH&K UMP45持って、オズマさんが乗って来たバンに乗る。


「神崎、出してくれ」


「わかった。車を出すぞ」


運転席に座っている男の人はそう言うと、アクセルを踏み込み車を発進させる。


「ああそうだ。コイツらを紹介してなかったな。運転席にいるヤツが、 神崎かんざき たすく で、助手席にいる大柄な豹人族が リガード・ハンセン だ」


「よ、よろしくお願いします!」


僕がそう言うと二人は、ん。とか、ああ。とか素っ気ない返事をして来るので、何か悪い事をしちゃったのかなぁ? と不安になって来てしまう。


「気にするなシオン。リガード、天野達と連絡は取れたのか?」


「ああ、シオンが準備している最中に、 目標から離れたところにあるビルの上で、監視をしている。だから着いたら電話をしてくれ。 って連絡が来たぞ」


「そうか。とにかく集合地点に向かうか」


「こっから近いから、すぐに着くぞ」


え、近い? 目的地が?


「あのぉ〜、リガードさん」


「ん、どうした坊主?」


「ここから近いって仰ってましたが、正確にはどれぐらいの距離でしょうか?」


「距離はわからんが、あと2〜3分ぐらいで着くぞ」


車であと2〜3分ぐらいって事は、そんなに距離ないじゃん!


「歩いて来てもよかったんじゃないでしょうか?」


「馬鹿野郎。完全装備して銃を持っている人間が歩道を歩いていたら、普通に通報されてもおかしくないだろう。違うか?」


リガードさんが、いきなり運転席と助手席の間から顔を覗かせてくるのでビクッと反応してしまった。


「つ、通報されてもおかしくないです」


そんな危険人物を放って置くわけにはいかない。


「それに、そんな目立つ格好をしていたら、ターゲットにも見られてしまう可能性もあるだろう?」


「そう、ですね。その通りですね」


そんな人が街中を歩いていたら、普通に見分けがついてしまうに決まっている。


「すみませんでした」


「わかればよろしい」


リガードさんはそう言うと姿勢を戻してシートにもたれ掛かる。


「まぁまぁリガード、紫音くんはPMCに入ったばかりなんだから、そんなに説教みたいに言わなくても」


「説教しているつもりはなかったが?」


「言葉にトゲを感じるから、説教みたく感じたぞ」


「・・・・・・そうか。ってそろそろ集合地点じゃないか?」


「あの角を曲がったら、車を停める。オズマは天野達に着いたと連絡をしてくれ」


「了解。シオン、降りる準備をしとけよ」


「あ、はい」


そう返事をすると、ストックを折りたたんで膝に上に乗せていたUMP45を持ち、ストックを展開して降りる準備をする。


「・・・・・・よし、全員降りろ」


神崎さんの掛け声と共にバンのドアを開き、コッキングハンドルを引いて、UMP45を構えてながら降りて行く。そして周囲に危険がないか確かめる。


「・・・・・・クリア。怪しい人影もありません」


「こっちもクリア」


「同じくクリア。オズマ、天野から何か連絡があったか?」


「こっちに向かう。と返事が来たから、もうすぐ来るだろう」


天野さん達がここに来るのかぁ。と思っていたら、オズマさんに頭を叩かれてしまった。


「何をするんですか」


「集中しろ紫音、敵がいるかもしれないんだぞ」


「集中していますよ。ん?」


風に乗って来るこの臭いは、確かあの時嗅いだ臭い。


「どうしたんだ紫音?」


「天野さんの車に付いていた臭いと、同じ臭いが向こうからして来ます」


「それってもしかして、TNTを仕掛けたヤツらの1人か?」


「TNT? 何ですかそれ?」


発信器みたいな物かな?


「あっ! いや、その・・・・・・なぁ」


「どうしたんですか?」


「それよりも、その臭いがするって事はターゲットがいるって事だ。構えろ!」


「あ、はい!」


そう返事をすると武器を構えて道路の右側を注意深く警戒していたら、誰かにえり首を掴まれグイッと引っ張られた。


「何を!」


文句を言おうと振り向いた瞬間、パパパンッ!? という発砲音と ギャンッ!? ガンッ!? バリンッ!? という金属音がする。多分バンに弾が当たった音だ。


「12時方向、白い建物の2階から撃って来た!」


「チッ、バレたか。まぁいい。紫音、援護射撃をしてやるから、前に出ろ!」


「え? あ・・・・・・え?」


状況が呑み込めずいる紫音に対して、オズマは紫音の頬を平手で叩く。


「もう戦闘が始まっているんだよ! 惚けてないで言う事を聞け!」


「は、はい!」


正気を取り戻した紫音は、バンの窓越しに身を隠せそうな場所を見つける。


こ、恐いけど、あそこにある自販機なら近いし身を隠せそう。


「じ、自販機のところまでなら、行けそうです」


「なら、俺が制圧射撃をするから、合図をしたら自販機まで突っ走れよ」


「は、はい!」


そうだ、天野さんが言っていたじゃないか。自分が相手に殺されるか、自分が相手を殺すかの2つだ。って、それに覚悟も決めたじゃないか!


そう思ってから、H&K M27 を構えているオズマさんの後ろに回り、身構える。


「合図があれば、いつでも行けます」


「3カウントだ。3、2、1、行けぇ!」


オズマさんが持つH&K M27 のけたたましい発砲音と共に、バンの後ろから飛び出して自販機目掛けて全力で走る。

自販機に裏までたどり着くと、オズマさん達に顔を向ける。そして互いに目が合ったのでコクリと頷く。


今度は僕が制圧射撃をする番だ。


H&K UMP45 セレクターをセミオートに切り替えてから自販機の裏で構えると、横から少し上半身を出して、オズマさんが撃っていた場所に ダンッ!? ダンッ!? ダンッ!? と撃ち続ける。

その間にオズマさん達はバンからそれぞれの場所に移動する。


「シオン、俺とツーマンセルを組んで進むぞ!」


「はい!」


オズマさん達が敵と交戦している間に、リガードと共に銃を構えてながら建物へ近づくのであった。ターゲットを倒す為に。

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