警戒しつつ孤児院へ向かう紫音

「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


天野さんにそう言って家から外に出ると襲撃されないようにする為、道に出る前にクリアリングをする。しかし、ボディーアーマーを身体に密着させるようにする為に、キツくしているせいか動きが少しぎこちない。


「前よし、右よし、左よし、大丈夫」


しっかり確認した後、道に出て孤児院に向けて歩きだす。


昨日みたいに襲撃に遭うのは嫌だなぁ。でも、工藤さんが護衛を付けてくれてれているから大丈夫、だよね?


「ウッ、ウエエエエエエェェェッ!?」


吐くような声のした方向に顔を向けると、小太りのおじさんが道路の脇にある排水溝の前で膝を着いて気持ち悪そうにしていて、こっちに嫌な臭いが届いて来たので思わず自分の鼻を摘んだ。


「社長。大丈夫ッスか?」


痩せ型の男性はそう言いいながら、社長と呼んだ人の背中を手で摩る。


「ウプッ、大丈夫じゃない。ウッ・・・・・・んん、気持ちが悪い」


「水を飲んで方がいいッスよ」


「あ、ああ・・・・・・ありがと」


社長と呼ばれた人はそう言うと、ペットボトルを受け取り水を飲む。


「クソォ〜、これもアイツのせいだ」


「そ、そうッスか? 二日酔いになったのは、社長のせいだとオレっちは思うんスけどねぇ」


「ウルセェ! 俺のフェアレディZが壊されてなきゃあ、ヤケ酒なん、んんッ! オ、オエエエエエエェェェッ!?」


吐き気を催したのか、また排水溝に向かって嘔吐した。


うわぁ、二日酔いになるとあんな風になるんだ。お酒を飲める歳になったら気をつけよう。


そう思った後、孤児院に向けて歩きだした。自分が原因の一端である事も知らずに。


その後も、いない、大丈夫、クリア、あの人は違う、と辺りをキョロキョロと見ながら歩いていると、ポケットに入れているスマホから着信音が聴こえた。


「なんだろう、天野さんからかな?」


ポケットからスマホを取り出して確認して見ると、何とオズマさんからのメールだった。少し驚きつつもメール内容を確認する為に開く。


お前、辺りを見廻し過ぎて不審者に見えるぞ。襲撃されるのが恐いって気持ちはわかるけど、普通に振る舞ってくれ!

じゃなきゃ襲撃相手にも警戒されているの丸わかりだろうが!


と文句のメールが書かれていたので、 ゴメンなさい。普通に振る舞います。 と返信してからポケットにスマホをしまい、今度は普通に歩きだした。


あれ? オズマさんは何処から僕の姿を見ているんだろう? 辺りには影の形どころか、臭いすらも感じなかったし、後で確認してみようかな?。


そう思っていつつ歩き続けていたら、問題なく孤児院に着いたので心の中ホッとした。


「あっ、シオンおにいちゃんだ!」


1人の男の子がニコニコさせながら、こっちに方に来た。


「おにいちゃん今日もきてくれたの?」


「うん、そうだよ」


まぁ仕事の為に来たんだけどね。


「今日はなにしてあそぶの?」


「また鬼ごっことかして遊ぼうと思っているんだけど、その前に園長先生を呼んで貰えるかな?」


「なんで?」


「園長先生が 入っていいよ。 言わないと入れないんだ」


いくら仕事で来たとはいえ勝手に敷地に入ってしまうのは、マナー違反だ。


「そうなんだ。園長先生を呼んで来るねぇ!」


男の子はそう言うと元気よく走り出した。


「走らなくてもいいよ! 危ないから!」


声を張ってそう言ったが、男の子は聴こえてないのかそのまま走って建物の中へ行ってしまった。


「大丈夫かなぁ?」


段差に脚を取られて転んだり、前をよく見なかったせいでぶつかったりとかしてないよね?


「おにぃちゃん!」


「あ、シロちゃん」


どうやらシロちゃんが話を聞いいたのか、嬉しそうに尻尾を振りながらこっちに来てピョンピョン飛び跳ねていた。


「おにぃちゃん! おにぃちゃん!」


「僕に会えてうれしい?」


「うんっ!」


嬉しそうに頷く姿を見て、クスッと笑ってしまった。


そう言って貰えると来た甲斐があるよ。いつ襲われるかわからないけどさ。


「おにぃちゃん、あそぼ! ねぇあそぼ!」


「先に園長先生とお話しをしなきゃいけないんだ」


「ええ〜!」


不満なのか、振っていた尻尾がピタリと止まってしまう。


「でもすぐに終わるから待っててね」


「ホント?」


「本当だよ。嘘もつかないから待っててね」


「うん」


そんな会話をしていたら、こっちに向かって小走りで向かって来る音がしたので、田端さんが来た。と思いながらその方向に顔を向けるが、田端さんとは違い20代ぐらいのエプロンを身に付けた女性が、さっきの男の子と一緒に向かって来ていた。


あれ? 田端さんじゃない。もしかして、やっとバイトを雇えたのかな?


その女性は僕の前まで来ると、走って疲れてしまったみたいで、背中を丸めて息を整えてから話しかけて来た。


「アナタが紫音さんですか?」


「え、はい。そうですが」


「園長先生から話を覗っております。私はここで働いてます。飯野いいの あや と申します」


「え、ここで働いているって事は、もしかして風邪を引いて休んでいた方ですか?」


「はい、お恥ずかしい話ですが風邪を引いてしまいました。因みに私の他にもう2人いまして、その方も明日から復帰出来るらしいんですよ」


「そうなんですか。それじゃあ、僕のお仕事は今日までですか?」


もう2人の方が職場復帰出来るって事は、そういう事だから。


「はい。そちらの件に関しましては、田端園長が話を通しております」


「おにぃちゃん」


シロちゃんに声を掛けて来たので下を向くと、何とそこには今にも泣きそうな顔をしていた。


「ど、どうしたのシロちゃん?」


「もう、おにぃちゃんとあえなくなるの?」


「う、うん。そうだよ」


「ムゥ〜〜〜〜〜〜・・・・・・」


そう唸りながら、涙をポロポロと流していた。


「あ、シロちゃん」


飯野さんはシロちゃん頭に手を置き、優しく撫でる。


「シロちゃん、紫音さんと会えなくなるの嫌なの?」


「・・・・・・うん」


シロちゃんは声を絞り出すようにして話す。


「どうして?」


「はじめて、シロと同じひとに、あえたのに・・・・・・おわかれしたくないよぁ〜」


そういえば、僕自身は2回ぐらいライカンスロープ同族に会った事があるけど、シロちゃんにとっては同族に会うのが初めてだった。


「えっとね。そのぉ、ね」


ダメだ。理由が浮かばない。


「紫音お兄ちゃんね。ここの近くに住んでいるから、いつでも会いに行けるよ」


「そうなの?」


「え? いや、そんなに近くは・・・・・・」


そんなに近くはないと言おうとしたら、何故か飯野さんとその側にいる男の子が、近くにいると言え。と言わんばかりこっちを睨んで来る。


あ、なるほど。そう言う事ね。


「う、うん。そうだね。ここの近くに住んでいるよ。だからいつでも会えるよ」


そう言った瞬間泣き顔から明るい表情に変わり、嬉しそうに尻尾をブンブン振りだした。


よかった笑顔になってくれて、でも嘘が混じっているから罪悪感を感じてしまう。


「シオン」


この声は。と思い、振り返って見てると後ろにオズマさんがいた。


「オズマさん」


「話の途中で悪いが、お前に仕事が入った。ワシと共に付いて来て貰うぞ」


「仕事、孤児院の方はどうするんですか?」


「工藤の方から電話で話を通している。だからお前さんは心配しなくてもいい」


「はぁ、そうですか」


僕の知らない間に連絡をしていたんだ。ならこっちにも連絡して欲しいなぁ。


「それと、お前の装備はこっちで用意しておるから、ちゃっちゃと装備してしておくれ」


「わかりました。飯野さん」


飯野さんはまさか自分に話を振られる思っても見なかったのか、身体をビクッとさせた。


「はい、なんでしょうか?」


「田端さんによろしくと言っておいて下さい」


「わ、わかりました。私から園長先生に伝えておきますね」


何だろう、飯野さんが怯えている気がする。


そんな事を思っていたらオズマさんが僕の腕を引っ張って来たので、オズマさんの方に顔を向けると、僕の事を睨んでいた。


「時間押してるんだ。行くぞ」


「あ、はい」


飯野さん達に頭を下げてから、オズマさんの後を追い掛ける。


「・・・・・・なぁ、シオン」


オズマさんは孤児院から少し離れたところまで歩くと、振り向いてから真剣な顔付きで話掛けて来た。


「な、なんですか。オズマさん」


「これから行う仕事は覚悟して臨めるよ」


「どうしてですか?」


「お前にとって初めての対人戦になるからじゃ」


その言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ心臓が締め付けられるような苦しさを感じた。

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