ツラい思いをする紫音

天野さんは道路の上をピックアップトラックで飛ばしながら走っている。法定速度を超えているので、普通ならいつ捕まってもおかしくはない。

それに僕自身怖いけど天野さんに文句を言えない立場なので、僕は後部座席怯えた表情をしながら天野さんが事故を起こさない様に祈っている。


「とりあえず、拠点にしている場所の特定が出来たな」


「そうね。それよりも先に反応が近い2人の方を見に行きましょう」


「ああそうだな。そっちの方がここから近いからな。それとシオン」


「は、はい!」


バックミラー越しに天野さんの顔を見てみると、怖いぐらいに真剣な顔付きになっていたので思わず息を飲んでしまう。


「いいか、何を見ても動じない覚悟を持っていろよ」


「あ・・・・・・はい」


そう返事をしたけれども、この時はまだ天野さんの言葉を理解していなかった。


「・・・・・・そろそろ着くぞ。警戒しておけよ」


「飛ばしているから早く着くわねぇ〜。絶対事故らないでよ」


「バカ。普通に運転しているんだから、事故る訳がないだろ」


思いっきりスピード違反をしている気がするのは、僕の気のせいでしょうか!


「ん?」


天野さんは何か気になるものを見つけたのか、ブレーキを踏んでピックアップトラックを止めるが急ブレーキに近い形で止めたので、僕とリトアさんは グエッ!? っと言ってしまった。


「ちょっとアマノ! もっと上手くブレーキを踏みなさいよ! てか、もう私に運転を変わりなさいっ!!」


「それはそれで構わないが、あれを見てみろ」


「「あれ?」」


天野さんが指先を右に向けているので、僕とリトアさんはそのさしている指の方向へ顔を向けると赤い点々が見えた。


「あら? 血っぽいわね」


「ああ血だ。目的地に近いから恐らくは山岸達のだろう」


「いや、スマートウォッチが落ちてある方向と一致しているから調べなくても大丈夫だろう。このまま行くぞ」


「そう、わかった。判断はアナタに任せるわ」


リトアさんの返事を聞いた天野さんはアクセルを踏んでピックアップトラックを走らせるが、先程とは段違いで進みが遅い。

警戒をしているのか、またはモンスターを警戒をしているのかのどちらかだと思う。


「・・・・・・ん? アマノあれ」


「ああ、わかってる」


天野さんと同じ方向へ顔を向けて見ると、何匹かカラスが円を描く様にして飛んでいて下を仕切りに気にしている。


「ねぇアマノ」


「わかっている。周囲を警戒しつつ近づくぞ」


2人はそうやり取りすると、天野さんはそのまま運転に集中してリトアさんは辺りを警戒しだす。しかも2人とも集中しているのか無言になっている。

そんな中、どうすればいいんだろう? と僕はオロオロしていたら天野さんが話し掛けて来た。


「あの車の先を超えたら見える様になる筈だ。降りて確かめに行くぞ」


天野さんはそう言うと、ピックアップトラックを止めてエンジンを切る。そして辺りを見回すと扉を開いて出る。

その後に続く様にしてピックアップトラックを降りると、異臭とも言える血生臭ささで思わず ウッ!? と言ってしまう。


「・・・・・・よし。ゆっくり近づいて行くぞ」


天野さんは僕の様子を気づいていないのか知ってて気にしていないのか、SR-16 URX4を構えたまま捨てられている車の背後側から、ゆっくりと近づいて行く。

その様子を見ていた僕は、緊張感と危機感からか手が汗ばみ息づかいが荒くなってしまう。

そして、天野さんがこっちに手のひらを見せると僕より先に進んでいたリトアさんが止まる。多分、止まれ。 っていう合図なんだろう。


どうしよう。恐い。


僕がそう思っている中で、天野さんはゆっくりボンネットの側面から顔を出していく。


「・・・・・・大丈夫。敵はいない」


そう言った途端2人は立ち上がって歩き出すので、えっ!? 立っていいの? と言いたそうな顔で見つめていたら、リトアさんが歩きながらこっち向く。


「安全だから立っていても大丈夫よ!」


「えぇ〜・・・・・・」


本当に大丈夫なのかなぁ? と思いながら、立ち上がってリトアさんの元へ走って行く。


「ああ〜、やっぱりこうなっていたか」


「これは酷いわね」


2人がそう言うのでついつい気になってしまい、リトアさんの横から覗く様にして見てみた。しかし、その好奇心での行動が間違いだったと気付く。


「うぷっ!?」


見るも無惨に食い千切られた人の死体を見てしまった僕は、胸の奥から込み上げてくる物を口に手を当てて上半身を丸ませる。

運がよかったのか喉元で止まってくれたので、そのまま ゴクンッ!? 飲み込んで奥へと戻して行く。


「ケホッ!? ケホッ!?」


「大丈夫シオンくん。はい、お水」


無言のままペットボトルを受け取り、キャップを取って中にある水を飲む。


「あ・・・・・・ありがとうございます」


「初めて見るから仕方ないわよ。それに無理しなくていいわよ」


ペットボトルをリトアさんに返すと、AK74uを手に持ち再度死体を見つめる。


こんなにも無惨な姿になってしまった人の死体を見ると、気分よく思えない。ん?


「天野さん。彼の左手首にスマートウォッチが・・・・・・」


「わかっている。コイツが付けているスマートウォッチを回収するから、リトアはリュークにこの事を伝えてくれ。シオンは周りを警戒していてくれ」


天野さんはそう言った後に死体の左手を持ち上げてスマートウォッチを回収し始めて、リトアさんは自身のスマートフォンを取り出して操作する。


「シオンくん。言われた通りやって」


「は、はい!」


ビクッと身体を跳ね上がると、慌ててAK74uを構え直して辺りを警戒する。


「・・・・・・あれ?」


あの地面に付いている赤いのって、あれって血だよね?


「どうしたんだシオン?」


「あそこ。離れた場所に血が見えるんですけど、何て言うか地面に伸びて続いているんです」


僕の指さした方向に天野さんが顔を向けると、ああ〜。 と納得した様子で立ち上がり僕に近づいて来る。


「引きづられた跡だな」


「えっ!? 引きづられた跡って事は、山岸さん達の誰かが怪我をした仲間を助けようとして・・・・・・」


「いんや違う。モンスターが仕留めた獲物をどこかに隠す為に、口に加えて運んだんだろう。

ほら、その証拠に引きづられている跡の左側に足跡があるだろう?」


そう言われたので、血痕をよく見つめてみたら確かに犬の足裏の様な血の形が地面にあった。


「なるほどね。だから離れた場所にスマートウォッチの反応があったのね」


「全く、アイツらと来たら面倒な事になりやがって・・・・・・佐島が作った借金誰が返すんだよ」


天野さんは頭をポリポリ掻きながら言う。言葉に怒気を感じるのは気のせいだろうか?


「別にいいんじゃない? アマノが払わなきゃいけない訳じゃないんだから」


「まぁそうだな。それにちょうどこっちのスマートウォッチの回収は終わったからな。

恐らく近い場所に残り2人の内の1人がいる筈だ。警戒しつつ行くぞ」


「私が先行するわ。アマノは後ろに付いて来て」


2人は銃を構えるので、僕も付いて行こうとAK74uを構えて近づいたのだが・・・・・・。


「シオン、お前はここでピックアップトラックを見張ってろ」


「え? ええっ!?」


どうして? もしかして僕が邪魔だからですか? と言おうとする前に天野さんが語りかけてきた。


「いいか、車上荒らしどころかピックアップトラックを盗まれたら困からな。任せたぞ」


「・・・・・・はい」


ちょっと納得出来ないけど、僕は素直に天野さんの言う事を聞く。


「すぐに戻ってくるからな」


天野さんはそう言うと、リトアさんと共に血痕を追って行ってしまった。なので、ピックアップトラックに近づくとドア部分に寄り掛かかる。

本来なら銃を手に持ち辺りを見回して警戒しなければならないのだが、本人は精神的な面で疲れている上に置かれている状況に理解が追い付いていない。なので、この行動は無意識のうちにやってしまっているのだ。


「・・・・・・う〜ん」


どうしてこうなってしまったんだろう? お父さんがいた頃は普通に学校に行って友達とおしゃべりして、帰りにスーパーとかで夕ご飯用の食材を買ってから料理を作ってた。

もちろん勉強にもいい高校に入る為に励んでいた。だけれども、お父さんが失踪してから生活が一変した。

せっかく受かった志望校が辞めなきゃいけなかったし、マンションだったけど住んでた家部屋だって維持出来ないと言う理由で手放さなきゃいけなかった。


「・・・・・・本当にこれでよかったのかな?」


僕自身が天野さんの申し出を断っていたら、よかったのかもしれないけど・・・・・・ん?


「獣の臭い?」


それに爪がカリカリとアスファルトに擦れる音がする。しかもその音が自分方向へ近づいて来ているのがわかる。


「グルルルルル・・・・・・」


「え? まさか!?」


僕は音のする方向に向けてAK74uを構えた瞬間だった。


「グルァアッ!!?」


1匹のウルフがこちらに向かって走って来ていたのだ。

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