紫音と天野の約束

大通りの路肩に軽自動車や普通乗用車。さらには大型トラックまで止められている。普通なら違法駐車で捕まる筈なのだが、ここは危険な閉鎖区域なので野ざらしにされている。

しかも、いくつかの車には落書きされているどころかタイヤがなくなっている車や、ボンネットが開きっぱなしされている車も目立つ。入り口ら辺にあった車とはほとんど違う状態になっていた。


「何で車があんな風になっているんだろう?」


「シオン、あれはね。部品取りした後なのよ」


「部品取り?」


そう言いながらリトアさんの方向へ顔を向けて見ると、ニコニコしながらこっちを向いていた。


「エンジン自体を持っていくのは無理だけども、タイヤやガソリンはもちろん中にあるバッテリーやなんかなら持っていけるからね。

その車から取った物を売ってお金にしている人がいるのよ」


「それって、犯罪じゃないんですか?」


普通に窃盗罪で捕まる犯罪行為でしょ?


「ああそうだ。犯罪だ。でもな、その犯罪行為をやらなきゃ生きていけないヤツらがいるんだ。わかるよな?」


「でもぉ〜・・・・・・」


「シオン。お前があの時に俺との約束に首を横に振ってたら、お前は今頃どうなっていたと思う?」


最初に頼ったオズマさんには、 すまないがお前を養うのは、ワシには無理じゃ。 と断られてしまった。

僕にはオズマさん以外親しい人がいない上に、親戚もいないので最悪の状態路上で生活していたかもしれない。この歳で孤児院への入居は難しいかもしれない。だから僕は藁にもすがる思いで天野さんの約束に はい。 って言って了承したんだ。


そう思うと胸が締め付けられる様に痛むので、思わず下を向いてしまう。


「・・・・・・」


「断っていたら、お前もああいう風な事をしていた可能性があった。違うか?」


下を向いてわからないけど、天野さんは多分バックミラー越しに僕を見ているかもしれない。


「そう・・・・・・ですね。天野さんの言う通りかもしれません」


天野さんが身寄りのない僕を受け入れてくれたのだから、僕は天野さんに感謝しないといけない。


「ちょっとアマノ! いくらなんでも言い方があるんじゃない?」


「お前の気持ちもわからなくもないが、遅かれ早かれ事実は受け止めなきゃいけないだろ。違うか?」


「それはそうだけどぉ〜・・・・・・」


リトアさんは気まずいのか、天野さんから目をそらして僕を見つめる。


「っと。そろそろ梅屋敷駅に着くぞ」


天野さんの後ろからフロントガラスを覗き込む様に外を見てみると、横倒しにされた車と鉄柵が脇道を塞ぐ様な形で並んでいた。


「天野さん。あれって、もしかしてぇ〜・・・・・・バリケードですか?」


「ああ、あれは自作のバリケードだ。ちなみに何であんな風に設置してるのか? と言うと、魔物の侵入を防ぐ為の他に野党やギャングどもを入れさせない為でもある」


「野盗やギャングどもを入れない様に?」


「ああ、ヤツらは金品や物資を狙って襲おうとする事があるんだ」


「そんな事をしたら自分達の生活が苦しくなるのがわかっているのに、何故かやるのよねぇ〜」


リトアさんが呆れた顔を見つめていると、車が止まって煙たくて嫌な臭いが漂って来た。


「ちょっとアマノ! 煙草に火を点けないでよっ!!」


「いいじゃねぇか。どうせもう降りるんだから」


どうやら隙を見て天野さんが煙草に火を点けたみたいだ。


「ケホッ!? ケホッ!?」


煙草の煙を不意に吸ってしまったせいで、むせてしまったのだ。後、煙草の臭いでちょっと気分が悪い。


「ホラァッ! シオンくんだって咽てるじゃない!」


「車から出れば大丈夫だろ?」


天野さんはそう言うと、ドアを開いて車から出るので僕も後を追う様に車から出る。


「・・・・・・ん?」


バリケードの方から声が聞こえて来たので顔を向けてみると、高台らしきところにいた人が下をに向かって大声で話しをしていた。

その人が話し終わると鉄柵の一部が開いて、クロスボウガンと89式自動小銃を持った2人の男性がこっちに向かってが歩いて来るので、警戒しようとしたら天野さんに制しされた。


「スラムを警備している連中だから大丈夫だ」


「そ、そうなんですか?」


武器を持ってたから、危ない人達だと思っていた。


「よう天野。久しぶりだな」


「おう、久しぶりだな」


天野さんはこの人と知り合いなんだなぁ〜。 と思っていたら、その2人がいきなりこっちに視線を移して来たので思わずビックリしてしまう。


「その子はぁ〜・・・・・・新人か?」


「ああ、そうだ」


「・・・・・・そうか」


何だろう? この人もあの自衛官の様な可哀相な人を見る目で、僕を見つめて来ている。


「で、今日は何の用だ? 物資を買いに来たのなら、今は無理だぞ」


「そんな用はないんだがぁ〜、物資が買えないなんてどうしたんだ? 何かあったのか?」


天野さんが怪訝そうな顔をした途端、男の人はちょっと慌てた表情をしながら話し始める。


「そんな大した事じゃないって、土竜が出掛けていて居ないから買い物が出来ないんだよ」


土竜? モグラ? もぐら? ・・・・・・ここで飼っているのかな?


「何だそんな事か。まぁ買い物する予定はないけど」


「じゃあお前は何をしにここに来たんだよ?」


ちょっとイラついた様子で聞く男の人を余所に、天野さんはいつも通りの顔で話す。


「山岸達の行方だ。昨日ここに来なかったか?」


「山岸達?」


「ああ」


「それなら昨日朝早くここに寄って来て・・・・・・」


おじさんは言うのを止めるのと、先程とは一変して天野さんを不安げな表情で見つめる。


「おいまさか、アイツらもしかして?」


「恐らく、お前が予想している通りだ」


「ハァ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・」


おじさんは頭を掻き、呆れた表情をしながら深いため息を吐くと話し始める。


「前々からアイツらに、 スラム街以外で寝泊まりするのは危険だから止めておけ。 って言ってたんだが。

俺達の心配して事が現実化するとはなぁ・・・・・・」


「注意を聞かないヤツが悪い。で、アイツらから拠点にしている場所とかを聞いてないか?」


「一応聞いている。俺達もアイツらが心配だったからな」


おじさんはそう言うと、ポケットから地図を取り出して広げて見せて来る。そして、梅屋敷駅の上に人差し指を置いて説明を始める。


「今いる位置から線路に沿って平和島駅まで行くと、ここに辺にファミリーレストランがあるんだ。今はそこを拠点にして活動をしている。

まぁ、今となったらって言った方が合っているか」


「ここって、佐島が着けていたスマートウォッチがある場所じゃない?」


リトアさんが地図を覗き込みながら言うと、地図を持っているおじさんが恥ずかしそうに顔を逸らした。

しかし天野さん達はおじさんの事を気にせずに話し続ける。


「そうだな。恐らく拠点に帰る途中に襲われたんだろうな」


「野党とかギャング?」


「その可能性は低いな。この間、他のPMCの連中が野党とギャングを蹴散らしていたからな。ほとんど居ないだろう?」


野党とギャングを蹴散らしたって・・・・・・。


天野さんの言葉を聞いて、思わず顔が引きつってしまった。


「さてと、用が済んだからお暇しますか」


「そうね。早くお仕事を済ませたいしね」


「情報をありがとよ」


天野さんはそう言いながら、おじさんに向いて片手を上げて会釈する。


「気にすんな。また何かあったら来いよ」


「ああそうする。シオン固まってないでこっち来い」


天野さんに無理矢理気味に手を取り、ピックアップトラックへと引っ張って連れて行かれてしまう。リトアさんはその様子を微笑ましく見つめていた。

そして、ピックアップトラックが出発しようとしたところで、おじさんは ハッ!? っと気づいた顔をして話し掛けて来る。


「ああそうだ! 途中で魔物を倒したら、ここに持ってこいよ」


「わかってる。その時までにはアイツがいる筈だからな」


「そうか、気をつけろよ!」


その言葉を聞いた天野さんは、おじさんに手を上げて返事をするとピックアップトラックを発進させた。

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