とりあえず避難する人達

「・・・・・・ほら、みんな降りて」


不機嫌そうにそう言うのは無理もないよね。だってリュークさん、あんな事あったんだもん・・・・・・うん。


「ああ、ご苦労・・・・・・ちょっと煙草を吸ってくるな」


なんだろう・・・・・・怒られるのが分かってるから、そそくさと逃げようとしてる気がする。てか、早足で行っちゃった。


「じゃあ私達は景色を見に行きしょうか」


「え?」


景色って東京の? 30分ぐらいで着くのなら別にそんなことしなくても良いと思うけど。


「一応、東京の町を説明しておきたいからね。ここじゃあアレだし・・・・・・ね」


うん、不機嫌そうにしながらゲームしているリュークさんの近くにいるのは、ちょっと気が引ける。


「分かりました」


リトアさんに手を引かれながら階段を上がり外に出ると、空と海が見渡せる甲板に出た。


「うわぁー・・・・・・海だぁ」


遠くに見える町の建物は高いものから低いものまでちらほらと並んでいる。流石は都市、建物が密集していますね! って言いたいけれども恐らく今は全部空き家みたいな感じなんだろうなぁ。


「シオンくん、海の向こうに見えるのが東京危険区域の一部よ」


リトアさんは、手すりにもたれ掛かりながら東京を指をさして隣にいる僕に話し掛ける。


「やっぱり、あそこも危険地区なんですね」


「ええ、東京都閉鎖事件から5年目になるわ」


東京都閉鎖事件・・・・・・5年前、新大陸のロードラント大陸にしか現れないはずのモンスターが何故か突然東京に出現するようになった。政府はその事態を最初軽く見ていて、モンスター駆除として少数の自衛隊に対処させていたのだが、日を増すごとにモンスターが増えていき自衛隊だけでは対処しきれないようになってしまい、自衛隊だけではなく警察官も動員してモンスター駆除を行った。

しかし、それでも対処仕切れず増えていく一方なので政府はやむ終えず東京の封鎖を決めたのだった。決議決定と共に急ピッチで市民を避難させて東京を閉鎖させたが、逃げ遅れてしまった市民も少なくはなかった。その逃げ遅れてしまった人達の一部は何処かの建物の中かビルの隙間などにスラム街を独自に築き上げて生活している。


「閉鎖当初に比べて閉鎖された区域が狭まったのは良いけれども、今も閉鎖区域縮小の話でスラムの住人といざこざが絶えないのよ」


「そうですよね。閉鎖区域を縮小させる時に死者が出るほど争った。ってニュースになりましたもんね」


東京都閉鎖事件から約2年経って、自衛隊やPMCの活動のおかげでやっと閉鎖している区域を縮小出来る様になった。

いざ規模を縮小しようとした途端に、縮小する地域の入っているスラムの人間から猛反発を受けた。

なぜそうなったのか? それは、せっかく手に入れた自分達の住処とそこでの仕事を追われてしまうからだ。なので自分達の生活を守る為に武器を持ち、反対デモを起こしたのだ。

そのデモの結果は死者36人、負傷者60人にも登り現代日本の負の歴史の一つとなっている。


「ほら、これで東京を見てみなさい」


リトアさんが双眼鏡を渡してくるので東京に向けて覗き見る。


ぱっと見じゃ分からなかったけど、所々うす汚れた壁と窓ガラスが破れている建物が多いのが目立つ。


「あっ!?」


「どうしたの?」


「人が歩いています。しかも銃を持ってますね」


「銃とか装備はどんな感じなの?」


「銃はAKっぽいですね。それにチェストリグを付けています」


「恐らく、PMCの連中がモンスター退治をしてるんでしょ。湾岸辺りのモンスターは弱いモンスターが比較的多いから、一人でも歩けるわ・・・・・・でも」


「でも?」


そう言いながらリトアさんの方に顔を向けるたら、さっきの笑顔とは違い真顔になっていた。しかも威圧感が凄いので思わず息を呑んでしまった。


「ギャング集団とかに目をつけられたら厄介だから、なるべく一人で行動しないようにして」


「は、はい」


「同じPMCの人ならともかく、それ以外の人達は常時警戒をしてね。殺して物を取ろうとしている人が多いからね」


「は、はい」


殺して物を取ろうとしてるって・・・・・・東京がもう世紀末状態なのかな?


「それと他には・・・・・・その都度教えればいいかなぁ」


「おう、二人共ここに居たか」


振り向くと天野さんが煙草の箱を持ちながら立っていた。


「ええ、アナタせいでリュークが不機嫌になったから避難しに来たのよ」


「そうか」


「それと、ここは喫煙所じゃないから煙草吸っちゃダメよ」


「吸い終わったから仕舞おうとしてただけだ」


そう言いながら煙草をポケットに入れると、僕達同じ様に手すりに寄りかかって東京を見つめ出した。


「ハァー・・・・・・どうしてこうなっちまったのかなぁ〜?」


「何言ってるの、リュークがああなったのはアナタせいでしょ」


「いや・・・・・・東京の話だ」


「あぁ、そっちの話ね。20年前に起きた世界異変の影響でこうなったんじゃないの?」


「・・・・・・かもな」


なんだろう。天野さんの瞳を見てると、懐かしいって気持ちの中に悲しみを感じるようなぁ・・・・・そんな何とも言えない感情になっている気がする・・・・・・それよりも。


「世界異変って・・・・・・太平洋に大陸が光と共にいきなり現れた。って歴史に新しい出来事の事ですよね?」


「ええ合ってるわ。私もその大陸出身だからあの日の事を覚えてるわ。アナタもその大陸に住んでいた住人の血を引いてるのよ」


そう、20年前に太平洋の真ん中に突然大陸が現れた。そして国際連合はその突如として現れた大陸に調査を

する事を決定して調査チームを立ち上げて大陸へ乗り込んだ。

調査開始から数日で現地の人を見つけたのでコミニケーションを取ったのだけれども・・・・・・最悪な事態を招いてしまった。


「僕のお父さんとお母さん出身でした。あとぉ・・・・・・・この世界の住民と戦争を起こしてボロ負けした。って聞いてますけど、本当ですか?」


「ええ、本当よ。私の祖国は戦争が始まってたった半年で白旗を上げたわ」


その大陸、正式名称 ロードランス大陸 の国々は何を思ったのかは未だに不明だが、地球側に対して宣戦布告を言い渡して戦争を仕掛けて来たが半年と言う速さで終戦した。


「剣や弓や魔法が主体の国が、戦車やら戦闘機、増してやミサイルとか強力な兵器ヤツらに敵う訳ないだろう?」


「そうだね。普通の魔術師が使う魔法なんて威力が知れてるし、強力な魔法を使おうとしたら2〜3発ぐらいで終わるからね。

増してや強力な魔法は発動するのには時間が掛かるから護衛なしじゃ使えないんだよね」


「うわぁっ!?」


いつの間にかリュークさんが僕達の後ろに立っていた。


「ああ、そうだな。確か他のやり方があったよな?」


「うん、強力な魔法陣を地面に描いて、5から10人ぐらいの魔術師がその周りを囲んで魔力を流して発動させる方法ね。

その方法なら魔力が低い魔法使い達でも使えるし、人が要ればいるほど強力になる。けれども、この方法も一回こっきりの方法だから使いどころを選ぶ感じになるよ」


「そうね。それにその方法で魔法を使った人達が足元が、おぼつかないぐらいに疲労困憊している姿を見た事あるわ」


「あとは死亡例もあるぐらいだからな。そんなリスクを持ってる行為を容認する訳がないよな」


授業で 危険行為だから魔法を使える人は絶対にやらない様に。あと犯罪行為でもあるからね。 って言われたけど、そんな風になるとまでは聞かされてなかったから正直驚いている。

てっきり強力な魔法を安易に町で使わせない様にする為の注意事項だと思ってた。


「まぁその話しは置いておいて、これから何をしに行こうとしているのか簡単に説明しておこう。

ちゃんと聞いておけよ。シオン」


「は、はいっ!?」


真面目な顔をして言うので、これから真剣な話しをすると感じたから天野さんに耳を傾ける。


「シオン、これから羽田空港にあるPMC協会が所有している作戦会議室に行く。そしてそこにいるPMC協会の職員から依頼内容を詳しく聞くんだけれども・・・・・・その職員がちょっとクセが強いんだ」


「ちょっとクセ強い?」


・・・・・・ひょっとして、その人は性格が悪くて偉そうにしている。とか、勘に触るとすぐに怒る様な人なのかな?


「・・・・・・まぁ、会えばわかるさ。もうそろそろ着くから降りる準備をするか」


「そうだね。一応言っておくけど、運転は僕がするよ。いいよね?」


「ああ、運転はリュークに任せる」


天野さんとリュークさんの二人はそうやり取りすると船内に向けて歩き出したけど、話しを中断されたので僕はポカーンと口開けて惚けて天野さん達の背中を見つめていた。


「シオンくん。私達も降りる準備をしましょう」


「えっ!? でも・・・・・・さっきの話し」


「まぁ天野の言う通り、ちょっとクセがあるけど決して悪い人じゃないから安心して」


なんか、はぐらかされている気がする。 と思っていると僕の後ろにリトアさんが回り込んで来た。


「まぁまぁ、会ってからのお楽しみよ。さぁ、私達も行きましょう」


「・・・・・・はい、わかりました」


リトアさんはそう言いながらグイグイ僕の背中を押してくるので、仕方なく天野さん達の後を追う様にして駐車場に向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る