第7話

”アカネコ”は、小屋の中の声に意識を向ける。

「俺もこれで、魔法使いなれる。今に見ていろよ。俺をコケにした奴らめ……」

小屋の中からは、ずっと独り言が聞こえてくる。誰かと話しているような気配はない。


”アカネコ”は考えた。小屋の中の男は、まだ魔法を使えないだろう。もし、すでに魔法が使えるのであれば、『魔法使いなれる』とは言わない。何らかしらの方法で、死体で魔道具を作る方法を知ったのだ。となれば、小屋の煙突から出ている煙も、違ったものに見えてくる。あれは、ただの暖炉の煙ではない。まだ、作業中なのであろう。つまり、今なら、一人でも捕まえることができる。


”アカネコ”は小屋の玄関を勢いよく開ける!

「動くな!協会の者だ!」

小屋の中には男がひとり。驚いて”アカネコ”の方を見る。


「協会だと!?ばかな!結界を破ったのか!?」

「結界?なんのことかは知らないが、とにかく、お前は協会に無断で魔道具を製造した疑いがかかっている。大人しくついてきて貰おう」


「ちくしょう!こんなところで捕まってたまるか!」

男はナイフを手に取り、構える。それを見た”アカネコ”は、とっさに5本の棒きれを取り出し、呪文を唱えた。

「”シュー・フィン・バイ”!」


今日仕入れたばかりの親子揃いの指たちが”アカネコ”の手から男に向かって飛び出す。5本の指が男の四肢と頭にそれぞれ張り付くと、”アカネコ”は右掌を男の方に向け、力を込める。


「う、動けねえ……」

「動くな、と言ったはずだ」

”アカネコ”が右掌に込める力を強めると、男の体に張り付いた指が身体に食い込み、さらに男を苦しめる。

「ぐあああ!」


「大人しく降参すれば、これ以上は痛いようにはしない」

「誰が降参なんか……」

「そうか、ならば苦しめ」


”アカネコ”はさらに右掌に力を込める。もはや男の体に張り付いた指は皮膚を食い破り、肉に刺さろうかとした、その時だ。足を拘束していた指が、バキッと音を立てて砕け散った。このチャンスを見逃す男ではない。自由になった足で、とっさに椅子を蹴り上げ、”アカネコ”の右腕にぶつける。


「しまった!」

動揺した”アカネコ”は、右腕の形を崩される。この拘束魔法は、自分の手を介して相手を締め付ける魔法だ。故に、締め付ける力を調整できるが、このような方法で、簡単に解除されるという側面も併せ持つ。


「どけえ!」

自由になった男は”アカネコ”を体当たりで押しのけ、小屋を脱し、さらに森の奥へと逃げていった。


”アカネコ”も立ち上がって追いかけようとした。だが。

「待ち給え」

背後から声。その声を聞いて、”アカネコ”の足が止まった。

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