第8話余韻に僕は浸りたい

 コンクールが終わり、結果がロビー貼られたが、当然僕は優勝も、入賞もしていなかった。

 優勝者の名前には、当然神谷君の名前があった。

彼の演奏はぶっちぎりで一番だと僕も思っていた。

 彼は今回で4回目の優勝で、水野あかりの優勝回数よりも上になったわけだ。

彼女には申し訳ないと思った。


 僕が結果を呆然と眺めていたら、神谷君が僕の前に来た。

「俺の勝ちだな。しかもなんだあの演奏、途中でやめるなんて演奏以前の問題だ。お前はピアニスト失格だよ」

 彼は強気な態度で言ってきた。

「そうだね僕の負けだ。でも僕はあの演奏をしたことに後悔はないよ。僕は僕の精一杯を演奏に乗せた。」

「僕は君に勝つことはできなかったけど、僕の音楽を届けたい人に届けることができて僕はそれだけで十分だよ」

「何だよそれ…コンクールは結果が全て。何でお前もあいつも結果が出ないくせにあんな満足のいく演奏した顔になってんだよ!」

あいつと言うのは水野のことだろうと思った。

「俺はお前も水野も認めない。俺はお前らよりも上だ!」

 彼はそう言うとその場から去って行った。

 僕はその後ろ姿を見て、コンクールでの戦いが終わったのだと実感した。



 美菜と母の絵梨は、帰り道今日の翔の演奏の話をしていた。

「あのお兄が、あんな演奏するなんてビックリだったなー!リズムも、テンポもめちゃくちゃでも、お兄の個性がすんごい出てる演奏でよかった!!」

「そうね、あの子は今まで譜面に忠実に基本にそって演奏してたから今日はビックリしたわ」

笑顔で美菜が言った。

「とってもよかったよね!」

「でも、この演奏はお父さんには見せられないね…譜面に沿わない演奏をコンクールでやっちゃうのはダメだよね…」

「でも、いい演奏だったわ」

「だよね!私はとっても大好きだった!あの演奏してる時だは、私の憧れたお兄が帰って来たと思った!」

「お兄ちゃんのこと本当に美菜は好きね」

「全然好きじゃないもん!!」

 美菜は顔が真っ赤になっていた…



 外で水野あかりが待っていた。

 彼女の方に向かったら、彼女から拳が飛んで来た。

「何すんだい!」

「失格したペナルティ!もう君は本当にバカすぎ!やり直しなんて、ビックリしたよ!」

「そこに関しては本当にごめんなさい…」

「まぁでも、今までの君の演奏で一番私は好きだったよ。」

 僕はそれを言われて、コンクールに出てよかったと思った…

そして彼女は前にも僕の演奏を見たことがあるのかなと思った。

「ありがとうコンクールに出てくれて」

 彼女は振り向き帰り道を歩き始めた。

 僕はそれを追うように歩いた。

 いつか彼女の隣を堂々と歩けるように頑張りたいと思った…


 家に帰り、父にコンクールの結果を言った。

 ただ演奏するだけならまだしも、失格してしまったんだから当然怒られると思った。

「自分の満足の演奏はできたのか」

 僕は父の目の見てはっきりと「はい」と答えた。

「そうかならいい、ただし二度と演奏中断するなどと演奏者としてやってはならないことはするな」父から忠告されリビングを出た。

 怒られると思っていたから僕は少々ビックリしていた。

 それから、リビングでテレビを見ていると、妹の美菜が来た。

「まぁお兄なりに頑張ったんじゃないの」

 とそれだけいい、彼女もリビングを出た。

 妹が僕を褒めるなんて珍しいことが起きるなんて明日の天気は荒れるのかなと思いつつ、僕は自分の部屋に向かった。



 朝起きたら、僕の予想が当たり台風が急に来たと言う破天荒になってしまったため急遽、今日の学校は休みになった。


 すると彼女水野あかりからちょうど電話が来た。

「もしもし〜起きてる?」

「電話に出てるから起きてるよー。それで何か用?」

「うん!今日の台風午前中までだから、午後から遊びに行こう!時間は1時に学校の近くのコンビニで!」

「ちょっと!」僕の返事を聞かずに電話が切れてしまった?

 とりあえず準備をして行くことにした。

 女子と二人きりでお出かけなんて、不安になったが、相手が水野あかりならと考えたら、気が楽になったし正直楽しみなっていた。

 



 この時の僕は彼女が、隣にいない日常なんて考えられないものいつのまにかになっていた…






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る