第3話僕についた彼女の一つ目の嘘

《《》》 天才ピアニスト水野あかりと出会ってから1週間が経ち、あれから彼女は朝、僕に会うたび挨拶をして来た。

 彼女に僕は正直迷惑していた。

 なぜかと言うと、想像してみてくれ僕みたいなクソ隠キャラ(隠質キャラクター)な僕が、クラスでも早川凪に次ぐ人気の、女子水野あかりに話しかけられたら、クラスの猛獣(男子)たちにどう思われるか。当然目の敵にされるからだ。

 様々な嫌がらせをされた。

 プリントは僕の分だけないし、僕が横を通ると舌打ちされるし、放課後の掃除は僕一人でやることになったり、散々な事ばかりだった。


 一週間経ったいまその生活に慣れ始めてはいるが…。


 放課後彼女が校門前で誰かを待っていた。

 なぜか僕は嫌な予感(直感)をしたので隠れるように校門を抜けようとしたが見つかってしまった。

「なんで逃げるのよ!君を待ってたのに〜」

 彼女はそう言って怒ったふりをしながら、僕に近づいて来た。

 「何度来てもピアノはやらないよ、君がどこで僕が昔ピアノやってたのかを知ったのか知らないけど僕はもう辞めたんだ…」

 その場から早く逃げようとしたが、彼女は右手の包帯が巻かれた手を見してきた。

「全治二週間の捻挫。いたたた〜これは誰のせいかな〜」

 と彼女は右手を抑えながら勝ち誇ったように手をブラブラさせた。

「それはもともと君が走ってぶつかって来たのが悪いんじゃないか!」

 僕は少し強く言った。

「それに君はピアノを辞めた僕でも知ってる、あの有名な高校生ピアニストじゃないか!君の代わりなんてたとえ僕が君の代わりに演奏しても、凡人の僕には君のように観客のみんなを満足させられる演奏なんてできないよ…」

 黙って彼女は聞いていた。僕は久しぶりにムキになってしまったと反省しつつも自分の感情が抑えられず彼女攻めてしまった。

「とにかく僕は君と違って凡人なんだ!君のような才能に恵まれた特別な人間じゃないだ!」

 彼女は言った、「私だって君が言う特別な人間じゃないよ、だけど私には憧れの人がいてその人に近づくためにピアノが上手くなりたかったから練習没頭した。

だから私はここまできたの、その結果私はここまで弾けるようになったし、世間に評価されるようになった。君はどう?自分の限界を超えるぐらいまで自分を追い込んだことがあるの?自分の限界を勝手に決めつけて諦めたんじゃないの?」


 僕は言い返すことができなかった。確かに中学まで継続して練習はしていたが父が仕事でいない時は練習を休んでいたし、体調の悪いふりをして休んだ事も何度かあった。

仕方ないと父がいない時ぐらい休もうと勝手休んでいたがそれは仕方ないじゃないか。

どんなに練習しても結果が出なかったんだから…

 そして最後のコンクールで僕はピアノを諦めた…。


「最初から特別な人間なんていないよ。君のお父さんだって、特別な努力をしてるから特別な人間なれたんだと思うよ。私は君ならできると思うよ、できると思うからお願いするんだもん。」

「僕には、できないよ…」

僕は平凡な人間だから…この言葉はもうこれ以上口にしたくなかった。

自分がこれ以上自分を嫌いになりたくなかった。



「ううん、君ならできる!私が言うだもん!間違いないよ!!」

 僕は何故そんなに僕を信じれるのだろうと思った。

「僕は今までも言い訳して逃げて現実から目を背けて来た…何でそんな僕をしんじれるんだよ!!」

叫んでしまった。人に叫んだことなんて家族でもなかったのに彼女の前だと感情が抑えられなくなる。

「それは君をみて来たから私にはわかるよ

君は誰も見てないのに律儀に放課後美化委員の仕事するし、人に押し付けられた仕事でも君は何だかんだするし、それに君はピアノが好きでしょ?」


彼女は何を根拠にそんな事を言っているのかなと思った。

「私山川先生から君が音楽室の掃除してるから手伝ってあげてって言われたから知っているだ、《《》》放課後あなたとぶつかる前の日に音楽室の掃除をし終わった君が楽しそうにピアノを弾いてる君を」

誰かに見られてたのとは思ったけど水野あかり見られてたのか。あの時の足音が誰か分かった。

「その時の君は幸せそうにピアノを演奏してたよ!あんな幸せそうにピアノしてた君ができないなんて事絶対ない!私は君ができると信じる!!」


「私にあなたの演奏を見してください!」


いろんな人期待されてきたけど彼女からの期待はなぜか心地良かった。


「どうしてもこのコンクールにあなたに出て優勝して欲しいの!お願いします!私にあなたのピアノを聴かしてください!」

 彼女は一生懸命だった。

 僕の演奏を聴くためだけにここまで僕をコンクールに立たせようとしている。

 僕は彼女の期待に応えたくなった。

 覚悟を決めることにした。自分とは違う特別だと思っていた人も努力をしていたなんて分かってはいたけど、彼女に言われたら何故だかもう一度ぐらいピアノと向き合ってみようと思った。

「出るよ君の代わりに。でもどうなっても知らないからな。」

「うん!ありがとう翔君!」

 僕はこの時初めて彼女に名前を呼ばれた…

 彼女はとても綺麗に満面の笑みで僕を見た。


 僕はその彼女の顔をずっと見ていたいなと思った…

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