不器用なカノジョ
高嶺 蒼
プロローグ~カノジョの複雑な家庭事情~
子供の頃、普通の家族はお父さんとお母さんが2人ずついるものだと信じていた。
なぜって我が家はそうだったし、4人の親たちはとても仲が良くて、私はそんな家族が大好きだったから。
だから、我が家の家族形態が普通じゃないと初めて知らされた時の衝撃はすごかった。
小学校で一番仲の良かった女の子に、
「ソラちゃんの家って変!パパとママが2人ずついるなんておかしいよ」
そう指摘され、あまりのショックに泣きながら帰った私に、パパ達とママ達はきちんと分かりやすく真実を語ってくれた。
私が生まれるよりちょっとだけ昔。
二組のカップルがいました。
それぞれのカップルはとてもお似合いで、心から愛し合っていたけれど一つだけ問題を抱えていたのです。
それは、男と男、女と女の同性同士のカップルであったということ。
同性同士では結婚はもちろん、子供を授かることも出来ません。
子供などいなくとも、幸せに暮らせればいいじゃないかという人もたくさんいました。
どちらかといえば、同性のカップルの間ではそっちの考え方の方が主流です。
ですが、不幸なことにその二組のカップルは子供が大好きだったのです。
しかも、運の悪いことに、4人とも1人っ子同士でした。
4人それぞれの親は口を揃えたように言います。
「そろそろ、孫の顔を見させてくれないかしら?」
と。
4人は悩みました。
子供は欲しい。でも、同性同士ではどうやっても子供は作れないのです。
とりあえずノンケ(異性を好きな人の事です)のふりをして、異性と結婚して子供だけでも作ってしまおうかと思い詰めた時もありましたが、そうするにはお互いがお互いを愛しすぎていました。
他のパートナーなど考えようがなかったのです。
そんなときでした。
あるMIXバー(男の人も女の人も入れるバー…らしいです)で、たまたま隣り合ったそれぞれのカップルが呟いたのです。
「あ~、子供が欲しい」
……と。全く同じ言葉を、全く同じタイミングで。
4人それぞれ、みんながみんな運命だと思ったそうです。
そして、4人はそのまま意気投合し、一つの家族を作ることにしました。
そして1年の後、4人の間には玉のような可愛らしい女の子が生まれたのでした。
そんな経緯で私が生まれたのだということが分かった。
ショックだったけど、それで親達を嫌うことはなかった。
彼らは十分私を愛してくれたし、私はそれで幸せだったから。
子供とは残酷なもので、いじめられたり、仲間外れは日常茶飯事だったけど、幸いなことに親達は勉強至上主義のお受験パパ、ママとは違い、必要以上に学校へ行くことを強要しなかった。
そんな親の方針に甘え、私は最低限の出席日数で、しかもそのほとんどを保健室登校で過ごし、義務教育の期間を乗り切った。
そのかわり、家では勉強の得意なママが勉強を、もう一人のママがピアノと声楽、ミュージシャンのパパにはその他色々な楽器、そしてもう一人のパパには格闘技や護身術を教えてもらうといった、微妙な英才教育を受けて育った。
だから、学力その他にもそれほど不安はなく、高校もそれなりのランクの高校を合格することが出来た。
そしていよいよ明日が入学式。
不安はたくさんあるけど、とりあえず、飛び込んでみれば何とかなる……4人の親を見習って、そう考えてみる。
きっと新たな出会いもある、そう信じて。
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