0x001A 試験中に口ゲンカとか、ないわー
DOGとの交渉は揉めに揉めたみたい。
その間、僕の居場所のなさと言ったら……
記憶を消せるものなら消し去りたい。米国国防総省準拠方式DoD5220.22-Mじゃなく、グートマン方式三回レベルで消し去りたい。
とにかく、デアドラ・セルジア連合のDOGとの交渉は無事終了したらしい。
デアドラが持っている貴族特権とか正直わからないし、法的な話になるとお手上げだ。ましてや政治が絡むとついていけない。
そうして、ギルドの実技試験の日がやってきた。
魔法統制庁の庁舎はエントランスは天井が高くアーチ状になっていた。
この建物は奥行きもあり、窓から日差しは届かない。無数に灯された『照明』が、間接照明のように使われ、重厚な雰囲気を出していた。
炊かれた香の匂いは
審査室に行く前に、ガシュヌアがちょっと待てと言って、どこかに行ってしまったので、エントランスの待合席で待ってた。
僕とDOGとはギクシャク。普通の会話がしにくい。
さて、マルティナの方を見ると、通常運転。実技試験当日だと、さすがに恋愛モードにはならないみたい。緊張した面持ちをしている。
ホッとすると同時に、モヤモヤがまた大きくなった。
おかしいな?
「アステア、この前言ってた連中だ」
ガシュヌアの声がしたので、そちらを見ると背の高い、黒毛の男がこちらに向かって来るのが見えた。髪の毛がウェーブしてて眉毛が近い。ラテン系って感じ。
待合席に座っていた、ジネヴラとマルティナは立ち上がった。
それを見て、僕も立ち上がった。
ドラカンはマイペースな人らしく、そのまま座って手を振ってた。
「やあ、アステア。元気にしてた?」
「ああん? 何でドラカンいるんだ。説明してくれねえか、ガシュヌア? こいつが居る意味がわからねえ」
「こいつもDOGの一員だ。当たり前だろ」
陸軍省のアステアとDOGは仲がいいらしい。
タメ口で言い合ってるけれど、普段もこんな調子なんだろうか?
はっきり言って、入りずれえ。
「アステア、君の奥さんには手を出しちゃいないよ」
「そこは信用してやる。だが、何をふきこんだ? 嫁さんが何かとお前と比較するから、迷惑してんだよ」
「君の所に使用人がいるじゃない」
「ああ? てことは、使用人には手を出したってことかよ」
「自由意志は尊重しなくちゃね」
立って待ってる僕達がバカみたいなんですけど。
色々とフリーダムすぎんだろ、お前ら。
完全に置いてけぼりだよ。
ジネヴラとマルティナも、どうしていいかわからなくて困ってるじゃん。
てか、アステアって陸軍省でのカリスマ的な存在と勝手に思っていたけど、若すぎねえ?
三十前半みたい。
「アステア、そろそろ客人を紹介させろ。私生活はいざ知らず、陸軍省の要であるお前が何たるザマだ」
あれ、ガシュヌアが普通の人っぽい。彼を常識人っぽいと思ったのは、これが初めて。
「ガシュヌア。来期の予算請求額で話がある。後で説明してもらうからな」
「状況も含めて説明してやるから話を回せ。まずは自己紹介を始めるぞ。奥からジネヴラ、マルティナ、ユウヤだ。Emmaのギルド申請をしている」
「俺がアステアだ、よろしく」
自己紹介になってから、アステアの雰囲気が、軍人モードに変わった。顔は引き締められ、所作は威厳を帯びていた。
「よろしくお願いします。私がEmmaのギルド長となる、ジネヴラです」
「ギルド員のマルティナです」
「ユウヤです」
「座ってくれ、Emma諸君」
有無を言わさぬアステアの声。
鋭い目に、引き絞られた眉。着席しながらも隙が見えず、剣圧すら感じた。威風堂々な気風。
直感的にこいつも主人公系に近い。役目はトリスタンにしておこう。
「話はガシュヌアから聞いている。魔法API仕様書、試験報告書を読ませてもらった。DOGの進言通り、野戦病院では効果的だと俺も考えている。ただ、野戦病院で使用するには、軍法コードM021-0050.08をクリアする必要がある」
「その軍法コードではどのようなことが定められているんでしょうか?」
ジネヴラは圧力に屈することもなく、凜とした声で尋ねた。
本番に強いよね、ジネヴラ。
「かみ砕いて言えば、被魔法者の範囲を広める必要がある。提出してもらった試験では被魔法者は一名、成人男性のみだ。野戦病院だと老若男女関係なく運ばれてくるから、被魔法者の範囲を広げて効果を確認することが必須になる」
「基準となる試験項目リストはありますか? 資料を頂ければ幸いです」
「後で送ろう。老人や幼児も被魔法者に含む必要があるんだが、できるか?」
ジネヴラの方を見ると、疑念を一閃するように口を開いた。
「できます」
「結構。いい返事だ。一言言わせてもらうと、最大パラメーターまでテストする必要はない。パラメーター範囲の相談はDOGとしてくれ。野戦病院はバザールよりも賑やかだ。ミスがないよう軍用パッケージとして魔法APIも簡素化したものが望ましい。軍用として別に用意してくれ」
「わかりました」
「よろしい、以上だ」
アステアは淡々と述べ、DOGに向き直った。
「ガシュヌア、ドラカン。実際の野戦病院を想定し、異常発生時緊急マニュアルを作成しておけ」
「既に作成済みだ。M021-0050.08は年度末に変更予定だ。修正がないか確認したい。変更予定差分を送れ」
「ガシュヌア、随分と肩入れするじゃないか?」
「そういうお前こそ。異常発生時緊急マニュアルを先んじて作っておいたが、他の魔法ギルドから文句が出るかもな」
「野戦病院の混乱は知っているだろう?」
「あれは地獄だ」
「なりふり構っていられない。陸軍としてはそういう見解だ」
アステアの言葉は続いた。
「それにしても、美女二人が魔法ギルドとはな。少しばかり驚いたよ。まさか、容姿で気に入ったと言うわけではあるまい、ガシュヌア」
「見くびらない方がいい。容姿に気を取られると、足下を掬われるぞ」
「素質については提出された仕様書、試験報告書で確認している。しかし、マッカーサー公の娘も大したものだな」
「デアドラか。マッカーサー公も子に恵まれたな。交渉力もあり将来は有望だ。外務向きだな」
ちょっ、デアドラのファミリーネームってマッカーサーなの?
コーンパイプ咥えたアイツを思い出したんですけど?
一息入れて、アステアはジネヴラに言った。
「実技試験会場へと行くか。年寄りどもがお待ちかねだ」
「はい」
「俺に見せた気迫を見せてやれ」
「わかりました」
颯爽としたジネヴラは誇らしげに笑ってみせた。確かに彼女は才覚に恵まれている。
ちょっと眩しい気がしたけれど、彼女の靴音は高く、エントランスの天井まで届くかのようだった。
実技試験会場は二階の審査室。大きな扉に大きな取っ手。重いだろうな、と思っていると、ガシュヌアとアステアが前に出てジネヴラ達にドアを開けた。
ちょっと、それって僕の役割じゃないの?
「
ガシュヌアのドヤ顔がムカつく。
いつか倒す。絶対に。
「ところで、ユウヤ、例の件はどうなっている?」
「メールやファイルを引っ掻き回して、例のプロジェクトなるものを調べちゃいますが、どれがEmma設立に抵触するのかわからないんですよ。ファイルもメールも多過ぎです」
「ラルカンが何を言ったのか知らないが、Emma設立妨害という視点は忘れろ」
「じゃ、どういう視点で探ればいいんです?」
「セル民族に関わるプロジェクトを調べておけ。魔法統制庁とOMGを追い込むのが目的だ」
ラルカンがセル民族自治連盟のハッキングしてるけど、それと関係あるのかよ。
何か目星がついてるっぽい。完全に踊らされてる。全力でキリキリ踊らされてる。
意識を戻すと、審査室の奥にテーブルがあり、既に四人が着席していた。離れた所で書記らしき人が二人。
やっぱ年寄りが多いわ。
魔法統制庁長官ドナル、宮廷魔法ギルドOMGのギルド長であるダルシーが、この中にいて、反ヴィオラ派なわけだ。だけど、もう二人は誰?
「それじゃ、ユウヤ君。僕はここまでだから。また、後でね」
「えっ、ドラカンさんは同席しないの?」
「僕は目が見えないからね。それじゃ影で応援しているよ」
扉は閉じられた。ここにいるのは、審議会会員六人、書記二人、僕を含めたEmmaの三人。
アステアは堂々とした態度で席についた。
「陸軍省の代表は時間に余裕があるのだな」
老齢の白眉毛が皮肉っぽく、口をゆがめていた。体は細くとも、気力は充実している。長いヒゲは胸元まであり雰囲気的に魔法使い。星が付いたシルクハットを被れば、いい魔法使いに見えるかも。
「近頃は内紛の噂がされていてな。セル民族自治問題とアングル王国との国境問題。仕事が山積みだ。せめて、セル民族自治問題ぐらいは解決してもらいたいものだ」
アステアの言葉にあからさまに顔をしかめているのが二名。白眉毛と、灰色眉毛。
灰色眉毛は眉毛ボーボー。おまけに耳から毛が生えていた。この耳毛は特筆に値する。耳毛とかあんなに出てて、人の話聞こえるんだろうか?
アステアを顧みることもなく、言葉を続ける。
「そういえば、宮廷魔法ギルドには、毎年多額の助成金がセル民族自治に関わるプロジェクトに拠出されているらしいが、進捗はどうなっているのやら。なあ、ガシュヌア?」
「セル民族自治問題は過激化している。昨年度の暴動が三七件、今年はまだ年初に関わらず、二四件。このペースだと年末には五十件越えるかもな。何をしているのやら。治安、状況共に悪化している」
アステア、ガシュヌアの息はピッタリ。
事前に打ち合わせしているのだろうけど、ピンポイントで宮廷魔法ギルドを批判し始めた。
でも、この場に立って、ようやくプロジェクトと言われてるものが朧気に見えてきた。
セル民族自治に関わっていて、助成金がつぎ込まれている――
でもさ、今日はEmmaの実技試験じゃなかったっけ?
「まだ成果が出ていない。年次報告書に進捗状況を記載しているはずだ。暴徒沈静化は警察庁の仕事だろう。一方的に私の責任にされても困る」
と、白眉毛。ヒゲに隠れているが、唇がぷるぷるしているみたい。口の周りヒゲがワサワサ動いていた。
こいつがOMGのダナシーだろうなと、検討をつける。
あの白くて長いヒゲを引っ張れば、頭頂部の毛は短くなったりするんだろうか?
ちょっと試してみたい。
「セル民族自治区か。誰かが区警署長に議会で決まった事項だから手出無用と言ったそうだな。刑事告訴しようとしても、検察庁が動かないとの報告がある。検察庁を指揮監督するはずの法務省として、検察庁はどうあるべきか、意見を聞かせもらいたいものだ」
「ガシュヌア、その辺にしておけ。どういう理由か理解しかねるが、実技試験に全く関係がないはずの、シベリウス法務大臣も同席されている」
「これは失礼をした。法務大臣は検事総長を籠絡するのに忙しいと思っていたので、ここに居るとは思わなかった」
「さて、諸君。実技試験を始めようか?」
実技試験に遅れてきたにも関わらず、完全にこっちのペース。
実技試験って雰囲気的じゃねえ。
席についた、アステアに促され、ジネヴラが前へ出て一礼をした。
「この度、魔法ギルドEmma設立を申請した代表者ジネヴラと申します。本日は多忙の中、参加頂けたことに厚くお礼を申し上げます」
ジネヴラの声は澄んでいて、そこに怯えは隠れてはいなかった。
やっぱり本番に強いわ、ジネヴラ。
「今回、魔法API申請するものは一二種類あり、申請書順に申し上げますと、『空気殺菌』、『消毒』、『火傷治療』、『骨折治療促進』、『接骨』、『炎症治療』、『局所麻酔』、『局所麻酔回復』、『火傷』、『骨折』、『炎症』、『炎症悪化』となります。それぞれのパラメーター、効果、使用必須スペック、前提条件は申請書に記載した内容通りです」
魔法の説明はジネヴラに任せて、僕は異変がないか確認することにしよう。
コンソールを開き、Emmaの
ログを見る限り、DoSアタックの形跡はない。ポートスキャンされてる形跡すらない。
ジネヴラを見ると質疑応答をしていた。
が、実際の所、バッシング。
OMGギルド長ダルシー、統制庁長官ドナルとか、超ウザい。
実技試験でイチャモン付けるとか、頭おかしいんじゃねえの?
「これらの魔法は国民に恩恵があるのかね? 『骨折治療促進』や『炎症治療』は自然治療でも十分だろうし、『局所麻酔』に至っては心身を麻痺させる。現代医学でも麻酔は確立しているし、魔法で実現する意味がわからん」
ジネヴラは臆することなく卓上に手をつき、一歩も下がらない構え。
「治療時間、治療期間の短縮も視野に入れて下さい。現代医療では時間がかかり治療を受けられない人も多いのが実情です」
彼女の弁舌は続く、
「骨折に関しては患部を固定、骨が回復するまで、一ヶ月から二ヶ月の期間を要し、その後、筋力トレーニングを必要とします。炎症も同じです。治療までに消毒をし、完治するまで時間がかかります。その間に別の病気を併発する可能性もあり、早期に治す方法があるなら、そちらの方が望ましいと私達は考えています」
「しかしな」
ここでシベリウスが口を挟む。歳は五十半ば。黒々とした髪は整えられ、鼻下のヒゲも見事に整えられている。見れば着ているスーツも立派。ショルダーラインは美しいカーブを描き、袖口から覗くカフスも様になっていた。
「現在、医者や薬を作っている業者はどうなる? 医学者や流通業者だっている。この魔法はカヴァン王国の産業に対して影響が大きすぎる。この魔法を公開するのであれば、彼らが失業するだろう。産業構造が変わる可能性は考えたことがあるかね? 革新的な魔法であることは認めよう。ただ、公開するのであれば、より深い審議が必要となる」
「公開するにあたって、魔法使用を免許制にするのを提案します。効果が薄いものは一般公開。効果が高いものにあたっては、免許を持った者が使用判断をする、と。そうすることで新たな雇用が生み出せます。この魔法は既存療法を否定するものでなく、共存することも可能だと考えます」
ここでアステアが口を開いた。
「やれやれ、現在の魔法資源に関する貿易はどうなっていたんだろうな、外務大臣マクラレン卿?」
質問の先に居たのは気弱そうなオッサン。丸眼鏡をかけており、貴族って感じがない。
周りがエラそうな奴ばっかなので、存在感が薄い。アステアの一言で背筋を伸ばしてた。
見てて可哀想。アステアさん、マクラレンさんが可哀想だろ?
「昨年度末のでよろしいですか、アステア・デ・カスティーリャ卿」
「そうだ。近年の動向も併せて教えて頂きたい」
アステアさん、教えてって態度じゃないよね?
てか、あんたスペイン系貴族かよ。ラテン的にいじめるのは普通なの?
手加減してあげてよ。マクラレンさんの声、震えてるじゃん。
「昨年度末の貿易収支は赤字です。主要であった水系の魔法がフランツで発見されたとのことで、アングル王国より大幅な値下げを要求。対して輸入している土地改善などの農業に関する魔法の使用量が多く、今年度も赤字になるかと」
「結構。カヴァン王国としては、新しい魔法資源の発見がない限り、赤字が続くであろう、と。このように受け取って構わないな?」
「ええ、おっしゃる通り。魔法供給はアングル王国を経由していることもあり、各国間との交渉ができないということもありまして……」
アステアは強引に話しを割って入った。
「さて、ここで新たなる魔法資源を発見したというのに、懐疑的な面々がおられるようだ。産業構造など言っている間に、新しく発見された魔法が陳腐化し、更に国力が弱体化するのがお望みらしい。ガシュヌア。お前はどう思う?」
ねえ、マクラレンさんの話、最後まで聞いてやってよ。
まだ言いたいことありそうだよ。
でも、ガシュヌアは空気読まない人。
「列強国間で魔法条約が締結されているが、この魔法は条約にある第二条、第一項から第十二項に合致しない魔法となる為、第三条が適応される。よって原則的にアングル王国の足枷を外せる。早めに認可せねば、先使用権も得られず、またもや他国の後塵を拝することになる。もっとも、法務大臣が国家の金庫ではなく、自分の金庫を豊かにしたいのであれば、文句を言う理由についても理解できる」
「ガシュヌア君、君はこちらの国に来て間もないだろう。君はこの国の何が分かっているのかね? 仮にも法務大臣に失礼じゃないか」
「ドナル長官。実技試験前において、かような議論に至ったのは、貴君が質疑を挟んだからだ。加えて実技試験に関係のないはずの法務大臣を連れ込むなど魔法統制庁令にもない。どうも、貴君は法律をご存知ないようだ。問責決議案を提出するので準備しておけ」
準備しておけと言いながら、ガシュヌアが僕を見た。
ええと、これって僕に準備しておけって言ってるよね。
問責決議って議会員レベルだと思ってたけど、こちらでは行政官も対象になるのか。
魔法統制庁長官ドナルが絡んで、問責決議案に添付できるレベルの情報がいるんだよね。
そうなれば、物証じゃなくてもいいはず。
内部告発を装ってメールを出すだけで済む話だ。OMGギルド員になりすまし、問題となってるプロジェクト文書をメールで送信するだけでいいじゃん。
そういうの、仕事でよくやってたわ。
ジネヴラは、議論が膠着した頃を見計らい、紙を配布した。
「この魔法が国家にとって有益であることを、配布した資料で説明しようと思います」
この資料はジネヴラが学生時代に書いた論文のデータを利用したもの。
野戦病院での一人あたりの治療時間、運び込まれてからの経過時間と死亡率の相関関係をグラフ化している。
Excelに簡易的な統計関数が搭載されてる。だけど、この世界の人間は使いこなせていない。
ジネヴラがプレゼンしているグラフには最小二乗法を使った導関数を追記している。この計算は二十世紀に統計学の道具として取り込まれたものだ。
ジネヴラは紙面に書かれたグラフを説明している。
「このように一人あたりにかかる治療時間が延びるに従い、死亡者が増える傾向があるというのはこのグラフから読み取れました。そして、現時点での野戦病院に運ばれた人の生存率を計算した結果は58%です。つまり、野戦病院に運ばれた半数は命を落とすという可能性があるということです」
参加者はジネヴラが配布した資料に見入っている。
先ほど、やかましかったダルシー、ドナル、シベリウス、そしてアステアまでが、資料に目を奪われていた。
「ゆえに現在の野戦病院で治療行為の効率化が求められていると私達は考えています。今回、開発した魔法を導入することで、治療時間は従来の十六分の一に短縮することが期待できます。この待ち時間が軽減されることで、生存率は84%まであげられるでしょう」
ジネヴラは大丈夫そう。
さて、実技試験に向けて意識をコンソールへ戻そう。アクセスログを読んでみると、やっぱり何にもない。DNSサーバーの問い合わせも正常。
うーむ。妨害が全くない。折角準備してきたのに。
てか、ラルカン言ってたよね。OMGが実技試験で邪魔するって?
肩すかしもいいとこなんですけど。
ハッカー的にはここが活躍するべき場所じゃないの?
ジネヴラの説明は終わり、実技試験となるようだ。彼女は長くに渡って喋り続けた為か、頬が上気していた。
頑張ったね、ジネヴラ。
僕が彼女を見ていると、ジネヴラはそれに気付いたらしく、僕に向かって彼女は小さくYou, Yeahのジェスチャー。
何、このカワイイ生き物。
アステアは感服したらしく満足そうな表情を浮かべており、シベリウスまでが髭を触りながらジネヴラの資料に見入っていた。
悔しそうなのは、ドナルとダルシーだけ。
僕の中でドナルとダルシーは、樫の木であることが決定した。
多分、僕と同列。主役にはなれない奴ら。
実技試験が始まった。
さあ、頑張って『骨折』されよう。
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