放課後この場所で。
meru.
ふと気づいた瞬間に
校舎の片隅にある部屋。訪れる人は数少なく、他と比べたらどこか違う空間。この独特の空間が私は好きで、毎日入り浸る。
ページをめくる音。紙と私の指とが触れ合い、教室にぴんっと張られている空気をゆらす。微かにきこえてくる吹奏楽部の音。心の中にすーっとしみ込んでくる。
図書委員の特権。利用者はほとんどいないため貸し切り状態。読書をしたり課題をしたり。カウンターは椅子と比べ背が高く、課題をやっているときの私の姿はとても不格好だろう。そんなこともここでは考えなくて済む。
そんな中この空間にひと月ほど前からある男子が通うようになった。別に会話を交わすわけでもなく、それぞれ本の世界にトリップする。こんな長い期間通いに来る人は初めてで、今まで私の中になかった感情が芽生えたみたい。彼はいつも本を持参するのでめったに本は借りない。図書室に入り決まって窓際の椅子に腰かける。足を組み太ももに肘をついた体勢で本を読む。身体がこちらに向いているため、ばれないように慎重に本ごしで覗き見る。彼の1つ1つの動作を観察している私は重症かもしれない。
遠くから微かに聞こえてくる足音。図書室の前まで来るとぴたりと止む。扉がぎこちなく音を立てながら開き、床のきしむ音とともに踏み入れられる足。と同時にこの空間の温度が少し上がったように感じる。放課後の約30分という短い時間。私にとって大切な時間。
放課後この場所で。 meru. @meru03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます