第36話 牢獄からの脱出会議
ここはいつものグラン邸のラウンジ。
セブンスの前には二人の美少女と一人の美女が座っている。
秘書のクラウと神獣のフェル、そして水の精霊ミスティーだ。
ここまではいいのだが、何故か黎明樹の巫女であるセレスティーがセブンスの左腕に絡みついている……。
「あのな〜、セレスティー。そろそろ離れてくれないか?」
「いやです! 絶対に離れませんわっ!」
出会ったときはかなりの高飛車な女性に思えたが、セブンスにベッタリしているところを見ると、あんがい可愛らしい女性なのかもしれない。
「セレスティーさま。これから作戦会議を開くのですから、セブンスさまから離れてください」
セブンスの忠実な秘書が黎明樹の巫女を諭そうとする。
「お黙り! わたしは十六年間もダーリンを待っていたのです。充電しないと死んでしまいますわ!」
「ダーリンですって!」
水の精霊が切れ長の目で巫女を睨む。
「それならわたしも充電する!」
神獣少女がセブンスの右腕にしがみつく。
「「あ〜っ、先を越された!」」
秘書と精霊が叫ぶが、神獣少女は屈託のない笑顔を振りまくだけだ。
「これだと落ち着いて話せないんだけどな〜。お茶も飲めないじゃないか」
それを聞いた精霊がにやりと笑い、自分でお茶を飲む。
「だから二人とも離れてくれな、うっ……」
予想できたことだが、精霊がセブンスにお茶の口移しをした。
「何やっているのよ! あなたは!」
「セブンスがあなたのせいでお茶を飲めないから口移しをしたのよ。わたしはセブンスの契約精霊だから当然のご奉仕よ。文句ある?」
巫女の抗議が軽く受け流された。
因みに、精霊の契約とご奉仕とは何の関係もない。
「そ、そうなの。ダーリンのことだから契約精霊の一人や二人居たとしても不思議はないわね。でも、妻としては余計な虫がつかないようにするのが義務なの」
巫女が精霊を涙目で睨みつける。
巫女の体の小刻みな震えがセブンスに伝わる。
「いい加減にしてくれよ! 話を始められないじゃないか!」
「ごめんなさい、ダーリン。でも、従者にはもう少ししつけが必要ね」
「分かった、分かった。それでは話をはじめるぞ」
だが、脱出の話をはじめる前に、一つだけ確認したいことがセブンスにはあった。
「その前に、一つ教えてくれセレスティー。君は本当にエルフなのか? 他のエルフと違う気がするんだが」
「さすがにわたしのダーリンね。わたしはハイエルフよ。アークフェリス族とは人種が違うの」
「だから魔力が桁違いに強いのか? ひょっとして俺の護衛なんか必要ないくらい強いんじゃないのか?」
「ダーリン!」
セレスティーは急に怒ってむくれている。
「どうしたんだよ急に……」
「わたしって強そうに見えるのかな?」
セレスティーにはどちらかというと薄幸の美少女といった印象がある。もしあの凄まじい電撃を見ていなければ、セブンスは彼女を見た瞬間に守ってやりたいという衝動に駆られていただろう。
「まあ、強そうには見えないわな」
「そうでしょ。実際にわたしは弱いの。だって、戦闘レベルは百くらいしかないもの」
「嘘おっしゃい! それならあの電撃はどうやって説明するつもりなの?」
間髪を入れずにミスティーが絡んできた。
(この二人はうまくやっていけるのかな……とても心配になってきたぞ)
「あれはね、わたしの数少ないスキルなの。戦闘系の魔法は電撃しかできないわ。だからね、ちゃんと護ってよダーリン!」
◇ ◇ ◇
女性陣の揉め事はしばらく続き、ようやく落ち着きを取り戻してきたので牢獄からの脱出の話がはじまった。
アークフェリス族の神官たちは、念入りに魔法障壁と結界をこの牢獄に施している。
残念なことにセブンスのパーティーには結界系魔法のスペシャリストはいないので、神官たちに知られないで脱出する方法を思いつかないでいた。
「そう言えば、龍神国の結界は凄かったな。力ずくでも突破は無理だったし」
「こんな時に居ないなんて、役立たずのヴァルキリーね」
水の精霊ミスティーは容赦なく龍神国の戦姫を切り捨てた。
「そう言えば、シャルロットはどうしているかな? ひょっとしたら俺たちを探しているかも知れないぞ」
「そうですね。かれこれ一日以上経っていますから、ズボラな彼女でも心配するのではないでしょうか」
いつもの秘書らしさを他所に、クラウもシャルロットに対しては容赦ないようだ。
もっとも、彼女とセブンスたちとの出会いも、決して良いものではなかった。
「欠席裁判はよくないぞ」
「それはどうでもいい話でしたね。脱線して申し訳ありません、セブンスさま」
「ああ、そうだな。それで脱出方法なんだけど、ちょっと提案があるんだ。素人の考えることだから笑わないでくれよ」
「誰も笑いませんわ、ダーリン」
「ありがとう。え~と、地下を通れば結界に触れないで出られるんじゃないか?」
「まあ、素敵!」
「名案ですね。さすがセブンスさま」
「お兄ちゃんはやればできる人なの!」
三人は名案だと言ってくれたが、ミスティーだけは渋い顔をしている。何か問題でもあるのだろうか?
「ミ、ミスティーさん? 問題でもあるのか?」
「どうやって、地下を通るの? その方法は?」
「魔法をぶっ放してトンネルを掘る」
「セブンスさま、それでは結界に触れなくても気づかれてしまいます」
「それは……そうか……」
「でもね、それは名案なのよ。わたしが気にしているのは地下を通る方法なの」
「力ずくでだめなら、どうしたらいいんだ?」
セレスティーが妖艶に笑いながら、右手を胸元に突っ込んでいる。
何を勘違いしているのかセブンスがセレスティーの胸元を顔見しているが、彼女は全く気にしないで何かを取り出した。
「それはね。これを使うのよ」
水の精霊ミスティーが取り出したのは琥珀色をした透明な球体であった。
「あっ、精霊の卵だ!」
フェルの言う通り、それはロキたちの牢屋の中で見つけた精霊の卵だった――
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