第2話
そして彼女は電車の中で本を読んでいた。
一見小学生かと思うくらい幼い容姿の彼女は白と紺のセーラー服を着ている。
見たことのない制服を着ている彼女は、本を真剣なまなざしで読んでたまに笑っている。
クスッと笑うその横顔を見ていると、俺も知らず知らずのうちにニヤニヤしてしまう。
はたから見れば完全にロリコン変態なので自主規制したいのだが、気が付くと長くまっすぐ伸びた黒髪の彼女に目が釘付けになっている。まるで吸い込まれるように。
あ、俺は別にロリコンじゃないからな。たぶん。
俺が彼女を初めて見たのは1か月前、ちょうど入学式の日だった気がする。
その日も彼女は1人で黙々と本を読んでいた。
その時は単純に可愛いなと思っただけだったが、次の日、同じ電車の同じ場所にいる彼女を見たとき、俺はいつの間にか彼女のことが好きになっていた。
か弱くすぐに壊れてしまいそうな彼女を守ってやりたいと思ったのかもしれない。もしくは、年下で真面目そうで清らかそうな、そういうステータスを好きになったのかもしれない。
正直彼女のことがなぜ好きになったのかなど、当事者である俺にも分からなかった。どこが好きかと問われれば、全部好きだし、別に理由なんて必要ないと思う。
今までチラチラ、時にはマジマジ見ていただけのただの気持ち悪い奴だったけど、今日こそは告白しようと思う。
もしかしたら付き合えるかもという淡い感情を抱きながら、いつもの電車に乗る。当然のように彼女は立ったまま本を読んでいた。
そして今になって気が付いた。あれ?どうやって告白するべきなんだ?電車の中で告白って超恥ずくね?
しかし、時はもう遅い。
そんなことを考えている時にはすでに片手は彼女の肩に触れていた。ここで何も話さなかったら、完全に痴漢である。
「あ、あの……」
彼女の顔がゆっくりとこちらを向く。困惑している様子は初めて見た。やっぱりかわいい。
「えっと……、その……」
なかなか言葉が出ず口ごもんでいると、彼女はクワッと目を見開き、そしてなぜか赤くなり、うつむいた。
「????」
俺が困惑していると、やがて電車は次の駅へと着いた。軽快な効果音とともにドアが開く。
それと同時に彼女は俺の手首をつかんで電車の外に走り出した。まるでこれを待っていたかのように。
え?え?え?俺は驚きすぎて、ただただ彼女に引っ張られるままでいる。彼女の小さな手が俺の手首を強くつかんでいた。
やがて駅の端っこまで来たとき、キョロキョロと誰もいないのを確認した彼女は、またもやクワッと目を見開き叫んだ。
「あんた、バッカじゃないの!?なんであんな所で告白しようとしているわけ!?」
俺はなぜ彼女に告白しようとしたことがバレたのかという疑問などこれっぽっちも思わず、ただひたすらに、蔑むように俺を見てくる彼女に驚いていた。
俺が数分前まで想像していた彼女は、もうそこにはいなかった。
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