日常に紛れる

湯川李也

鈴が鳴る


母が亡くなって、三年が経った


平均よりは少し若い寿命だったように思う


それでも孫の顔を見せることができたし、最期を看取ることができたので悔いはない


最近、5歳の娘が「鈴が鳴っている」と言ってくる


私には聞こえないので、近所の飼い猫が路地などを通っているのだろうと思い気にしていなかったが、娘があまりにも「鈴が鳴っている」としつこいので、私も聞こえない鈴の音が気になっていた


子どものときには、いろいろ見えたり聞こえたりすると聞いたことがあるなと、何と無しに考えていたら、ふと亡くなった母との約束を思い出した


「あの世があったら鈴を鳴らしたる」


母は亡くなる前にそんなことを私に言っていた


そんな約束をしたことをすっかり忘れていた私はまさかとは思ったが、一度思い出したら気になってしまい、その日は母の大好物を供えることにした


もう娘は「鈴がなっている」と言うことはなくなったが、私は鈴の音が聞こえなくても母がいつも見守ってくれているような、そんな気がしている。

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