Observerに語らうな
未来への階段を上る足音なんて表現をすれば、まるでこの平凡な毎日でさえ意味のあることのように思えてくる。
不思議なものだけれど、人間なんて所詮そんな風にできているのだ。見方ひとつ、考え方ひとつで、どのような意味付けだってできる。自分の周りの世界さえ大きく景色が変わってみえる。
だから、川村直葉が言うように現実なんてものは「観測されるかされないか」よりも、「観測者がだれか」のほうが遥かに大切なんだ。どこからの視点で見られているのか、または見ることができるのか。それに大きく左右されている。
猫の入った箱を開けることよりも、開けた後に誰がのぞき込むかが重要で、それによって結果はいくらでも変化する。
「ねえ、だったらスグハは今、どこに向かって歩いている?あなたの足は、本当にあなたの望んだ未来にたどり着ける?」
スグハのことを観測しているのが、もしも私なのだとしたら、私は彼女のことをどのように見てあげられているのだろう。私の視点ひとつで彼女という存在が、そして未来が変動するのだとしたら、私はその責任を全うできるだろうか。
「そんなことはできるはずがない」
彼女の未来の必要条件に私がいるなんてこと、あってはならないし、私にはとても耐えられない。そんな大きな責任を受け止められるほどの器量は、私にはない。
ならばどうしたらいい。彼女が彼女であるためには。私の観測から解き放って、自由になってもらうためには。
「考えるまでもないでしょう。そんなこと簡単に決まっている」
私は両手で耳をふさいで、両方の目をしっかりと閉じた。なにも見えないように、なにも聞こえないように。
まるで呪いのように。
そうしたら、すぐにわかった。川村直葉とは、いったい誰だっただろうか。
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