第三走 はじまりはいつも雪と氷

 走り始めて3か月弱経った頃でした、良く行くアウトドアスポーツ用品店主催の持久走大会のことを知ったのは。五キロと十キロがあり、参加費も千五百円程度とお手軽で規模もそう大きくなく、敷居も低めで、初心者でも気軽に参加できそうでした。


 そもそも運動不足解消の為、自分自身の健康維持の為に走り始めたわけで、大会に出て人と競うのが目的ではありませんでしたし、自信もない私でした。


 しかし数日悩んだ挙句、何事も経験かなと結局申し込みました。家族を連れて行こうかとも思いましたが、何せ外は寒いので走者はいいでしょうが、動かずに応援するだけの人間はたまったものじゃありません。たった一人で大会に乗り込みました。女は度胸です。


 小規模な大会ですし、二月終わりに自然公園の中雪上氷上を走る物好きはそう多くなく、五キロと十キロ合わせても五十人ちょっとだった記憶があります。初めての大会、スタート前それは緊張しましたね。周りには走り慣れていそうな細マッチョ君に細マッチョちゃんが大半を占めています。皆さん速いのだろうなー、まあ私は自分のペースで行くべ、と走り出しました。


 スタートとゴール場所は一緒、五キロも十キロも同時に出発です。五キロの私は最終走者になることはないだろうと気楽に構えることにしました。コースは公園内の雪の上、途中凍った川を渡り中洲を一周し、戻ってきました。踏み固められた雪は状態も良く、足を取られることもありませんでした。速度もいつも朝走っているように行けばいいのだからと自分に言い聞かせながら終始一定に保ち、初大会無事完走できました。


 気になる結果ですが、当時私は39歳、30から39歳女子の部の最年長です。つい最近まで二十代だったお姉さんたちには初心者のオバチャンが太刀打ちできるわけないわー、やっぱり後ろから数えた方が早いわーでした。しかし、次の年には40から49歳女子の部の最年少ぢゃあないか、もっと好成績を狙えるかも、なんて欲も少し出てきました。


 さてレース中、最後二キロくらいずっと私と同年代の女性と若いお兄さんの三人でくっついて走っていました。ゴール直後にその女性が「最後ずっと一緒に走れてよかったわー」と言ってくれ、はっと感動しました。いえいえこちらこそ、お姉さん。そうなのです、それぞれが自分の目標を持って走っているわけですから、別に前を行く人をなるべく抜かすことだけが目的ではないのです。個人競技ですが、ペースが合う人と一緒に走ってお互い支え合う事も出来るのだ、ということを知りました。


 ところで若いお兄さんの方なのですが、私のすぐ後ろで道中ずっとゼーゼーハァハァと息がうるさく、少々うるさかったのですね。大丈夫か、と心配になるくらいでした。さて、大会の後に写真が出来上がってきて、楽しみに見てみると私が写っていた写真四、五枚全て私のすぐ後ろに苦悶の表情を浮かべたハァハァお兄さんが写っておりました。流石格安の大会、カメラマン一人だけ(居ただけましか)ずっと一か所で撮っていたのでした。


 初大会ということで、ハァハァお兄さんが非常に邪魔でしたけれど記念に一枚買ってしまいました。その写真を見た従弟のフユオ君(冬彦ではない)が「ラーメン食い逃げ中?」と謎のコメントをくれました。ラーメン? そう言われてみればハァハァお兄さんはあのラーメン好きの藤〇不〇雄漫画のキャラ、小池さんのような天パーの髪です。


 走り始める前は気の遠くなるような長距離に思えた5キロを完走した私は、小池さんに追いかけられている写真でさえ買ってしまうくらい、満足感に満たされておりました。今ではいい思い出です。



***次回予告***

次は何と10キロ走に挑戦します。

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