懐かしい思い出


 放課後には、帰り道に懐かしいヤツに会った。

 山地優以やまちゆい。中学までが同じだった親友だ。

「久し振りだね、優以」

「美優? 久しぶりー」

夏樹は高校からの友人で、親友に変わりは無いが優以の方が付き合いは長い。

「二年ぶり?」

「それくらいだね」

優以の言葉に私は答える。

「懐かしいねー」

私達は昔話をしながら一緒に帰った。

 小学校から同じだったから、家も近所だ。

「高校はどう?」

「そっちは?」

「質問に質問で返すなよ」

「ごめん、ごめん」

こんな気の置けないやり取りも懐かしい。

 こんなぽんぽんした言い合いの延長線で、優以とは一回だけケンカをしたことがある。

 他の子とは小学校から高校の現在まで一度も無い。嫌われるのが怖くて、喧嘩するのが怖かったからだ。

 ケンカになりそうだったら、私から謝るか、理不尽なことも我慢してた気がする。

 小学校の時から親友だった優以とだけ。ケンカをして、優以は言ったんだ。

「なんで怒ってるのかも分からないのに、謝るなよ!」

図星だった。どうして優以が怒ってたのか私はわからなかった。

「どうして怒ってるのか教えてよ。直すから。仲直りしよう?」

今となってはケンカの理由は忘れてしまった。ケンカをしたと言う少し嫌な記憶。でも正しい仲直りの仕方を覚えたような気もする。大切な思い出だ。

「そういえば昔さ、あたしらケンカしたことあったよね」

「あったねー」

丁度のタイミングで優以が言うから、私も素で返す。

「なんでケンカしたか覚えてる?」

「ごめん、覚えてない」

私が申し訳なさそうに言うと、優以が笑いだした。

「私も! 覚えてない」

無性にほっとした。

「でも、怖かったなー。優以が怒ってる理由がわかんなくて。仲直りしたくて」

「懐かしいな!」

何年か経てば笑って話せるようになる。だから、嫌な記憶も、大切にしたい。

「ケンカと言えばね、部活の先輩がさ」

私は優以に話す。葉月先輩のことだ。

「部の空気が悪くなって、喧嘩になりそうだった時に言ったんだ。

 『ケンカすれば良い! ただし、今日だけだぞ。思いっきりケンカして、仲直りしろ。そーすれば元通りだ。溜め込む方が良くねーんだよ!』

 『仲直りするための喧嘩だ!』って。」

「面白いこという先輩だね……」

「うん。でも、こんな考え方もあるんだ、って思ったし気が楽になった」

「部の皆は? 上手くいったの?」

「うん」

なんだそれ、って誰かが笑いだして、いつの間にかみんな笑ってた。

 溜め込むのをやめて、喧嘩にはならなかったけど皆思ってたことを話して、話し合って解決した。

 あの、いつの間にか笑ってた部員の中心。そこにいた先輩が、私は忘れられない。頼もしくてかっこ良かった。

 そう言うと、先輩は気まずそうに「俺の部長としての力不足が招いた結果だからな。せめて自分で収拾付けられて良かったよ」と笑うのだ。

 先輩にとってはあまり良い思い出では無いのだろう。でもその一瞬を先輩と共有できたことが嬉しくて、私にとっては大切な思い出だ。

 ――共有したい。先輩と過ごした短い時間を、一瞬でも溢してしまいたくない。

 そんな思いが溢れて来た。

「美優、その先輩のこと好きでしょ」

いきなりの優以の言葉に戸惑って、でも頷く。

 この親友に隠し事は通じないし、隠したってしょうがない。

「わかる?」

「うん。急に黙ったと思ったら、なんだかほくほくした幸せそうな顔してるからさ」

「ナニソレ」

私は笑う。

「んー、乙女の顔」

顔からぼっと火が出そうだった。

「あはは、美優真っ赤!」

そのあと、優以には散々からかわれた。先に私の家の前に着いて、そこで優以とは別れた。

 少しくらい嫌な記憶だって、大切なことに変わりは無い。短い先輩との時間に、作ることの出来た折角の思い出。

「いつか――」

先輩とも、優以と話したみたいに笑い話に出来るのかな。

「出来たら、良いな」

私はエレベーターで自分の家まで上がって行く。

「そういえば」

その時ふと、優以との記憶が蘇った。


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