私、この子と生きていきます
@lady_and_tramp
- はじまり -
「由美はさ、結婚しないの?」
もう何度目だろう。私は何度もこの言葉を耳にしてきた。両親、親戚、友人、同僚など世間は私に結婚というものを押し付けてくる。
女の幸せは結婚だ!子供を産む事だ!なんていったい誰が決めた事だろう。
「もう30歳手前だよ、そろそろ良い相手でも見つかった?」
余計なお世話だ。私だって好きで28歳にもなって、彼氏いない歴=年齢を貫いているわけじゃない。
「私もさ、来月出産予定じゃない?子供産まれちゃったらこうやって二人で集まり辛くなるじゃん。それはなんていうか、寂しいし。それに、私は由美が心配でさ」
「はいはい、おめでたおめでたー。別に心配されなくたって平気だよ私は」
「うわ!由美ってほんとなんて言うか………そういう照れ隠し好きだよね!」
「ちげーよ!!!でもさ、ほんとるったんが間もなくママになるってちょっといまだに現実味が無いんだよね。そのお腹だって太っただけじゃないかって思っちゃうし」
「うっせーよ!」
そう、私の幼馴染でこれまでずっと仲良しだったるったんこと吉田瑠美子(旧姓:河野)は、去年の2月に結婚したばかり。5月の下旬が出産予定日だ。
るったんのお相手はこれまた幼馴染の吉田達也君。たっちゃんは昔っからるったんの事が好きで好きでずっとアピールしてきた。その間に挟まれる私の身にもなってほしい。なんて言ったってどう考えても私は邪魔者でしかなかったからだ。
まあ、それでも毎日が楽しかったし、少なくとも今もるったんとこうやって毎月ご飯食べるのだってもちろん楽しい。照れ隠しとは言われてしまったけれども、私だって寂しくないわけではない。それでもこの夫婦には幸せになってほしい。だって、昔からの仲でずっと応援してきた二人だったから。
「まあさ、子供産まれたらちゃんと病院にもいくしさ、外食はできなくても家に遊びに行くから」
「由美、ありがと。待ってるよ!たっちゃんも由美は彼氏できたのかーとかよく聞いてくるし彼氏でも連れてきなよ」
「うるせーわい!あいつあとでとっちめてやる」
るったんは豪快に笑った後にスマートフォンの画面を見て一言出ようかと言った。
そうして二人で店を出た後に私は由美を自宅まで見送る。
「由美、いつもありがとね」
「良いってば、私が子供産む時は逆になるんだからね」
「お?相手もいないのに結婚宣言ですか!?」
「はあ……懲りないねほんと」
私は彼氏を作る予定も一切無い。自慢じゃないが恋をした事も無い。誰かを好きになるという気持ちは、映画や漫画を見て知っている。でもそれを自身で体験した事が無いのだ。別に大切な人がいないという話ではない。大好きだったお祖母ちゃんが亡くなった時は大学生にもなって声を上げて丸一日泣いていた。人が亡くなるというのはこんなに現実味が無くて、それでも確かに悲しいものだし、お祖母ちゃんにきちんと感謝を伝えられたのだろうかとあの日感じた事だって今でも覚えている。
感情はもちろん持っている。私だって人間だ。しかし周りとは少し違う。生まれてこれまで恋をした事が無いというのはあり得ないらしい。
でもそんな自分を嫌になったりはしない。自分は自分でしかない。幸せとは客観的に見るものではなく主観的に見るものだ。私には親しい友人がいる、両親だっている、仕事は…ほら、色々あるけど幸せだと思う。
そんな事を考えながら歩いているとるったんの自宅についた。都心から少し離れたところではあるが一軒家だ。たっちゃん……君がローン組む時に必死で私に相談してきた事は墓場まで持っていくから安心してね。
「それじゃあ、由美!見送りもありがと!今度は子供産まれた時かな!」
「そうだね、落ち着いたくらいに連絡ちょうだいよ」
「OK!任せなさい!」
親指をぐっと立ててこちらににかっと笑顔を向けてくる。なんとなくだがきっとるったんの子供はこんな風に笑うんだろうなと、本当に、特に理由も無いが何となくそう感じた。
私は手を振りつつ無事産んで戻って来いよと告げてやった。おうと返事をしたのを聞きながら帰路についた。
これが大好きな幼馴染るったんとの最後の会話だった。
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